僕と友達になってくれませんか?
場所を学校の屋上へと移す。こんな所、初めて来たな。
「ここなら誰も来ないから。それで、私にどんな用があるんですか?」
ここに来るまで、何を話そうか考えていたけど、何も思い浮かばなかった。
「えーと、あ!今日、時間大丈夫?」
「今日ですか。これからは仕事はありませんけど…。遊びの誘いですか?それなら…」
「いや、そうじゃないんだ。ちょっと長くなるかもしれないと思っただけ」
「はぁ…」
まずい。明らかに警戒されてる。当然と言えば当然だけど。何か、この警戒を解けることを…
「あ、そういえば僕たち同じ学年なんだ。だから…」
「そうだったんですか。それなら、もう少し砕けた話し方に…しようかな」
「うん、そうしてくれると僕も嬉しいかな」
「じゃあ、そんな少し砕けた私に君は、何を言うのかな?」
「と、とりあえず連絡先聞いてもいい?」
おずおずとスマホを出しながら、聞いてみる。
「…ぷっ!あっははは!初めにそれ?」
盛大に笑い転げている。そんなに面白いかな。
「これでも、わたしはアイドルだよ?その私のプライベートな連絡先を聞くって。くくくっ…ふふっ!」
必死に笑いを堪えようとしている。そうだった、藤代 悠はアイドルだ。そんな彼女の連絡先なんて、聞いていいものじゃなかった。
「ご、ごめん。今のは無し。えーと、本当は…」
「うんうん。本当は?」
くっそ。こうなったら、もう自棄だ。僕にはこれ以外に思いつかない。
「ぼ、僕と友達になってくれませんか?」
今までしたことないくらい深く頭を下げる。
「……」
全く反応がない。やっぱりダメか。いや、考えてみれば当然だ。連絡先を聞くのがダメなのに、この提案が通るわけがない。何か考え直さないと…
「いいよ」
「……え?」
予想外の答えに、間抜けな声が出る。
「だから、友達。なってもいいよ。だから、連絡先も交換しよっか?」
「え?いや、でも。それはまずいんじゃ…」
「大丈夫だよ。友達と連絡先を交換することは普通でしょ?」
「そうだけど…。でも、なんで?」
「なにが?」
「藤代さんって、常に周りに人がいるから友達には困ってなさそうだから」
「ああ、それね」
途端に、表情が暗くなる。もしかして、触れない方がよかったか。
「あの子たちは、友達とは違うと思う。私とは、友達なろうとしてないから。あの子たちが求めてるのは、アイドルの、芸能人の私。ただの高校生の私には興味がないと思う。学校で関わってくる人の、ほとんどがそうだよ。みんな、私のことは…見てない」
意外…だった。藤代 悠は完璧な人間だと思っていたから。でも、それはみんなが求める理想の藤代 悠で、本当の藤代 悠は、完璧なんかじゃない。それは、みんなの理想を押し付けた偶像だ。
「意外だった?私がこんなことを言う人で」
「正直、驚いてる。でも、間違ってないと思う。僕だって、誰かを鬱陶しく思ったり、嫌なことを考えたりする。だから、それくらい普通だ」
ふっと、その顔が微笑む。思わず、見惚れそうになるくらい綺麗な顔で。
「そっか、君はそう言ってくれるんだ。高校に入って初めてだなぁ、友達ができるのは。友達になりたいと言ってくれたのも」
「こ、こ、光栄だね。藤代さんの初めての友達なんて」
色々と落ち着かなくて、声が震えてしまう。
「あっはは!なにそれ!声、震えすぎじゃない?」
今度は、堪えることなく笑う。遠慮がなくなってる。これも友達だからなのか?
「でもまぁ、これからよろしくね。えーと…」
「新屋 真白。よ、よろしく。藤代さん」
「うん、よろしく。新屋 真白くん」
……
屋上から階段を下りて、周囲を確認する。
「よし。誰もいないみたい。それじゃあ、私は帰るね。これからは私の息抜きに付き合ってもらうから」
「僕なんかで良ければいくらでも」
「うん。じゃあ、バイバ~イ」
手を振りながら、小走りで帰るその背中を見送る。
「真白!」
すると、反対方向から名前を呼ばれる。声のした方を見ると、雪がこちらに来ていた。
「すまん!俺が足止めくらって、周りを警戒できなかった。それで?どうだったんだ?」
「ふっふっふっ。気になるか?」
「そりゃあな。話せたのか?」
「話せた所じゃない。友達になれた!連絡先も交換した!大勝利だ」
「おお!まじか。あの藤代と…」
これで、藤代 悠を助ける足掛かりは出来た。あとは、その方法だけだ。
「とりあえず、祝勝会としようぜ!今日は俺の奢りだ!」
「よっしゃー!」
でも、今はこの進歩を祝おうじゃないか。
……
二人だけのささやかな、けど盛り上がった祝勝会を終え、帰路に就く。
そして、考えるは藤代 悠をどうやって助けるか、ということ。いつまでも、浮かれてはいられない。
ユウ曰く、藤代 悠が死ぬのは十二月二十一日。その日の、放課後以降だ。ただし、前回と変わらなければ、だけど。
あの日のニュースでは、午後七時に死亡したと言っていた。どうして死んだかは…分からない。でも、時間は絞れる。
ここから一か月後。藤代 悠を助けるため、僕は動く。さしあたっては、死の原因を探ってみよう。分かる可能性は低いと思うけど、何もしないよりはマシだ。
とりあえず、彼女を観察する所から…ストーカーみたいだな。雪と話して、この方法は無しだという結論になったけど、今は状況が変わった。
それに、これは藤代 悠を助けるため。そう、必要なことなのだ。
自分に言い聞かせて、彼女の周囲を観察してみることとする。