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第4話 伊藤真尋という女2

 真尋と男が座りだして暫くの後、二人は食事を挟みつつも結構盛り上がっているみたいで正直煩い。移動するのも癪なので目を瞑りうたた寝をしてやり過ごす事にした。




「そういえば真尋、冬休みにサークルで旅行行くらしいけど行くの?」




「うーん。忙しいし本当は行きたくなかったけど、女の子の費用は先輩持ちみたいだし行ってもいいかなーとは思ってる」




「はあ?そこまでして誘うとか下心見え見えじゃん。てか行先は?」




「場所はまだ決めてないみたい。どうかなー、確かにソレ目当ての人は何人か居そうだけど」




「今からでも断ろうぜ。噂だと他のサークルからも可愛い子呼んでるみたいだし、ぜってぇソレがメインだって」




 真尋が入っている運動系サークルは学内でもあまり評判がよくない。サークル活動として頻繁にスポーツ大会の様なものを催しているが、その後には必ず飲み会という名の狩場が用意されている。頻繁に女生徒を誘い旅行をしているイメージだが、メンバーの中にお坊ちゃまでも居るのだろうか。




「新歓で騙されて酔いつぶれた私を、悪びれもせずお持ち帰りした彰に言われてもなー」




「ぐっ...、それを言われると言い返せねえけど、真尋も酔ってるとはいえ思わせぶりな事言ってくるし...」




「あはは!後ろめたさは感じてるんだ?シてる時は随分幸せそうだったけど?」




「ちょ、そりゃ仕方ないだろ!...ったく、俺だってあんな切っ掛けじゃ無ければもっとな...」




「別に良いけど、いい加減彰もちゃんとした彼女作りなよ?」




 俺は何を聞かされているのだろうか。近くに俺しか居ないとは言え朝っぱらからする会話でもないと思う。さっさと店を出て欲しい。




(ギリギリまで寝てから『転移』するか...)




 少々リスキーではあるが人気の無い場所は幾つかあるので大丈夫だろう、という事で弱めの『睡眠(スリープ)』を自分に掛けた。




「それに前も言ったけど私好きな人居るしね。まあ、向こうは私の事なんて何とも思ってないだろうけど...」




「いつも言ってる奴?同じ大学なんだろ?一回会わせてよ」




「会ってどうすんの?」




「真尋の事どう思ってるか聞きたい。真尋も脈アリかナシかはっきりさせたくない?」




「それは...そうだけど、今は遠慮しとく。遊んでる男の子とは会わせたくないし、そもそも頼んだところで無視されると思う」




「無視って、それはもう関係終わってない?何でまだ好きなの?」




「何でって言われても...理屈じゃないんだよね。それに元はと言えば私が彼を裏切ったし傷付けたから、無視されても仕方ないかなって思ってる」




 裏切ったし傷付けた...。彰という男はその言葉を聞いて、顔も知らない男に僅かに同情してしまった。彼が真尋と出会った当時、真尋はもう既に先輩連中の中では良くも悪くも有名な生徒だった。美人でエロい体をした、簡単にヤれる新入生として。




 真尋の話を聞いている内に、真尋とその男が幼い頃からの付き合いだというのは察せた。その男が真尋をどう思っていたのかは分からないが、仮に好きだったのだとしたら...。俺なら想像しただけで吐き気がする。




 彰というこの男にも中高と片思いを続けた相手がいた。しかし彼女は高校生になってあっさりと彼氏を作ってしまい、SNSには今でも仲睦まじい写真が度々アップロードされている。




 そこまで仲が良いと幾ら好きだったとしても諦めがつくというものだ。あぁ、本当に幸せなんだなと割り切れる。しかし真尋の場合は特定の相手が居るわけでも無く、むしろ好きな男が居るのに他の男と頻繁に肉体関係を持っているのだ。彰の様にやりたいだけの男にとっては真尋の存在は都合が良い、真尋自身も好きな男から相手にされない寂しさを、男と寝る事で紛らわせている様に思える。




 そんな事、すればする程本命を軽蔑させるだけだというのに...。




(まぁ、俺にとっては今の方が都合良いしどうでもいいけどな)







「やべ、あと5分しかない」




 割と本気で寝てしまっていた俺は慌ててドリンクを飲み干す。どうやら隣の二人は既に大学へ向かった様だ。




 店を出た俺はいつもの路地裏へと向かい周囲に人目が無い事を確認する。




(入り口から一番遠い棟の裏手、あそこなら誰も居ないだろ)




 午後ならともかく、午前から大学の裏手に(たむろ)している生徒はそうそう居ない。そう踏んだ俺は『転移』を使った。




「あっ」




「きゃあ!?え?今どこから...」




 転移をした先、人気が無いと思ったその場所には一人の女性がスマホを片手にぽつんと佇んでいた。良く見ると随分目が腫れている、泣いていたのだろうか。




 口をパクパクとさせながら驚いている彼女を一瞥し、俺はどうやって誤魔化すか必死に言い訳を考えていた。

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