第3話 漫画第1話の研究「僕のヒーローアカデミア」
私の中で完璧な第一話といえばこの作品ですね
第1話 54ページ
【1】ページごとのコマ数と主人公登場コマ数/シーン構成
1頁 3/5 主人公・出久の過去
2-3頁 2/2 現在、ヒーローの活躍する日常1
4頁 0/5 解説・世界観
5頁 2/3 現在、ヒーローの活躍する日常2
6頁 2/5 現在、ヒーローの活躍する日常3
7頁 2/4 現在、ヒーローの活躍する日常4
8頁 2/6 現在、ヒーローの活躍する日常5
9頁 2/5 出久の通う中学校の教室・出久の挫折1
10頁 2/6 出久の通う中学校の教室・出久の挫折2
11頁 5/6 出久の通う中学校の教室・出久の挫折3
12頁 6/7 出久の通う中学校の教室・出久の挫折4
13頁 1/8 一方そのころ
14頁 3/6 出久の通う中学校の教室・出久の挫折5
15頁 5/6 出久の通う中学校の教室・出久の挫折6
16頁 5/7 出久の通う中学校の教室・出久の挫折7
17頁 2/5 幼少時代の出久1
18頁 5/6 幼少時代の出久2
19頁 2/7 幼少時代の出久3
20頁 5/7 幼少時代の出久4
21頁 4/5 出久、ヴィランに遭遇する1
22頁 6/7 出久、ヴィランに遭遇する2
23頁 1/5 オールマイト登場1
24頁 2/4 オールマイト登場2
25頁 3/6 オールマイト登場3
26頁 5/7 オールマイト登場4
27頁 3/5 オールマイト登場5
28頁 0/7 一方そのころ・爆豪
29頁 3/6 出久とオールマイトの対話1
30頁 3/6 出久とオールマイトの対話2
31頁 3/5 出久とオールマイトの対話3
32頁 4/7 出久とオールマイトの対話4
33頁 3/5 出久とオールマイトの対話5
34頁 3/8 出久とオールマイトの対話6
35-36頁 0/8 ヴィランの暴走1
37頁 0/7 ヴィランの暴走2
38頁 3/6 出久の挫折と行動1
39頁 4/5 出久の挫折と行動2
40頁 4/7 出久の挫折と行動3
41-42頁 2/3 出久の挫折と行動4
43頁 2/6 出久の戦い1
44頁 4/6 出久の戦い2
45頁 4/4 出久の戦い3
46頁 1/5 出久の戦い4
47頁 1/3 オールマイトの活躍1
48頁 1/1 オールマイトの活躍2
49頁 1/6 オールマイトの活躍3
50頁 1/6 オールマイトの活躍4
51頁 4/7 出久と爆豪
52頁 3/5 出久とオールマイトの対話、再び1
53頁 6/8 出久とオールマイトの対話、再び2
54頁 2/3 出久とオールマイトの対話、再び3
142/287コマ
【2】 ストーリーの軸とテーマとか
第1話から主人公に対する共感を生む方法として最も頻繁に使われるツールが3つある
と私は考えている。
ひとつはボーイ・ミーツ・ガール(憧れの異性(同性でも)と出会うことで自分が変わりたいと思う気持ち)
ひとつは復讐
ひとつは挫折である。
本作では「挫折」にスポットが当てられている。
(1)シーン1「現在、ヒーローの活躍する日常」
このシーンで読者に伝えたい情報は
・世界のほとんどの人が何らかの超常体質「個性」を持っている
・個性を使ったヒーロー活動が政府に公認されており、収入や名声を得る手段になっていること
・主人公・出久がヒーローに憧れていること
注目すべき伏線は、出久のメモノートである。「物」に主人公を象徴させる手法であり、このノートは出久の夢を表していることが後のシーンからわかる。
(2)シーン2「出久の通う中学校の教室・出久の挫折」
このシーンで読者に伝えたい情報は
・ヒーローになるための超難関校「雄英高校」の存在
・主人公のライバルであり、「持てる者」である爆豪
・主人公が無個性であり、周囲から馬鹿にされていること
