やっぱり彼女?
藤代 悠がストーカーに追われるようになってから、週が明けた十二日の月曜日。あれからも、視線は感じるものの実害はないとのこと。
事務所からは、一人にならないように、と言われ、移動は車での送迎になっているとか。
これで一先ず、仕事中に狙われる可能性は低くなったと思いたい。そして、万が一狙われるとしたら…
「学校、だよなぁ」
一応、学校にも車で来ているとのことだが、安心はできない。いつ、どこで襲われるか分かったものじゃない。
あと今日を含めて十日。僕が、見ていられる時は常に警戒しておこう。
ただ、それも重要だけど、同じくらいに重要なことがある。
それは、藤代 悠の誕生日である。
ここで問題なのが、彼女の欲しいものが分からない、ということ。
女性がプレゼントに欲しいものは、アクセサリー、コスメや小物、といったものだとネットで調べるとでできた。だけど、彼女に関してはほとんどのものが、買わずとも持っているのではないかと思う。
それ故に、何を贈っていいもの分からない。
そんな既にネットに頼っている僕一人では詰みなので、心強い友人に助けを求めてみる。
「雪~相談があるんだけど~」
「うわ…なんだよ、その動き。キモいな」
開口一番、罵声を浴びせてくるが、実際かなりキモい動きをしていた自覚があるので反論はできない。
「それより、今日これからちょっと付き合ってくんない?」
「…すまん!今日は先約があって、明日なら大丈夫だけど…それじゃあダメか?」
「まぁ、別にいいけど。ちなみに、その先約って?」
「それは…ちょっと…」
先週と同じように、またしても、はっきりとは言わない。
そこに助けるように、雪のスマホがメッセージを受け取る。
「悪い、待たせてるから。明日、絶対付き合うから!」
ちらりと画面を確認してから、荷物を引っ掴んで教室を出て行った。
「二週連続、僕が振られるなんて。一体、相手は誰だ?」
そんなことを考えても、愛しの雪之丞くんは戻ってこないので、今日は一人で候補になりそうなものを探すことにしよう。
「愛しの、はキモいな」
……
日付が変わって、十三日。昨日の約束通り、雪は僕に付き合ってプレゼント選びをしている。
「にしても、藤代にプレゼントなんてハードル高いな。よくやるよ」
「重要なんだ、僕にとっても」
これを渡せるか否かで、彼女の運命が決まると言っても過言じゃない。そうすれば僕も救われる。ユウはそう言っていた。
「て、いってもな~。何か情報はないのか?」
「情報って?」
「藤代が好きなもの。世間に出回っていない情報なら、なお良し」
「そんなのあったかなぁ」
「んだよ、そういう話はしないのか?」
「雪なら何にする?彼女にあげるプレゼント」
「彼女?なんのことだ?」
まるで分からないと言ったような顔をする。ほほう、白を切るつもりか。
「ここ最近、僕の誘いを断っていたじゃないか」
「あー…それな。あいつは、そんなんじゃ…てか、俺の事より藤代だろ。ちゃんと考えろよ」
彼女であることは否定したけど、女の子か。ふむふむ、気になるねぇ。
「その興味ありげな顔をやめろ。何も言わねーから」
顔に出ていたらしい。まぁ、いつか分かるだろう。気長に待つとしよう。
……
その後も、色々な店を見て回ったが、ピンとくるものがなく、解散となった。
まだ時間はある。焦らない焦らない。機会があれば、本人からそれとなく聞いてみよう。
それまでに出来ることは…
「母さん、誕生日に貰って嬉しいものってある?」
親だけど、同じ女性目線で何か参考に出来るかも。
「え!?もしかして、何かくれるの?」
「いや、そうじゃないけど」
「なーんだ、違うのか…」
露骨にテンション下がったな。そんなに欲しいのかな。
「ていうか、母さんの誕生日まだまだ遠いじゃん」
「じゃあ、誰にあげるの?」
「それは…」
「…もしかして、彼女?」
「は!?いや、彼女とかそんなんじゃない!てか、いないし」
「あらあら、焦っちゃってまぁ。すぐじゃなくていいから、お母さんに紹介してね?」
「だから、違うって。それで?質問の答えは?」
「ん?質問?」
首を傾げている。今の会話で忘れてしまったのか。
「誕生日に何を貰ったら嬉しいかって」
「ああ、そうだったね。うーん、そうね…」
腕を組んで考える。今度は逆向きに首を傾げる。
「あ!最近、掃除機の調子が悪いのよね~」
「高校生に掃除機は重いよ。それに、そういうことじゃないから」
「じゃあ、肩こりに効くマッサージ機とか?もしくは、真白がお母さんの肩を揉んでくれてもいいけど」
「だから、そうじゃないって。ていうか、マッサージして欲しいならするから」
「じゃあ、今して~」
「はいはい」
ソファの後ろに回り、肩に手を置く。
「どれくらい強くていい?」
「割りと可」
「はいはい」
こんなことをするのは初めてだけど、上手くできるだろうか。
「で、他に何かアドバイスはないの?」
「ん~そうね~。誰に贈るの?」
「それは…言えない」
「うーん」
すると、流し見していたテレビから聞き慣れた声が聞こえる。
「あ!この子、真白の同じ学校だっていう、なんだっけ?誰ちゃん?」
「藤代 悠」
「そうそう、悠ちゃん。最近、本当によく見るのよね~」
「こういう子にあげるものだと、どんなのがいいと思う?」
テレビと僕を何度か交互に見る。
「…やっぱり彼女?」
「だから違うって」
「そうねぇ」
また考えて、「うーん、うーん」と唸っている。
「真白とその子の関係にもよるけど、お母さん的には…気持ちが籠っていれば、それが良いと思う」
そういうことを聞きたかったんじゃないんだけど。
「それに、真白が選んでくれたら、何でも嬉しい」
「嬉しい…か」
彼女も、そう思うかな。喜んでくれるかな。
「ねぇ」
「なに?」
「やっぱり彼女なの?」
「しつこいな!違うって言ってんじゃん!」
「本当に~?」
ニマニマと笑っている。これ以上、詮索されても面倒だ。
「はい、終わり!じゃ、風呂入るから」
「あ~ん、もうちょっと話そうよ~」
その言葉は無視して、リビングを出る。
「気持ちか…それで引かれたりしないよな?」
相手が貰って、重いと感じないようなものを選ばないとな…意外と難しいな、これ。