第1話 プロローグ
俺は今日、元恋人である斎藤アイラに再アタックする為、彼女が住んでいるマンション前へと来ていた。話がしたい旨と夜少しだけ時間をくれないか、とトークアプリのBOINで彼女へ連絡をしたのだが既読無視されている状態だ。
アイラは今時の女子高生とはちょっと毛色が違い、どちらかというと昭和の時代に良く居そうな芯のあるヤンキーである。両親も彼女にはそれなりに厳しく、遅くとも夜の８時には家に帰っていたと思うのだが...。
「もう一時間経ってる...。やっぱまだ怒ってるかな」
彼女とは不良と揉めている俺を助けてくれた時に出会ったのが切っ掛けで一目惚れし、意外にも意気投合したので俺から告白した。一本筋の通った信念を持つ彼女に俺は惹かれたし、二人で居る時は一転して良く甘えてくる彼女のギャップに心底惚れていた。
「まあそりゃ怒るよな、付き合って一年の記念日忘れるとか」
当時は家族や友人関係で問題が噴出していた為完全に忘れてしまっていたのだが、過去の行いを悔いてももう遅い。本音を言えばそれ以外にも色々な不満があったんだろう。実際アイラを怒らせる事は良くあったし、当時の俺は恋愛経験値等０に等しい単なる非モテだ。アイラが付き合ってくれたのも偶然が重なっただけの棚ぼた的なものだったとすら思えてくる。
「今10時か...12時迄待ってみよう」
溜め息を吐いて玄関から少し離れたところにあるベンチに座り込む。少しすると一台の高級車が玄関前に泊まった。中から出てきたのはどこかで見た事のあるようなイケメンと見慣れた後ろ姿。
「アイラ...？」
何かを話している様子だがここからじゃ何も聞こえない。
「『五感強化』...」
「アイラ...今日はありがとう。俺としてはあのまま一泊したかったんだけど、アイラの御両親マジで厳しいね」
イケメンは爽やかに笑いながら不穏な事を言う。
「バカ...。アタシだってそうしたいけど一応女子高生だぞ？でもまあ、今度母さんに頼んでみる」
「本当？じゃあ来月のイブで聞いてみてよ。今日よりももっと良いホテル予約しとくからさ、次は一晩中イチャイチャしよう。」
頭が真っ白になった。俺が行方不明になっていた期間は日本では三ヵ月位だ。アイラはその期間にどこかであのイケメンと知り合ったのか、二人は友達という感じでもなく明らかに男女の空気を醸し出していた。
「んっ、分かった。まあアタシは別にいつでもいいけどよ...」
二人はその後も雑談を交わした後、そのままアイラがイケメンにキスをしようとしたのだが、俺は無意識のうちに自室へ『転移』し呆然としたまま自身へ『睡眠』を使った。
