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16.毒酒

「今帰った」


 清明が屋敷に声をかけると、月雲つくもとその姉が奥から出てきた。


 清明が出ていたのは鬼の討伐隊を祓い清める式である。


「首の件は気づかれることは無い。危いからあの場に祀れと言っておいた。櫃の蓋にしゅをかけてみせたから、開けて確かめられることもないだろう。

 連中、俺が終始不機嫌な顔をしているので、相当に深刻な案件だと思ってくれたらしい」


 清明は手を叩くと、隣の部屋に向かう。

 式神が用意したのか、部屋には衝重ついがさねと盃があった。


 清明は二人に、少し離れる様にと手で示すと、どこからともなく瓶を取り出す。


「これがお前達の兄姉を殺した毒だそうだ」


 それを聞いて二人が更に距離を置く。


 清明は中身を盃にあけると。止める間もなく自分であおった。


「清明!?」


 慌てる月雲つくもだが、清明は平気な顔をしている。


「ただの薬酒だ」


 そして難しい顔で盃を伏せる。


「わずかばかり、全身の血の巡りが良くなるしゅがかかっているだけだ。薬効をよく知る人間が丹精込めて薬を作れば、よくあること。

 人の身に害がある物でもない。だが……」


 清明がやるせないように、一拍置く。


「肉の身の無い、体がしゅで作られているお前らが飲んだら、耐え難かろうよ……」


 全身に異物が浸透し、正常な機能を乱す。まさしく猛毒である。


 しゅで体を作っているようなものは食事をとらない。

 清明の式神も食事はとらないし、月雲つきぐも達も、本来食事の必要はない。


 しかし、月雲つきぐもは冥府の神を信奉している『人』でもある。


 しゅで作られている人の体で、人の体に作用するしゅを飲み込む。

 早々起こる事ではない、試して見れるものでもなかった。


「……武士団が話し合いをしたいと言い出したのは本心だろう。力量に敏い者もいた。

 寝首を掻く気があったのか、それとも本当に話し合いで終わるつもりになっていたのかは分からん。

 だが、そこに此の酒だ」


 清明が瓶を睨んだ。


「到底敵わぬ強者に、毒を盛ったと思われたなら……報復を防ぐなら、動けない間に皆殺しにするしかあるまいよ。

 武士団も突然に追い詰められたわけだ」


 固まっている二人に清明が続ける。


「武士団も被害者などと言うつもりはない。

 だがよく聞け。これを画策したとしたら、月雲つきぐもを狙っているのは武士団どころではない、途方もない相手だ。陰陽師をしてまだ尻尾すら掴めていない」


 姉がよろりと動く。


「弟妹が 危ないかもしれん」

「どこにいる?」

「都の外れの 広い荒れ屋敷に潜ませている」



 駆けつけた荒れ屋敷は明らかに荒々しい気配を纏っていた。

 風もないのに嵐のように木が揺れる。大風の音に似たような遠い唸り声が響く。時折爆ぜるような火が散る。

 都の外れとはいえ、このままでは勘のいい人間に気付かれるだろう。


 月雲つきぐも姉弟と清明は、急いで屋敷に踏み込んだ。


汝姉なね!」

「姉が 帰ってきた!」

月雲つくも兄!」

「知ってる人間だ! 出てきていいぞ!」


 各々が声をあげ、ぞろりと出てくる月雲つきぐもの一族。

 姿形が人と違うものも多い。屋敷の荒れ様も手伝って、魑魅魍魎ちみもうりょうの化け物屋敷である。

 そして纏っている気配からして、屋敷で荒れていたのは彼らであった。


 月雲つきぐも達は力無い声で、口々に言う。


汝姉なね…… 兄らは……?」

「小さい子たちが みんな 消えてしまった」


 兄達のしゅの守りが途絶えて、自力で体を保てなかった月雲つきぐもの子供達が死んだのだ。


「みんなで 探しても 見つからない」


 本人たちも薄々気付いているのだろう、表情のない声だった。


「人に化けられる子たちだけで 人の間も 探してみた。

 人が 祝っていた 山の鬼を 倒したと」


 嵐の前の静けさのような、ピリピリした気配が漂う。


「酒に 毒を 汝姉なね 本当か?」


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