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23.都の呪

 一瞬、月雲つくもは姉が武士のきょいたのだと思った。

 しかし、取り戻すはずの腕に目もくれず、弾き飛ばした武士に追い打ちをかけようとするのに気付く。


汝姉なね! 汝姉なね! どうした!?」


 月雲つくもの声に、他の兄弟達も異常に気付いたらしい。


 姉のひきつって笑う口元に、虫の大顎の様なものが現れている。

 背後に蠢く虫の足のような物が見える。


 月雲つくもは武士に迫る大顎の間に割り込む。腕を挟まれたが、逆にこれ幸いと姉の首を掴んで抑える。


「みんな 汝姉なねを連れて 帰るぞ 手伝え!

 汝兄なせ! 肩を頼む 汝姉なね! 足持ってくれ! 汝妹なにも! 落ちてる腕を 頼む! みな! 武士を見ていろ! 切らせるな!」


 言う間に姿を変えていく姉。これはまるで。


 息を揃え、姉を背負った月雲つきぐもの一団が屋根に穴をあけて飛び出した。

 戸口を通れなそうだったからである。




「清明! 清明! 清明! 清明!」


 棲家に着いて。月雲つくもは夢中で清明を呼んだ。他に対応できそうな者が思いつかなかったのである。

 大顎に挟まれたまま。兄弟達と協力して、引きずるように姉を連れて帰ってきた。


 姉の姿を認めた清明は、腕を突き出して何か細く長く息を吹きだす。

 途端に姉が元の姿に戻った。


 元に戻った姉が声を発した。


「私は……」

汝姉なね! 腕は取り戻したぞ!」


 天井はちょっと壊れたけど、と月雲つくもの弟が小さな声で付け足した。

 清明を見ると、おさを送った時のような難しい顔をしていた。


「姉に 何があったか わかるか? 清明」


 清明が姉を見据える。


「あなたに、都に蠢くしゅが憑いた。

 都の噂で、住民の恐れがしゅに変わり。今、あふれた力が向かう先を探している」


 都の住民の恐れが積もり積もって飽和したのである。

 兄達が居れば弾けただろうが、その兄達は、もう居ない。


「土蜘蛛の噂は庶民に広まり、人喰いの蜘蛛鬼へと変貌した」


 月雲つくもは、武士が直前に、姉に土蜘蛛と呼びかけていたことを思い出す。

 清明は月雲つきぐも一族を見渡して言った。


「今後、お前たちのようなしゅでできたものが、人に『土蜘蛛だ』と思われたなら、たちまち都の中に蔓延する蜘蛛鬼の姿に変わると思え」


 小さく悲鳴が上がった。

 姉の変貌を見ていた兄弟達である。


「あの武士に、見鬼けんきの才が無かったのは幸いだった。

 月雲つくも、お前たちが無事なのは、あの武士がお前たちの姿を正しく見れず、しゅがすり抜けたからに他ならない。

 さもなければ、今頃全員、理性を無くした人食い蜘蛛の悪鬼となり果てている」


 背筋の凍る話だった。


「私は これから どうなる」


 一度蜘蛛に変わった姉の声だった。


「今は俺のしゅで縛っているが、このままでは数日もたずに理性を無くした化け物になる」


 月雲つきぐもの兄弟達が、絶望した顔で顔を見合わせる。


「何か 治す方法は あるか?」


 姉の問いに、清明は考える様に少し俯くと、言った。


「一つは、都の人間の大多数の、土蜘蛛に関する思いが変わる事。これは数日では難しい」


「二つ目は、今、あなたに土蜘蛛と因縁ができているのは、一人の人間があなたが土蜘蛛だと、そう思い、図らずも言霊で縛っているからだ。その言霊のつながりを使って、都のしゅはあなたに憑いている。

 この思いを変えさせれば、しゅは弾ける」


 妹が、息せき切って清明に尋ねる。


「あの男を 殺せば いいのか?」

「殺しても、思いの乗った言霊が消えるとも限らない。思っているのを変えないとだめだ」


 兄が考えながら聞く。


「嘘をついて 土蜘蛛じゃないと そう あの男に 思わせればいいのか?」

「理屈はそうだ、だが信用に足らなければどうにもならん」


 兄の質問にそう返して、清明は一同を見回した。


「数日以内にあの男を、心の底から説得できそうな嘘をつける者、居るか?」


 月雲つきぐも兄弟が全員俯く。

 ここ七日、散々やり込められたことは清明も知っていた。


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