表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/34

6.夜を動かす

 月雲つくもは夜、ふらりと清明の屋敷に現れることがある。

 冥府の神の子孫を名乗る、月雲つきぐも一族。


 清明も、最初は妙な気配を調べてみようと思っただけだった。


 しかし冥府の使者といえど、死に瀕していない相手にどうこう悪さをするものでもない。

 今も清明は面白がって、屋敷への立ち入りを許して、色々話をさせている。


役行者えんのぎょうじゃを知ってるかい?」


「話には聞いた事がある。

 力におごった一族の者を 手玉に取ったと 聞いている」


蘆屋あしや道満どうまんっていうのは君らから見てどうなんだい?」


「我らを見る事はできるらしい それなりの力はあるようだ。

 あれの式神を見た事がある かなり 騒がしい奴だった。

 あれに似てるなら 俺は 会うのは嫌だな」


月雲つきぐもは、どれほど残っているんだ?」


「我らは どこにでもいる でも もう多くは残っていない。

 征夷大将軍に滅ぼされ 力のない末裔まつえい恭順きょうじゅんした。 もう誰も 氏神うじがみを覚えていない。

 力のある者でも 伝え広まったうわさによるしゅで捻じ曲げられ 獣心に堕ちた者もいる」


「獣心ね……」


 清明は一瞬、遠い目をする。


「菅原道真公も君らのお仲間だったりするのか?」


 清明の質問に、不意にぴりぴりとした気配が走る。

 来た、と清明は思った。感情に紛れて例の気配である。


「違う。

 いや もしかしたら遠い血縁かもしれない 不思議な力のある人だった」


 しかしその気配はすぐに霧散する。


「いい人だった……」


 月雲つくもは自分の手を見つめる。


月雲つきぐもことわりを外れた者 ゆえに体に異形を来すことが多い。

 我らも 自らを 同じ人とは 思っていない」


 人と違う青白い肌に長い鉤爪。


おごり 力に任せて 人を襲う事もある。

 あの人は 変わらず接してくれた」


「道真公の、物の怪調伏の伝説はそれか」


 月雲つくもが頷く。


「良いことは良い 悪いことは悪いと 言ってくれた。

 人だろうと 月雲つきぐもだろうと 悪い事をしたら詫びさせた。

 その時に 人と違う尺を使う事は無かった」


 月雲つくもが頭を抱える。


「助けたかった 守りたかった でも駄目だった。 気付いた時には陥れられて 散り散りになって 辛い目に遭って。 出来る事をしてやりたくても 見つけた時には死んでる子もいた 黄泉で会わせてやることすらできなかった」


 チリチリと冷気のような気配が漂う。妙な気配はない、純粋に感情によるものだ。


「陥れたと思しき者が溺死したな? 死体が上がらなかったと聞く」

「一族の誰かが やったと聞いた」


「あの内裏だいりの雷もか」

あにらがやった 俺も手伝った」


「そのまま朝廷と事を構えようという話にはならなかったのは何故だ?」


「日の神の子孫を 今でも我らが仇敵とする者もいた。 だが 忘れられた今 もう意味がない。 そして もう勝てない。 人にも 身を守ろうとするしゅがある。 数が違う あれで手を打つ他なかった」


 意思の力でことわりを曲げるのがしゅである。

 月雲つきぐもことわりを外れているがゆえに強く、ことわりを外れているがゆえに不安定で、数も少ない。

 しゅの内容によっては人数差で力負けする事もあり。不安定さゆえに、姿をさらして何かを訴える事にも危険が伴う。


「清明が少し羨ましい。

 内裏にも力を振るえる」


 月雲つくもの力の無い声に、清明がため息をついた。


 力を振るえば恐ろしい。

 しかし権謀術策を弄した冥王の子孫を名乗るにしては、どうも純朴過ぎるのである。


 そして清明は、ふっと何かを見つめる様にした。


「よし、丁度いい、一つ奇術を披露してしんぜよう。

 先ほど落雷で内裏を襲ったと言ったな。

 今日は月明り明るい夜だが、それを陰らせることはできるか?」


「それぐらいなら 今の俺一人でもできるが なぜだ?」


「御門を一人、消して見せよう」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