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4.ふることふみ

「つまり君たちは、作られた土地神の信徒なのか?」

「その話の前に お前は この国の神代を どれほど知っている?」


 冥府の使者を名乗るその男は、清明に尋ねた。


「古事記に書かれた内容であれば多少は。

 はじめに別天津神ことあまつかみ五柱。

 続いて神世七代かみよななよ

 その末の伊邪那岐いざなぎ伊邪那美いざなみが地上に国を生み、神を生み、葦原中つ国ができた」


 簡単な説明に、冥府の使者は頷く。


「火の神を生んだ火傷がもとで、伊邪那美いざなみは黄泉に隠れる。

 連れ戻そうとした伊邪那岐いざなぎが禁を破ったため黄泉返りは失敗。

 黄泉から帰った伊邪那岐いざなぎみそぎをした時に生まれたのが三貴子みはしらのうずみこ

 天照大神あまてらすおおみかみ月読命つくよみのみこと須佐之男命すさのおのみこと


 頷く男の顔に、表情は見えない。


須佐之男命すさのおのみことは根の国の母に会いたいと泣き喚き、伊邪那岐いざなぎに追い出される。

 そうして根の国に旅立つために天照大神あまてらすおおみかみに挨拶に行くと、侵略を疑われ敵対される。

 誓約うけいで疑いを晴らした須佐之男命すさのおのみことは調子に乗って高天原たかまがはらで暴れまわり、天照大神あまてらすおおみかみは天の岩戸に隠れる。

 天照大神あまてらすおおみかみは神々のはかりごとによって姿を現し、須佐之男命すさのおのみことは追放される」


 頷く男は目を伏せていた。


「追放された須佐之男命すさのおのみことは、地上で八岐大蛇やまたのおろちを退治して、大蛇に狙われていた娘を助け、妻とする」


 頷く男が少し下を向いた。


須佐之男命すさのおのみことの子孫、大国主命おおくにぬしのみことは、嫉妬にかられた兄弟に命を狙われ、根の国の須佐之男命すさのおのみことに助けを求めた。

 大国主命おおくにぬしのみこと須佐之男命すさのおのみことの試練をこなし、最後には須佐之男命すさのおのみことをも出し抜いて宝を手に入れ、葦原中つ国を治めた」


 男は目を閉じ頷いて続きを促した。


「その頃に、高天原は、葦原中つ国を治めるべきは天照大神あまてらすおおみかみの子孫であるとして使者を出す。

 大国主命おおくにぬしのみこととその息子たちが承知した事で国譲りが成り、まつろわぬ民を平定して今がある」

「ああ」


 男は最後に頷いた。


「今は およそそういう事になっている」


 男の表情を見て、清明が面白そうに首を傾げた。


「昔は違ったのかい?」


 男は頷くと話を始めた。


「例えば 今の話で 飛ばされた小話がある。

 取るに足りない 須佐之男命すさのおのみことが高天原を追放され 八岐大蛇やまたのおろちを倒す前。

 体から 作物を取り出す女神が居た。

 その女神に食事を勧められ 汚した食事を振る舞われたと勘違いし 須佐之男命すさのおのみことは 女神を殺す。

 すると その女神の死体から五穀が生え それが今の五穀の起源となる」

「ああ、知ってる。話の大筋に関係なかったから端折ったけど。いけなかったか?」


「いや 確かにこれは 大筋には関係が無い。

 しかし これは月読命つくよみのみことの話だ。

 作物を吐き出す豊穣神 保食神うけもちのかみを見た月読命つくよみのみことは 汚らしいと殺してしまう。

 それに怒った天照大神あまてらすおおみかみは 月読命つくよみのみことの顔も見たくないと宣言した。

 それが月と日が同時に空に上らない理由とされている」


 清明は苦笑した。


「悪いけど、昼にも月は上るよ」


 昼の白い月は誰でも観察できる。

 そして陰陽師は天文博士の名の通り、暦のために天体観測なども行う、当時の天体の専門家である。


 陰陽寮の職務の中でも重要な一つが、他ならぬ日食の予報である。

 一般大衆にしてみれば突然日が消え、夜のようになる。放っておけばパニックが起こるが、予告できたなら崇拝される。

 軌道計算のできない昔は周期的に発生する事を利用して、ある程度の予報を出していた。しかし日食は他ならぬ、太陽が月の陰に隠れる現象である。

 日頃天体を観測していて勘の鋭い者であれば、日食の正体に気付いていてもおかしくない。



 しかし男は事もなげに言う。


「そうだ だから月と重なると太陽は姿を隠す」


 清明の苦笑が別の色を帯びた。


「これは天照大神あまてらすおおみかみ月読命つくよみのみことが 天と地で対するのか 昼と夜で対するのかも決まっていなかった時代の話だ」


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