表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/34

8.死穢の影

「こっちの 陶片の類は ほぼ素人だ。

 こっちの百足は 少し 丁寧に作ってある。

 この人形は 素人作りだが 力が強い。

 だがいずれも 人一人を 呪い殺すまでには 至らないだろう」


「うむ、合っている。

 やはり死の神の子孫か、こういったものに目ざといのは助かる」


 月雲つくもが持ってきたガラクタを、清明が検分している。

 都の外縁、丈の高い草っぱら。標的の屋敷から大きく離れた場所に仕掛けられていた呪詛の山である。


「知らせるのか?」


「いや、呪詛の出どころだけ確認して、無かったことにして滅するよ。

 こういうのが出てくると、『自分は狙われている』と自分で自分にしゅをかける。それが存外強いんだ。

 他方、反閇へんぱいやら加持祈祷なんかを目の前でやってみせる。護符を貼る。

 ああいったのを見て、『自分は守られている』というしゅがかかる。

 他の陰陽師よりも『清明の反閇へんぱい』に効果があるのはそういった事情もある」


 現代で言う所のノセボ効果、プラセボ効果である。


「……なるほど」


 清明は念のため釘をさす。


「もしやるなら俺の居なくなった後にしてくれ。

 お前を滅さないといけなくなる」


「わかった」


 存外素直なものである。


 そもそも、死の神の子孫と名乗るが、彼自身に人を害するところはほとんどない。

 精々が黄泉路に片足か両足突っ込んだ者に、黄泉の飯を食わそうとする程度のものである。


「食べるか?」


 その月雲つくもが何かに声をかけていた。


 都の外縁、人気もまばらで藪が生える。

 何ぞ野良犬か無縁仏でも居たのだろう、と、清明も覗いてみた。


月雲つくも、お前……その人……」


 どこぞの身分ある着物姿の女性が、泣きながら蒸し栗を頬張っていた。

 その向こうにある亡骸は、着物が剥ぎ取られ、野犬にやられたか、肌も分からないほどにずたずたになっている。首は折れ曲がり、腕はちぎれ、わずかに残された髪の長さで女性と分かる状態である。



「やはり近頃噂の人喰い土蜘蛛つちぐもとやらの仕業でしょうか?」


 居合わせた清明に、これ幸いとばかり意見を求めているのは、検非違使けびいし。平安の都の軍、兼、警察組織である。いわば警備士けいびしさんである。

 尊敬のまなざしで見ているが、清明に期待を寄せるのも無理はない。なにせあの土に還りかけていた状態の、女性の身元を言い当てたのである。

 清明にしてみれば、亡くなっていた女性本人から聞いただけである。

 さる邸宅の行方不明になっていた女房、つまり女官であった。


「調べるには時間が経ちすぎています。傷跡には野犬のものもあったから、一概には言えませぬが……改めてうらなってみましょうか」


 検非違使けびいしに深く頭を下げられ、屋敷に向かう清明であった。


 どこから聞きつけてきたやら、普段なら人気も少ない場所に、遠巻きに現場をうかがう者が大勢いる。

 穢れに触れるのは身分の下の者の仕事、遺体を扱うのは専門の神人じにんとされるが、いつの時代にも野次馬は居る。


「うひ~、俺蜘蛛だけは無理なんだよ」

「なんだ? 何か居たか?」

「いや蜘蛛の鬼が出たんだってよ」

「バカちげーよ、土蜘蛛って大昔の鬼の大親分だよ」

「いや大蜘蛛だって、見た奴がいるって話だよ」

「いや鬼だよ。何か古い本に書いてあるんだよ」

「都に居るのは蜘蛛って聞いたぞ」

「聞き間違いだ、鬼だよバカ」

「鬼だって。人にそっくりで人を食っちまうんだって」


 噂が変質している様である。



月雲つきぐもの仕業ではないんだな?」


 火の無いところに煙は立たない。確認すべきはまずそこである。


月雲つきぐもには 必要が無い 食べる物も 着飾る物も。

 黄泉路の土産に 美味い物を食べさせてあげたいから 食べ物を食べてみる事はあっても 必要はない。

 ましてや 人なんか喰べない」


 それを聞いて、清明はしばらく考える。


「以前言っていたな。伝え広まった噂によるしゅで捻じ曲げられ、獣心に堕ちた者がいると。

 ちまた土蜘蛛つちぐもの噂にあてられて、暴れる者が居ないと言い切れるのか?」


「居ない 我らは月雲つきぐも 土蜘蛛つちぐもではない。

 兄らが 目をこぼすとも 思えない」


「以前からたびたびそれらしい姿を見てはいたが……月雲つくもの兄は都に来ているのか?」

「大勢来ている 鳥辺野とりべの 化野あだしの 蓮台野れんだいの 手分けして 死者を黄泉に送っている」

「なるべく早く話がしたい。こちらは俺一人、都合は付くか?」


 月雲つくもはこくりと頷くと、どこかへと消えた。


 数日後の夜、月雲つくもはふらりと清明の屋敷に現れた。


「兄らは 場所を決めてくれれば行くと 言っている。

 皆で来たいらしい いいか?」


「皆で? そりゃあ…………事前に触れを出さないとまずいな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