第4話 漫画第1話の研究「あかね噺」
比較的最近の作品、とはいってももう少しで連載2年目ですね。
第一話を読んだ時点での私の感想は、「お、推せる新作が始まった」というワクワク感と
この作品が受け入れられるのかという不安が半々でした。
私的には納得の内容ですが
1:落語という難しいモチーフ
2:家族ものであること
3:主人公があまり出てこない1話の構成
(女性主人公というのも)
という不安がありました。
ほぼ同時に連載された「地球の子」や同年連載開始の「一ノ瀬家の大罪」と
家族に焦点を当てた作品が続くのでジャンプ的なトレンドだったかもしれませんが
「少年漫画」と家族というのは、あまり相性が良くないイメージがあります。
特に日本の少年漫画作品では「(家庭的な意味での)両親の不在」が特徴的といっていいかもしれません。
結局のところ。そういった私の不安は杞憂に終わり、今ではジャンプの看板漫画一つになったといっていいでしょう。
ここでは、「主人公があまり出てこない1話の構成」という変化球的構成について研究していきたいと思います。
【1】ページごとのコマ数と主人公登場コマ数(カッコ内は父親・志ん太登場コマ)/シーン構成
1頁 1/2(1) 冒頭
2頁 1/5(1) らくご喫茶にて1
3頁 0/3(2) らくご喫茶にて2
4頁 0/6(3) らくご喫茶にて3
5頁 0/7(3) らくご喫茶にて4
6頁 2/5(0) 朱音、小学校でのトラブル1
7頁 3/4(0) 朱音、小学校でのトラブル2
8頁 4/6(0) 朱音、小学校でのトラブル3
9頁 3/4(2) 朱音、小学校でのトラブル4
10頁 4/6(4) 朱音、小学校でのトラブル5
11頁 2/5(3) 朱音とおっ父1
12頁 4/5(3) 朱音とおっ父2
13頁 5/5(4) 朱音とおっ父3
14頁 3/5(4) 朱音とおっ父4
15頁 0/5(4) 志ん太の稽古1
16頁 0/5(1) 志ん太の稽古2
17頁 2/4(2) 志ん太の稽古3
18頁 2/5(4) 志ん太の稽古4
19頁 2/3(1) 志ん太の稽古5
20頁 1/5(0) 真打昇進試験1
21頁 4/5(0) 真打昇進試験2
22頁 1/5(3) 真打昇進試験3
23頁 0/5(2) 真打昇進試験4
24頁 2/6(3) 志ん太の狼狽1
25頁 0/3(2) 志ん太の狼狽2
26頁 1/4(0) 志ん太の狼狽3
27頁 1/4(3) 志ん太の狼狽4
28頁 0/5(3) 志ん太の狼狽5
29頁 0/5(3) 志ん太の狼狽6
30頁 0/7(3) 志ん太の狼狽7
31頁 1/5(3) 志ん太の狼狽8
32頁 0/6(6) 志ん太の覚醒1
33頁 2/5(1) 志ん太の覚醒2
34頁 0/4(2) 志ん太の覚醒3
35頁 0/4(3) 芝浜1
36頁 0/6(5) 芝浜2
37頁 0/4(1) 芝浜3
38頁 0/4(1) 芝浜4
39-40頁 1/8(2) 芝浜5
41頁 1/4(2) 芝浜6
42頁 1/4(2) 芝浜7
43-44頁 1/7(1) 芝浜8
45頁 1/4(1) 芝浜9
46頁 0/4(1) 阿良川一生の結果発表1
47頁 0/3(0) 阿良川一生の結果発表2
48頁 1/5(0) 阿良川一生の結果発表3
49頁 0/5(0) 阿良川一生の結果発表4
50頁 1/3(1) そして現代へ1
51頁 3/4(0) そして現代へ2
52頁 1/1(0) そして現代へ3
62/234(96)コマ
やはり主人公登場コマがかなり少ない。セオリー破りの第一話といえそうだ
【2】 ストーリーの軸とテーマとか
前回の繰り返し