主人公との対比のために「持てる者」である爆豪君がここで登場します。
第一話だけ見ると相当のクズ野郎です、爆轟君。
分かりやすい「悪役」を演じさせられている彼がかわいそうなわけですが、コマの数も少ないので内面描写が薄っぺらになるのはやむを得ない。
爆轟が、出久のノートを焼き、出久がそれを拾うシーンが丁寧に描かれています。
出久の挫折が描かれていますが、まだ彼は完全に諦めてはいません。
(3)シーン3「幼少時代の出久・出久の挫折II」
このシーンで読者に伝えたい情報は
・主人公・出久がヒーローに憧れていること(再度強調)
・主人公が無個性であること(再度強調)
・出久が夢を諦めていないこと(再度強調)
泣き崩れ抱きしめる母親に対して「ああ違うんだ」「違うんだ母さん」「あの時僕が言ってほしかったのは……」というセリフにより、周りがいかに彼の夢が絶望的なものだと思っていても、彼自身は諦めていないことが描かれています。
また、彼の憧れのヒーローであるオールマイトが顔見せ。ただしその名はまだ語られません
(4)シーン4「出久、ヴィランに遭遇する」
このシーンで読者に伝えたい情報は
・ヴィランの能力・特徴
・主人公が死を覚悟したこと
主人公がヴィランに襲われ死を覚悟すること、これが重要な伏線になります。
「嫌っ…」と涙を流す出久のコマは重要。
(5)シーン5「オールマイト登場」
このシーンで読者に伝えたい情報は
・オールマイトが出久の憧れのヒーローであること
・オールマイトの圧倒的強さ
・オールマイトのコミカルな描写
ここで初めてオールマイトの名前が登場。
主人公・出久が真面目なキャラなので彼のコミカルな描写は、作品の空気感を規定するものになります。大事大事
(6)シーン6「出久とオールマイトの対話」
丁度物語の中盤、作劇論的に言えば、ここいらで主人公に最大のピンチが訪れます
このシーンで読者に伝えたい情報は
・オールマイトの秘密
・オールマイトが出久の夢を否定する
誰に否定されても夢を諦めなかった出久が、憧れのオールマイトから否定される
これが第1話で最も重要なポイントです。
第一話前半はすべてこのシーンのためにあったと言って過言ではないでしょう。
さらに、ただ出久の夢を否定するんではなく、オールマイトが回復不能な傷を負っていることを明らかにすることで、その言葉に重みを生んでいます。
素晴らしい構成です
(7)シーン7「ヴィランの暴走」
このシーンで読者に伝えたい情報は
・ヴィランを止める者が誰もいない危機的状況だということ
お膳立てはそろいましたね
(8)シーン8「出久の挫折と行動」
このシーンで読者に伝えたい情報は
・出久がいよいよ現実を受け入れようとしていること
・にもかかわらず出久がヴィランに立ち向かうこと
です。
もっとも深い絶望にあってそれでも行動できる出久のヒーローとしての資質が発揮されるクライマックスシーンです。
涙を目に貯め、助けを求める爆豪の顔はシーン4の出久の表情とパラレルになります。
「立場の入れ換え」は作劇の基本技ですね。
ここでも単に苦しんでいる爆豪を助けるのではなく、出久自身が同じ立場に立ち死を覚悟した経験があるからこそ、行動に説得力が出るわけですね。
素晴らしい伏線!
現実を受け入れようとする出久が見つめるのは彼のノート。ここでも象徴的に使われています。
(9)シーン9「出久の戦い」
このシーンで読者に伝えたい情報は
・出久がノートの力でヴィランに立ち向かえたこと
・出久の行動の理由、その理由にオールマイトの心が揺り動かされたこと
(10)シーン10「出久とオールマイトの対話、再び」
「君はヒーローになれる」
最悪の挫折と、その克服。重要なシーンに説得力を持たせる伏線がきちんと張られている。
こんな第一話が書けたら最高じゃァないですか?