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第20話 薄れゆく意識

「こんな時になんだけど、なんかサンタクロースみたい」




「それだと俺がトナカイにならないか?」




「ふふっ、トナカイじゃ不満?」




「…いや、走ってるだけの方が性に合ってるかも」




 何ということはない談笑に笑顔を浮かべる片澤。そんな彼女の目元には涙の跡が見られた。




 あの場を逃れて安堵した気持ちが今になって湧いて来たのだろうか。




「なんか、夢でも見てるみたい…」




 眼下に広がるのは大都会の夜景。既にクリスマスムード一色の街はイルミネーションの光も相まってより一層煌びやかに見えた。




「片澤…もうすぐ着くと思う」




「了解。私に出来る事、他にないかな?」




 石動はともかく河瀬という男の顔を俺は知らない。その為片澤には容姿の確認をお願いしてあるのだが…、折角なので石動のケアも頼んでおこう。




 万が一石動の身に何かあった場合、その心のケアは同性である片澤の方が適任だろう。




「石動を保護したら一緒に居てやって欲しい」




「任せて」






 因みにだが出発してすぐ、片澤には異世界転移の事を話す事にした。




 大学へ入学して半年も経たない頃に異世界へと召喚された事。


 向こうでは約3年間修行と戦いに明け暮れた事。


 共に戦った仲間の事。


 そしてその後力を持ったままこの世界へ帰って来た事を。




 かなり簡潔に話した為片澤にどこまで伝わったのかは分からないが、彼女は何を言うでもなく頷いていた。






「石動さん、大丈夫かな…」




 石動加奈…とある一件以降、今となっては高校時代を共に過ごしたたった一人の友人だと勝手に思っている。真尋という現実から目を逸らしたかった俺は、きっと彼女に出会わなければ既に壊れていたのだとすら思う。




 石動にとっては余計なお節介だったのかも知れないが、高校という狭い世界で孤独を感じていた俺は、同じく孤立した彼女と深く関わる事で自分の居場所を保っていたのだ。




 妹には話せないような事でも石動には話す事が出来たし、同じようにして悩みを話してくれる彼女の存在が何よりも俺を肯定してくれた。




 そんな彼女が東龍会等というチンピラ集団から不当に縛られているというのであれば、助けてあげたいと思う。




 しかしあのアパートと現場の位置関係上、片澤があそこへ連れ込まれる前には既にどちらかのマンションへ移動させられている可能性が高いだろう。無事で居てくれる事を祈るしか無い。







 アパートを発ってから10分も経たないという頃、目的地のマンションは見えて来た。




「片澤、見えて来た。降りよう」




「わかった」




 河瀬が所有する部屋はどちらも17階の◯◯号室だと片澤を誘拐した男は言っていた。幸いにも吹き抜けから内側に入れそうな為、空から直接17階の廊下へ降りる。




 目的の部屋はすぐに発見出来た。早速周囲に『結界』を張り防音化しつつ内部を『索敵』。




 …しかし反応が無い。もしかしてもう一つのマンションの方だろうか。




「…中に誰もいなさそうだ」




「え、じゃあ港区だっけ…、そっちに?」




「多分…。あっちは客を呼んだりパーティをする時にしか使わないとか言ってたけど...」




 河瀬はそれなりに警戒心が強いらしく、拷問をした男は最低限の情報しか持っていなかった。どこでなにをしているのか等は勿論の事、電話番号すら知らない始末だ。




 客…パーティ……、少しだけ嫌な予感がする。この手の連中が外部から人を招いたりパーティを催してする事等十中八九碌でも無い事だろう。




 ふと最悪なイメージが頭を過るがそれを振り払う。




「とりあえず行ってみよう。急げば数分も掛からないと思う」




「わかった!」




 俺は片澤を再び抱き上げ全速力で飛び出した。










「薬が効いて来たか?」




 意識が朦朧として思考が定まらない。どうでもいい事ばかりが脳内を高速で駆け巡り、焦りや苛立たしさの様な物が常に心を掻き乱す。




「あんた…、何打ったの」




 声を出すのもやっとという私を見てニヤついた表情を浮かべる河瀬。




「分かってるクセに一々聞くなよ。俺がいつも吸ってるのと…、後は少しの媚薬だ。同時に打つのはヤバいかとも思ったが、割と平気そうだな?」




「媚薬…?」




「ああそうだ。今日はお前の為だけに大勢のお偉方が来てくれてる。お前も良く文句言ってただろ?会食の度にエロい目で見てくるおっさん共がいるって。俺は気付かなかったが」




(このクズ…!!)