第1話から主人公に対する共感を生む方法として最も頻繁に使われるツールが3つある
と私は考えている。
ひとつはボーイ・ミーツ・ガール(憧れの異性(同性でも)と出会うことで自分が変わりたいと思う気持ち)
ひとつは復讐
ひとつは挫折である。
今回選ばれたのは復讐。
挫折がテーマの場合、描かれるのは主人公の内面、内なる世界だ。
これに対して復讐がテーマの場合、主人公と被害者の絆が描かれる必要がある。
冒頭でも述べたように本作は家族の物語でもある
本作では「主人公・朱音とおっ父」の関係にスポットがあてられる。
1話の事実上の主人公は父・志ん太です。
復讐譚で、被害者となる人物に焦点をあてられることはありますが、しかし主人公よりも前面に出ることは稀だといえます。なので、作者の緻密な計算の結果なのでしょう。
(1)シーン1 らくご喫茶にて
このシーンで読者に伝えたい情報は
・落語喫茶で落語をする志ん太
・評判はいまいち
・しかし、期待されている
落語喫茶で落語というの案外重要だと思います。
ジャンプの読者は落語に詳しkくはないと思いますので、落語がテーマというだけで
ディスアドバンテージ。そこからどれだけ興味を引けるかが勝負です。
一般人の落語といえば、テレビで見るような大舞台を想像します。
それに対し導入で落語喫茶という小さなハコを描写することで、志ん太が下積みの身分であることがすんなりと伝わります。
(2)シーン2 朱音、小学校でのトラブル
このシーンで読者に伝えたい情報は
・朱音の勝気な性格
・朱音が落語が好きなこと
・パパがヒモと思われていること
いよいよ主人公朱音が本格的に登場。6頁、朱音の顔は描かれず、大きなため息でページが終わります。
パワーを貯めてますね
そして7ページ目。上下ぶち抜きで朱音の全身ドーン!続く8ページ目は、大きめのコマで落語を演じる朱音。そして最後のコマは再び表情を隠し、ドスの利いたセリフを呟く朱音。
ここまで登場しなかった主人公ですから、大判ぶるまい外連味たっぷりの登場です。
6頁の最期のコマ、8頁の最期のコマとしっかり「引き」を作っていますね
全体的な感想ですけど、この作者、ページの引き、話の引きをかなりキッチリ作る漫画家だと思いました。
第12話のラストコマから第27話の阿良川一生との面談の終了まで、いわゆる可楽杯編の流れ、連載中の盛り上がりもすごかったですし、まさにお手本といった丁寧でしかっりした構成になっています。本当にこの辺りはページターナーで、可楽杯編が終わった後を心配してしまうくらいでした。
私程度がその神髄を理解してるとはとても言えませんが、ページの引き、話の引きは大事だと理解しています。
「パパがヒモ」は朱音は否定していますが、後で分かるように志ん太も無視できる言葉でなかったりします
(3)シーン3 朱音とおっ父
このシーンで読者に伝えたい情報は
・朱音とおっ父の仲睦まじいい関係
・朱音の優しさ、その裏返しとして志ん太の辛い状況
・志ん太、真打になることが目標
「パパがヒモ」という言葉は、朱音に気を遣わせていることで、さらに志ん太の重石になります。
前回のヒロアカ回でもそうでしたが、主人公のつらい状況を表現するときは、畳みかけるようにやると良いってことですね。
その状況を一気に打破できるのが真打昇進
志ん太、真打昇進なるか否や、第一話の導線が張られました。
(4)シーン4 志ん太の稽古
このシーンで読者に伝えたい情報は
・朱音が、日常的に父の稽古を楽しそうに覗いていること
・落語の魅力
朱音を通して落語の魅力を作者なりに定義しています。
「脱ヒモ」の張り紙から、志ん太自身、そのことを気にしていることが分かります
(5)シーン5 真打昇進試験
このシーンで読者に伝えたい情報は
