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第23話 幕間~洞窟調査~

 とある世界の、アスラッドと呼ばれる人口約50万程の王国。




 同国を拠点として活動している冒険者…()()()()()()()は国からの依頼を受け、ゴブリンの集団が居を構えていたとされるある洞窟へと足を踏み入れた。


 


「内部の様子はどうでしょうか…ガストン」




 ガストンの耳元に下げられたイヤリング越し、アスラッド王国の王女が問いかける。




「どうもこうも……今の所は只の巣穴だな。気配が一切感じられない事を除けば…だが。とりあえず奴等の居住区らしき所を目指してみるぜ」




「転移が使えるとは言え、無理は禁物ですよ?万が一危険な状況に陥った場合はすぐに伝えて下さい。念の為手隙の兵も向かわせていますので」




「了解」




 ガストンが調査を依頼された洞窟は、アスラッド王国から馬で約30分程の場所に位置する小ぶりな山の麓に存在する。




 冒険者の一団によって発見されたこの洞窟は、観測調査だけでも相当数のゴブリンが居ると予測された為、王国へと歩みを向けない様適度に監視と牽制が行われてきた。幸いにもゴブリンが王国へと歩を進める気配は見られず、暫しの緊張状態が続く事になる。




 状況が一変したのはガストンが王国へと帰還する少し前の事だった。突然騎士団本部に()()()()()姿()()()()()との報告が寄せられたのだ。




 この報告を受けた国はすぐさまゴブリンの捜索を兵へと命じた。しかしどれだけ捜索範囲を広げようとも、周囲には足跡や排泄物、狩りの跡といった痕跡一つ見られない。




 となれば残るは洞窟内部の調査だが、仮にゴブリンが内部に残っていた場合、一般兵の練度では甚大な被害を被る可能性が予測された。国としては街の復興で慢性的な人手不足に頭を悩ませている為、兵を失う可能性のある作戦行動は極力避けたい。




 故にいつでも戦線離脱が可能な「転移」を使えるガストンが、今回の調査の適任者として派遣されたのだった。




「ゴホッ…ゴホッ……。しっかし臭えなあ巣穴は。何回潜ってもこの臭いだけは慣れねえぜ」




「話では聞いた事があるのですが、それ程に…?」




「ああー…、まあ何と言えばいいか……まず奴等にはトイレの概念が無くてな、あちこちで垂れ流し放題、獲物の血や食べかすなんかも放置。それに加えて水浴びもしやがらねえもんだから、臭いを通り越してこの空間の全てが毒みてえなもんになってやがる。命辛々ゴブリンには勝てても、傷口から悪いもんが入っちまって命を落とす。なんて奴も珍しくねえんだ」




「想像しただけで気が滅入ってしまいました…。出来れば一生入りたくは無い場所ですね。ゴブリンの巣穴というのは……」




「仲間が攫われたり、今回みたいな異常でも無けりゃあ、俺達冒険者だって入りたがらねえさ。駆除するだけなら、何とかして押し込んだら入り口を崩すか塞いでやるだけで充分だしな......お?どうやら着いたみたいだな」




 幾つかの分岐を越えた先、ゴブリンの群れが寝食を共にしていたのであろう空間の一つへと辿り着く。




 周囲は血や糞尿に塗れており、其処彼処(そこかしこ)に骨や肉迄もが散乱している有様だった。




「これは…」




「何か発見されましたか?」




「あぁ…いや、服を見つけちまってな……。大半は大人だが、子供用の服もちらほらあるな」




「子供……」




 投げ捨てられた衣服の上、折り重なる様にして捨てられていた小さなスカートやズボン。そのどれ等にも引き裂かれた様な痕があり、着用者がどの様な結末を迎えたのかは容易に想像出来てしまう。




「それよりも王女さん。この巣穴の監視はいつからだって言ってた?」




「えーっと、報告書によると18日前ですね。あなたがレイヤード国へ旅立ってから4日後の事です」




「監視体制はどうなってた?」




「日によって多少のばらつきはあった様ですが、基本的には派遣された兵5人と依頼を受けた冒険者が20人前後。交代で監視をしていたとの事です」




「ふむ……」




「ガストン?」




「血の色、腐り方から見ても間違いねえ。少なくともここに居た奴等は監視が始まった後に食われてる」




「それはつまり……、ゴブリンが兵や冒険者の目を掻い潜って人を襲ったと?」




「いや、奴等にそんな芸当は出来ねえよ王女さん。ざっと見ただけでも結構な人数だ。第三者が態々連れてきたって事しか考えられねえな…。転移を使ったのか、それとも別の方法を使ったのかは分からねえが…」




「そんな馬鹿な事…この期に及んで一体誰が……」




「分からねえ。一瞬また貴族の奴等が悪巧みでもしてるのかとも思ったが、仮にそうだとして、ゴブリンなんかを生かしてた意味が分からん。どこかを攻めるにしても、戦力としちゃ下の下だぜ」




「貴族……。レナラ伯爵の一件以降、父上や私の腹心が監視を続けていましたが、魔王が倒れるその日までに怪しい動きを見せた者は居ませんでした。どこかへ逃げ仰せた魔王派が、上手く隠れている可能性は否定できませんが…」




