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第18話 仕組まれた罠

「愛…人?」




 果たして目の前の女は何を言っているのだろうか。理解しかねるといった様子の片澤に石動が答える。




「勿論、アイツと後腐れなく別れるのが1番良いのは分かってるんだけど、友達と会うってだけで待ち合わせ場所まで見に来る奴だからさー、女の子の協力者が欲しかったんだよね。片澤さん以外の知り合いだと横の繋がりで漏れる可能性もあるし」




「そんなに?」




「そんなにだからこんな回りくどい事してるの。別れるって言えば泣いて土下座して縋り付いてくるし、それも振り切ったら今度は付け回したりしてくるし…、そこまでされたら怖くてそれ以上は出来ないよね」




 ケラケラと笑いながら話す石動。どこか他人事の様にさえ思わせる話振りは、最早抵抗する事を諦めている人間のそれだ。




「警察…はなんか意味なさそうだね...」




「無理無理。警察が役に立つならとっくに捕まってるって。アイツが死にでもしない限り私はこのままかな...」




 彼女の話を聞けば聞くほど同情してしまう。しかし協力出来るかと言われれば話は変わってくる。




 仮に彼女と大地が既にそういう関係になっていて、当人同士が納得しているのであれば、友人とはいえ第三者である自分が横槍を入れるというのも憚られたかも知れない。しかしもしその関係がバレてしまったら…、彼女もだが大地だって絶対に無事ではいられないだろう。




 そんな危険で不健全な関係へ、態々大地を進ませる様な事はしたくない。




 今大切なのは目の前の彼女への同情ではなく大地の今後だ、故に断る。そう決意した片澤だった。




「はー…、いっそヤクザがぶっ潰してくれたらいいのに」




「…石動さん。ごめん、やっぱり私は協力出来ないかな」




 少し意外そうな顔をした石動が片澤へ向き直る。




「…どうして?言っとくけど別に大地を無理矢理どうこうする訳じゃないよ?アタックして拒否られたら諦めるつもり…だし」




 片澤は先程自身が感じた事、考えた事を率直に伝える事にした。




 話すにつれてたちまち変化していく石動の空気感。出会った当初の様な鋭い視線が、彼女の目の前に座る自分を敵として再認識したのだと思わせてくる。




 過去を聞いて尚助けになれない事に申し訳無さを感じつつも、片澤は言い切る。




「…なので、協力は出来ないです。でも、それ以外で何か私に出来るなら...」




「片澤さん。自分の置かれた状況は分かってる?」




「それは…」




 分かってはいるがどうすればいいというのか。協力はしたくないし見逃しても欲しい。




 返す言葉が見つからないまま2人の間に沈黙が流れる。




「そういえば気になってたんだけどさ、片澤さんが着けてるそのネックレス。明らかに服と合ってないけど彼氏からのプレゼントか何か?」




「これは大…あっ、いや……お守りみたいなもので」




「今大地って言い掛けたよね?」




「言い掛けてないです」




「言った」




「いや、これは…お守りです......」




「ウソつくんだ?ふーん」




 嘘は言っていないが真実も言っていない。渡した本人が厄除けのお守りだとか何とか言っていたのだからこれはお守りなのだ。うっかり大地の名前を滑らせた事を悔いる片澤。




「そういえばもう一つ話があるんだけど、聞いてくれる?」




 片澤のハッキリとしない態度を見た石動は、もう一押しとばかりに更なる話を持ち出す。




「もう一つ…?」




「私が河瀬の女になった後の事。私も暫くしてから噂で聞いたんだけどさ、大地…私が何かに巻き込まれてるんじゃないかって、探してたらしいんだよね」




 石動の手に握られた紙コップが徐々に形を変えている事に気付き、固唾を飲んで続く言葉を待つ片澤。




「その話を聞いた時は嬉しかった。連れ出して一緒に逃げてくれないかな、なんて子供染みた妄想をして、アイツに抱かれてる時も常に大地を思い浮かべて何とか気持ちを保ってた…」




 何かのスイッチが入った様に吐き出し始める石動。その目は光を失っており、眼前の片澤を見ている様で見ていない。




「でもいつからかそんな噂も聞かなくなって、代わりにある話を聞かされた」




 グシャリと握りつぶされる紙コップ。




「その話って?」




「当時東龍会と少しだけ揉めてた女だけのスケバンみたいな変な集団がいてね…、私も少しだけ交流があったんだけど、そこのトップと大地が付き合いだしたのよ」




「え⁉︎」




 普通?の男子高校生とそんな子が何故付き合うのか、今の話だけでは全く見えてこない。好奇心を刺激された片澤が無遠慮に切り込む。




「因みに…なんで付き合う事に?」




「…片澤さんて意外と肝据わってるよね」




「えへへ、気になっちゃって…」




 苦笑しながら手を合わせる片澤。何とも危機感の感じられないその様子を見て少し我に帰る石動。




「大地の噂は当然東龍会内部でも広まって、何か変な男が河瀬の女を探してるって下っ端連中の耳に入っちゃったんだよね。で、大地がそいつらと揉めてる所を助けたのがその女って話。キッカケはそれだと思ってる」




「はー…なるほど」




「で!」




「ひっ!?びっくりした…」




「2人が別れたって聞いて以来、私はこのチャンスを待ってたの。だから片澤さんに協力をお願いしたんだけど、まさかもう彼女候補が居るなんてね」




「わ、私と大地は本当にただの友達だから!」




「それが本当なら良いけど…、大地ってパッと見冴えない癖に妙なのに好かれるから。あの頭のおかしい幼馴染とか」




 その最たる例があなたでは?という言葉が喉まで出てきてしまったが流石に突っ込む事は躊躇われた。




「ん?幼馴染?」




「聞いてない?見る度に男取っ替え引っ替えして……」




 石動の視線が片澤の背後へ移ると同時、その表情が驚愕に染まる。今朝仲間から聞かされていた話では、目の前の男は本来この場に居る筈が無かったからだ。




「え、誰?」




 片澤を無視した男は断りも入れずに石動のハンドバッグを手に取り、その底面を見せつける様にコンコンと叩いてみせる。




「盗聴器にGPS…仕込んでおいて正解だったな?加奈」




 言葉の意味を正しく受け取った石動が逆上する。




「なっ…!あんたそんな事までして、どれだけ女々しいのよ!」




「俺を裏切ろうとしたお前が悪いんだ。さっき迄の会話、全部聞かせてもらったぜ?この意味分かるよな?」




 そう言った男は眉間に皺を寄せて石動を鋭く睨みつける。一方的とはいえ大切にしてきた女が他所の男に懸想していたのみならず、自身への陰口を散々吐き出していたのだ。それを聞かされた当人としてはまさか穏やかではいられない。




「くっ…!どうするつもり?」




「諦めろって、お前を逃がさない様に何人も待機させてる。大人しく来るなら軽いやつで済ませてやるよ。女の方を見つけてくれた手柄もあるしな」




 怒りを抑えつつ冷静に…且つ淡々と話す男の姿からは、どう足掻いても逃さないという強い意志が感じとれた。




 それを悟った石動は、抵抗を止める事を選択した。




「ごめん片澤さん。結局巻き込んだだけになっちゃった」

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