・志ん太の師匠である志ぐまの登場
・志ぐまの兄弟子一生登場
次のシーン6が物語のちょうど真ん中、一番緊張の走るシーンです。
その直前ということで緩いシーン。
重要なのは復讐の相手方である、一生の描写。読者の共感を呼べるようなにっくき人物として登場してもらわないといけません。
ただここでは表情と言動のみで、具体的な行動や絡みはありません。今話のオチの展開のために、ここでは派手な動きは不要ということでしょう。
一生の登場シーンも朱音と似ています。22頁の最終コマで背中だけの姿で登場。顔は見せません。
23頁の一コマ目でページ半分を使ったコマでドドンと登場。
(6)シーン6 志ん太の狼狽
このシーンで読者に伝えたい情報は
・プレッシャーに打ちのめされる志ん太
ここまでで積み上げてきた志ん太の重石がプレッシャーとして一気に襲いかかってきます。
シーン6は1話のちょうど中間地点、主人公(今回は志ん太)に最大のピンチが訪れるタイミングです。
枕のシーンで狼狽してしまう志ん太が描かれています。
シーン1の落語喫茶とつながります。緊張して実力を発揮できない男、しかし、会心の一席を演じることができれば、真打になるだけの力はある、と読者は想い応援したくなるはずです。
志ん太のモノローグですが妻の真幸さんには負担をかけるだけなんですね。朱音とは違って見限られるとは思ってないので、奥さんとは強い信頼関係が築けているようです。いい奥さんです。
30頁、敵役の一生2回めの登場、悪そうです。最終コマ深い深い所へ落ちて沈み込んでいきそうな引き。そこから一転31頁、開放感のある大きなコマに、朱音のくしゃみ。この流れも良いですね。
(7)シーン7 志ん太の覚醒
このシーンで読者に伝えたい情報は
・朱音のくしゃみをきっかけに、志ん太に気持ちを整理する機会が与えられる
・朱音の前だけではカッコいい父親でありたいという想い
・志ん太、壁を乗り越え覚醒する
32頁の最終コマ、地味ですが、「朱音の?」と疑問形で終わる引き。次のページの覚醒シーンへの期待感を煽るうまい引きと思うのは私だけでしょうか。
(8)シーン8 芝浜
枕を終えて演目に入ります。本作初めての本格的な落語のシーン。
このシーンで読者に伝えたい情報は
・落語の面白さ
・志ん太の落語、人を語る道
・阿良川竜の師匠連を通して、志ん太の実力が確かであることを保証する
一番盛り上がるシーンです。完璧なハッピーエンドへの一直線です。
完璧、何一つ欠ける事のない玉。付け入るスキのない、誰しもが真打・阿良川志ん太誕生を予想する流れ。
しかし、読者はそれが作者の恐るべき悪意によって作られたものだと知るのです
(9)シーン9 阿良川一生の結果発表
大どんでん返しです。不合格でなく、破門です。並のどんでん返しマイスターでもこの展開は予想できません。破門は明らかに不合理です。ヘイトが一気に一生に集まります。
作劇的にはダイセーコーですね
(10)シーン10 そして現代へ
落語家・阿良川志ん太は死んでしまいました。
なんと、この話は復讐劇だったのです
真の主人公、女子高生になった朱音が最後ページ1枚使って大登場。
1話の引きとしても最高ですね。
50頁の最期のコマ。朱音、足だけ登場
51頁、朱音3コマ登場するも、顔は見えない
そして52頁で大ごまドーン
またこのパターンかーーい!!
いや、いーーーーーーーーーーーーーんです。それで良いんです。
バカになって基本に忠実、それこそ最強の道。いや、知らんけど。
まぁ私ごときの分析なので間違っていても知りませんよ
朱音ちゃんは毛先がピンクなのが可愛いです。
このデザインに決めたとき、作者は勝ったと思ったに違いありません