蜃気楼の夏
アスファルトの匂い、どこまでも高い太陽、蝉の声、
「 」
夏が,来た。
夏になると、君がいる。
一緒にプールへ行こう、
どっちが長く潜れるかを競争しよう。
一緒に裏山へ行こう、
探検をして、僕らだけの秘密基地を作ろう。
一緒に隣町へ行こう、
お菓子を詰めて、ジュースも持って、一日がかりの長旅をしよう。
一緒に家を抜け出そう、
路地を抜けて道を渡り、坂を登って夜空が降らす星を見に行こう。
この広い広い世界、
君となら、どこへだって行ける。
君となら、どこへだって行けた。
世界は、どんどん広くなっていった。
海を知ってしまった。
世界一大きな山を知ってしまった。
日本一の花火大会を知ってしまった。
──世界を、知ってしまった。
君は、いなくなってしまった。
君だけが、あのちっぽけな世界に、取り残されたまま──
熱い熱いアスファルト、容赦なく照りつける日差し、耳を劈く蝉の声、
ああ、夏が来ていたんだ。
広くなった世界に訪れる夏は、ひどく窮屈で色褪せていた。
あの独善的でちっぽけな世界は、何度夏を迎えても戻ってくることは無かった。
気付かぬうちに過ぎ去っていった色彩の中に、心だけ置き去りにしたまま、
ふと、
「 」
──君の、声がした
急いで見上げると、子供たちがはしゃぎながら坂を登っていくのが見えた。
立ち上る陽炎の中に,あの未知と夢に飽和した世界の片鱗が燦いた。
君はまだ、そこにいるんだ。
彼らにはまだ、君がいるんだ。
そんなちっぽけな世界の住人達が、陽炎の向こうに揺らいで消えた瞬間、
目に飛び込んできたのは、鮮烈な青だった。
それは、未知を知り、色褪せてしまったこの世界を全て、
塗りつぶすように、
包み込むように、
あの時のように、
ただひたすらに、青く、青く、青く、青く、──
今夜は、あの夜空が降らす星を、見にでも行こうか。
拙い文章ですみません。冬、早く終わりませんかね。