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第10話 見せたくはなかった一面

 人は誰しも、見せたくない、見られたくない一面というものがあると思う。


例えばそれは、一人で過ごしている時の気の抜けただらしいない姿であったり、友人を陰で罵る醜い心であったり、度を越した何かへの欲望であったり、その対象や相手、理由も様々だ。




「だ、大地……なんで?」




 行方不明になっていた彼が戻って来た、そう母の口から聞かされて以降、相変わらず連絡のとれなかった彼。




 久々に見た彼の姿は以前とは随分違って見えた。線の細い印象があった彼の体つきは逞しく、どこか草臥(くたび)れたような顔つきは精悍で男らしく、彼が身に纏った雰囲気も何もかもが違っていた。しかしそんな彼と再会を果たしたこの空間は、私にとっては一番見せたくない物で溢れていた。




 無造作に脱ぎ捨てられた()()()()()()、辺りに散らばった形だけの()()()、部屋一面に残された行為の()。そのどれもが生々しく隠しようの無い事実を物語っているというのに、私はこの期に及んで自身の体をシーツで隠す。そんな私を一瞥して呟いた彼の言葉に、深い意味は無かったのかもしれない。




「―――だな」 




 拒絶するわけでも、非難するわけでもない。淡々と呟いた彼の表情からは、最早あの日の様な感情すらも感じ取れず、その事実がまたしても私の中に大きな()()を植え付けた。






 既に19時を過ぎ、ようやく旅館に到着した私達4人は、雑談もそこそこに配膳された豪華な食事を楽しむ。私と藤堂さんはあまりお酒に強くないので控えていたけど、目の前にある絶品を前にしてそれでは勿体ないと権藤先輩が促してくる。




 私も今日くらいはいいかとちびちび飲み始め、それに続いて藤堂さんも出された日本酒を口へ運んでいく…。




 次第に酔いが回ってきた私と藤堂さんは、同じくお酒が入り良い気分になったのであろう男子二人の期待を含んだ視線を受け、段々と()()()()空気になってきた事を察した。




 そろそろ温泉も楽しみたいと言い出した藤堂さんが躊躇う事も無く男子二人の前でその身に纏っていた衣類を次々と脱ぎ捨てていく。私もそれに続き、一糸纏わぬ姿になった4人は露天風呂へ移動、すぐに始める事はせずそこで景色とお酒を楽しんだ。




 温泉で飲むお酒は次第に私達4人の()()()()()()()、権藤先輩が、山本君が、入れ代わり立ち代わり私と藤堂さんの全身を撫でまわす。それに応えるようにして私も彼等に触れていく…。そこから始まったのは獣の交わりだった。




 温泉で、脱衣室で、客室への通路で、トイレで、そしていつの間にか敷かれていた布団の上で、時々思い出したように取り出された避妊具は最早意味を成しておらず、私達は嬌声をあげながら4人で只々交わり続けた。




 (ひと)しきりお互いを貪りあった私達は、休憩を挟みながらも行為を続ける。そんな折、唐突に部屋への入り口が開け放たれ一人の女性が堂々とした面持ちでやってきた。彼女は私に覆いかぶさる権藤先輩を睨みつけ、その頬をこれでもかと力いっぱい叩いた。







 部屋へと入っていった片澤を見届け、俺は部屋の前で待機する。先程までのやかましい声はなりをひそめ、暫くすると片澤の怒号が飛んできた。




 権藤が噂通りの男であるなら片澤に言われるがまま終わるとも思えない。俺は葉巻を『保管庫』から取り出し吸っておく。




「このクズ男!!彼女がいる癖に、こんな事……!!」




「は?何か勘付いてるとは思ってたが、お前まさか追いかけて来たのか」




「あんたが考えてる事なんて全部バレバレだったわよ!」




「ちょ、権藤先輩コレどうすんすか…」




「どうもこうもある訳ないでしょ?今日の事、ぜんっぶ言いふらすから」




「チッ。おい山本、こいつ押さえろ。脱がせるぞ」




 その言葉を聞いた瞬間。俺は扉を蹴り開け『加速』し権藤の脇腹を強めに蹴り飛ばした。片澤の前に立ち、彼女にここらが潮時だろうと退散を提案する。




「悪い片澤。あれ以上放っておいたら危なそうだったから」




「へ…?う、うん。ありがとう」




「もうここら辺でいいんじゃないか?そのうち旅館の人も来ると思う」




 呆気に取られている片澤を誘導し、その場を去ろうとした時、その声が聞こえた。




「だ、大地……なんで?」




 真尋がこの場に居る事を、可能性の一つとして考えてはいた。まさか本当にいるとは思わなかったが…、ままならないものだと思う。




 真尋は俺と目が合うとハッとした顔をして体を隠した。その行動が俺に裸を見られた事に対する嫌悪から来るものなのか、それとも見知った仲故に多少は後ろめたく感じているからなのか、はたまた違う理由からなのかは分からない。一つ確かなのは、俺にとって今の真尋は滑稽に見えて仕方なかった。




「隠すんだな」




「……え?」




 どうでもいいと踵を返す。何かを弁明しようとしているのか、縋るような目をして言葉を探す真尋を放置し、俺と片澤は旅館を後にした。







「あースッキリした!大地が一瞬で来てアイツを蹴り飛ばしてくれたの最高だった!大地って格闘か何かやってるの?」




 もう深夜という時間帯。地元まで帰ってきた俺達はコンビニの駐車場でささやかな祝勝会を開いていた。




「似たようなことはやってたよ」




 まさか勇者やってました等と言えるわけも無く、当たり障りのない言葉で誤魔化す。




「えー?なんかアウトローな感じして怪しいなー?」




「邪推しても何も出てこないぞ」




「ふーん。まあいいや、大地が強いのは私だけの秘密にしといてあげる。あの場に居た4人はノーカンという事で」




 満足げに笑う片澤だが、来週以降権藤が彼女にどういう行動を取るのかはまだ読めない。予断の許されない状況ではあるが、それでも今だけは素直にこの時間を楽しみたいと思った。

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