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10.報せ

「やれやれ、結構強力なしゅだったな」


 後年生まれた物語の桃には男の子が入っているが、物忌み中の藤原道長の屋敷に届く瓜にはしゅで仕込まれた毒蛇が入っている。


 清明が凶相を見つけたのから始まって、坊主、医者、武者と揃った、さながら現代で言う所の爆発物処理の様相であった。

 一仕事終えた頃には夜になっていた。


 またか、という調子で月雲つくもが呟く。


「あの男 前にもあわやという所を 飼い犬に救われていた と聞いた」

「御門の後見として上り調子だからな。妬み恨みも買うし、まぁ色々あるのさ」


「人の呪殺は 宮中では こんなによくある事なのか」

「前に活きの良い男が、目の前で式神に憑かれていたぞ。助けてやったが」


 あの時も付きっ切りで一晩中かけて呪詛返ししたから大変だったと肩を回した。


「先の御門 出家していなければ 死んでいたのではないか?」

「それを恩着せがましく言ったところで、文句言われるだけだろうよ」


「この都には こんな使い手が 大勢いるのか?」

「大勢というほどでも無かろうが、どこに居るか分からん。気を付けろ」

「わかった」


 月雲つくもは原初の信仰によって、しゅの力でことわりを外れた月雲つきぐもの一族である。

 ことわりを外れるがゆえに不思議な事ができるのだが、ことわりを外れるがゆえに、しゅであっさり滅される可能性のある存在である。


 と、ここで近くの塀から三つの影が飛び出して駆けてきた。

 月雲つくもが二つを手で捕まえ、残りの一つを威圧する。


「落ち着け」


 亡者達である。平安の都では供養が間に合わず、鬼へと変わった亡者は珍しいものではなくなっていた。


「落ち着け。 卵 食べた事あるか? 兎肉は? 米もやしの水飴は好きか? まずは握り飯を食べろ」


 月雲つきぐもは冥府の神を信奉し、黄泉の竈で炊いた飯を与えて、亡者を黄泉路に送るお役目を持つ一族である。

 進んで荒事を起こすことは少ないとはいえ、そこらの鬼に負ける事は無い。


「先に行ってるぞ」


 清明は月雲つくもに一声をかけて、先に進んだ。



 清明が屋敷の前まで来ると、丁度もう一人の男も着いたところだった。

 この時代で言えば老齢と言っていい年齢である。それが夜、こうして出歩ける時点でただ者ではない。


「兄上、お元気そうで何よりです」


 賀茂かも 保憲やすのり

 清明の師、賀茂かも忠行ただゆきの長男であり、清明の兄弟子である。

 清明より4歳年上だが、見た目の年齢差はそれよりだいぶ大きい。老人と若者。清明もことわりから外れた領域に足を突っ込みつつあるせいか。


 屋敷の中には用意された高杯たかつきが二つ。

 両方に覆いが掛けられている。


 清明は保憲やすのりに一方を選ばせて座り、覆いをとる。

 保憲やすのりの方には、彼の好物が添えられていた。


 彼は射覆せきふ、つまり覆い隠されたものの中身を当てる名手である。

 小さい頃から清明と腕を競っていたと言われるに、清明が道満との試合で見せたのは、小さい頃にどちらかがやった反則技だったのかもしれない。


 賀茂かも保憲やすのり。清明と比べて小さく見られがちだが、子供の頃から供物にたかる鬼を見るなど見鬼けんきの才にあふれ、当代随一の陰陽師であった父、忠行ただゆきを驚かせる才覚の持ち主であった。


 兄弟でそうしているうちに、月雲つくもがふらりと屋敷に戻ってきた。

 保憲やすのりも慣れたもので、何かが急に現れても、軽く姿を認めただけである。


「成り行きで面倒を見ている、月雲つくもと名付けました」


 清明が軽く紹介する。


月雲つくも……ふむ……月雲つくも……なるほど」


 保憲やすのりは、どうやらこれで大方の事を察してしまったようである。


「清明、月雲つくも、よく聞きなさい。

 ちまたに流行る噂の物の怪。人喰い鬼、土蜘蛛つちぐも

 近く、その討伐を行うと触れが出ました」


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