「そんな方達に抱いてもらうのに、マグロになられたんじゃ俺も申し訳が立たねえ」




 コイツは常々私と薬を飲んでからのセックスをしたがっていた。本当はこの機に乗じてそれを楽しみたいだけだろう。




「まあ安心してくれ。当然最初と最後は俺が抱いてやる。今日が最後だしな」




「……最後?」




 私の問いを聞いて鬼気迫る態度へ豹変する河瀬。この男も薬物を服用している為か、この頃は感情の起伏が特に激しい。




「ああそうだよ。俺もここまでするつもりは無かったがなあ、やっぱり腹の虫が治まらねえ。当然だろ?あれだけ尽くしてやったのにてめぇは心ん中じゃずっと俺を馬鹿にしてやがった!……いや、それだけならまだ許せたかもな。一番許せねえのはお前が未だにあの時のガキに惚れ込んでやがる事だ。俺が何をしてもそれは変わらねえだろう。だからお前とは今日で最後にすると決めた」




(あぁ...そう...)




 河瀬の言葉を聞いて悟ってしまう。


 明日には私という存在はこの世から消されるのだろう。この男が知りすぎた私を生かしておく訳がない。そう思うともう全てがどうでも良く感じる。結局私の人生はあのつまらない家族と学校、そしてこの東龍会という掃き溜めが殆ど全てだった。




 おまけに最後は好きでもない男達の慰み者にされて終わる。なんてくだらない人生だろうか。




 私を殺したのだとして、どうせ薬が切れたらみっともなく泣きじゃくって後悔するくせに…、コイツはそういう男なのだ。




(大地と片澤さんはどうなったのかな…)




 私が余計な企みをしたばかりに巻き込んでしまった彼女。今更何をと自嘲しつつも、彼女が無事であればと願ってしまう。




「あの子は…、どうなったの」




「あいつもお前と同じで今頃はオモチャにされてるだろうよ。なんなら聞いてみるか?」




 河瀬はスマホとメモ紙を取り出し番号を入力する。基本的に身内や極一部の部下以外は河瀬への連絡が禁じられており、河瀬自身も部下の痕跡をスマホには残さない。その為連絡を取る際はこうして一々手入力する必要があるのだ。




「何回も掛けてるクセに…、未だに番号も覚えられないのね。どこまで猿頭なんだか」




「へっ、その軽口も今日で最後だと思うと寂しいもんだな?」




 精一杯の罵倒をニヤけ面と嫌味で返される。




(悔しい…悔しい!)




 自身の行く末を知り、諦めたと思っていても尚湧き上がる感情。私の未来を奪った目の前の男が憎くて堪らない。どうせ死ぬなら最後にコイツを刺すぐらいはしてやりたい。




 しかし、拘束と薬の影響を受けた私の体は願いに反してピクリとも動かない。




「おう…俺だが、そっちはもう楽しんでんのか?」




(片澤さん…)




「あ?渋滞?今どの辺だ……、おいおい何時間掛かるんだそりゃ。おう、まあいい、こっちは先に楽しんどく」




 随分とくだらない理由で事が遅れている様だけど、あの様子では結末は変わらないのだろう。




「あっちはまだまだ掛かるみたいだな。んじゃまあこっちはひと足先に楽しもうや」




 服を脱ぎ捨てベッドに腰を下ろした河瀬は私の胸を掴む。




「ひゃっ⁉︎」




「お?予想以上に薬が効いてるみてえだな。こりゃ挿れたらどうなるか楽しみだ」




 いつもであれば不快感しか与えない筈の男の手。それが触れただけで体はのけ反り、視界がチカチカとする程の快感が私を襲う。




(何これ…怖い!)




 触れられる毎に快感で体は跳ね意識は薄れていく。河瀬はその後も私の体を弄び続けた。







「一人で楽しんでるとこ悪いが、そろそろ我慢できねえ。挿れるぞ」




(挿れる…?)




 何をどこに挿れるというのか、最早何もわからない。




 ()()()()()が私の上に跨る…、男が動く度に悲鳴とも嬌声ともつかない大声を発していた私の意識は暫くして途切れた。

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