 魔王派…それは魔族と取引をした等として、自らの益を優先した裏切り者の総称である。




「ああ。言っといて何だが、俺もそっちの可能性は低いと思ってる」




「だとするなら、もう……」




「十中八九、魔族が絡んでるだろうな」




 魔王との戦いに至るまでの道中、幹部魔族と呼ばれ名を轟かせていた者達は全て討伐している。




 しかしそれ以外の魔族…言ってしまえば取るに足らない者達に関してだが、各国は今も尚静観の姿勢を取っていた。




 その理由は単純に、魔族の総数や動向をそもそも把握出来ていない点、戦後始まった開拓や復興で、どの国も人員を割く余裕が無いという点から起因しているものだった。




「はぁ…。分かってはいましたが、やはりそう簡単に全てが落着とは行かないものですね。やはりすぐにでも残党狩りを決行するべきなのでしょうか?今はどこも手一杯だというのに…」




「まあ…個人的には残党狩りとまで行かねえでも、動向を探る位はやっとくべきだと思うがな」




「そう…ですね。父上にも相談してみます。何にせよ、今回の件は少々不気味な感じがしますから」




「おうよ。仕事があるならいつでも言ってくれ。暫くはこっちに居るからよ」




「……でしたら早速、お願いしても良いですか?先日、ダイチ様の送還に割り込んだ魔族3体。その3体と繋がりがありそうな者の目撃情報を手に入れたと近衛から聞きまして、今回の件とは無関係である可能性が高いのですが…、可能ならあなたに一任するべき案件だと考えていました」




「おいおい本当か?聞かせてくれ」




「西地区の大通り沿い、外壁から一番近い宿屋の主人が勇者送還の5日程前に4人組を宿泊させたみたいなのですが、その内の3人の特徴が例の3体と酷似しているのです」




「なるほどな。協力者が居た訳か」




「恐らくは」




「それで、後の1人の手掛かりはあるのかい?王女さん」




「主人曰く、その4人からはカラル山に群生している花の独特な香りがしたのだと。その花についても調べてみたのですが…その……男性特有の物と非常に香りが似ているらしく、一部の好事家にしか売れ無い為特に流通しているという訳でも無い様です。あっても冒険者や旅人が物珍しさに惹かれて摘んで来る位だと」




「ああ、あの花か。実物を見た事があるが、確かに香りは殆どアレだな。おまけに見た目が良い訳でもねえから、人気が無いのも頷ける」




「正直手掛かりとしては薄いかもしれませんが……カラル山の調査。一度お願い出来ますか?」




「任せてくれ。早速明日にでも行ってみる」




「ありがとう御座います。あの、それとですね…出来ればで良いのですが…、その花を少量摘んで来て頂けないでしょうか……。今後の為にもサンプルは確保しておいた方が良いと思いますのでっ」




 先程迄とは打って変わって、どこか恥ずかしげな態度をとりはじめる王女。所謂匂いフェチの気があった彼女は、持ち前の素直さ故自らの好奇心に対して嘘をつく事が出来なかった。




「………拗らせてんなぁ王女さん」




 最もらしく述べられた理由に嘘偽りは無いのだろうが、その奥に透けて見える未知への探求心を垣間見て思わず苦笑してしまったガストン。




「…どういう意味かは分かりかねますが、妙な憶測はやめて下さい」




(世継ぎの為にも、そろそろ結婚相手を見つける頃合いなんだろうが…この調子だと少し心配になってくるぜ)




 大地より以前。過去の勇者達の殆どは当時の王女と婚姻を結び、異世界でその生涯を終えてきた。理由は様々だったが…基本的には勇者を手放したく無いという、王家の思惑があっての事である。




 それは現王女である彼女も決して例外では無く、本人も大地の妻となれる事を喜ばしく思っていたのだが……見た目とは裏腹に猪突猛進気味な大地は基本的に城には居らず、戻ったかと思えば旅先で加入したパーティメンバーから牽制を受ける始末。




 その他様々な障害が彼女の淡い期待を阻む事となり、碌に仲を深める事も出来ぬ内にまさかの魔王討伐。終いにはまだ戦勝ムードも醒めやらぬといった内に大地は地球へと帰ってしまった。




 結果、彼女は行き場の無い感情をどうするべきかも分からず、大地が忘れていった私服を胸に抱いては物想いに耽るばかりであった。因みにこれは彼女が匂いに目覚めてしまった切っ掛けの一つでもある。




「と、とりあえず調査を続行してください。くれぐれも気を付けて…」




「あいよ」




 その後も内部を隈なく探索したガストンだが、特にそれらしき痕跡が見つかる事は無く、血や糞尿に塗れた亡骸が辺り一面に散らばるばかりだった。






(まあ王女さんはいいとして、アイツは今頃何してんのかねえ…)




 ガストンもまた大地との別れを惜しむ人物の一人ではあったが、それと同時に彼だけが大地は帰るべきだとも考えていた。大地がこの世界では無い彼方(あちら)での後悔に引き摺られ続けているのは明白だったからだ。




 奪われる事、失くす事を恐れ、何かに囚われた様に戦い続けた彼の胸中…その中心には果たして誰が居たのだろうか。




 友人……恋人……あるいは………。




(願わくば…お前の後悔を吹き飛ばしてケツを叩いてくれる様な、良いパートナーが出来る事を陰ながら祈ってるぜ、ダイチ。そしていつかまた、皆で飲んで騒いで…焚き火を囲んで語り合いたいもんだなあ)




 終戦を迎え、徐々に動き始めた異世界の様相。各地では勇者の功績を讃えるべく大地の全身像が建てられ始め、長きに渡る暗黒時代から復興と発展の時代へと進みつつあった。










あとがき


皆さまお久しぶりです。長らく更新が滞ってしまい誠に申し訳ありませんでした。




それでは皆様、良い年末年始を<(_ _)>

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