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それでいいよ。君は断らないから


藤代 悠(ふじしろ ゆう)?なんで…」


 そこには、ついさっき訃報を聞いたはずの人物がいた。


 疑問しかない僕を他所に、その人物が話し始める。


新屋 真白(あらや ましろ)くん。君に頼みたいことがあります」

「待ってくれ。いきなり、そんなことを言われても困る。それにここはどこで、あなたは誰なんだ?」

「冷静に状況を見極めるね?焦ったりしないんだ」

「混乱してるさ。理解が追いついてない」


 この何もない空間に、藤代 悠に瓜二つの人物。当然、冷静なわけがない。


「それでも、普通はもっと慌てふためくと思うけど。君は初めから、その素振りがなかった。どうして?」

「そんなの僕が聞きたいよ」

「あれ?どうして、目を逸らすの?何か隠してる?」


 そりゃあ、目も逸らしたくなる。なにせ、見た目は藤代 悠なのに、その言動が全く違う。いや、あくまで僕の想像の藤代 悠と、だけど。


「何か隠してるなら、正直にその過去を見せなさい!」


 訳の分からないことを言って、僕の手を掴んでくる。


「な!?急になにするんだ」


 慌てて振りほどく。見た目と中身が違うことが分かっていても、心臓に悪い。


「……」


 と、思ったら今度は、動かなくなる。


「おい。今度はどうしたんだ?」

「君は…そういうこと…なんだ」

「?」


 言っている意味が、全く分からない。そういうこと?なんのことだ?


「こほん。それより、君には頼みたいことが…」


 一つ、咳払いをして調子を戻す。


「いや、先に僕の質問に答えてくれ。ここはどこなんだ?あなたは、藤代 悠なのか?」

「まぁ、仕方ない。先に君の質問からいこう」


 一歩後ろに下がり、もう一度咳払いをする。


「まず、この場所。この場所に関しては、特に言うことはないかな。別の場所とだけ、そう認識してもらえればいいかな。それで、わたしは藤代 悠ではないよ。あくまでも、その容姿を真似ただけ。そうだな…ユウ、とでも呼んで。あと、わたしについて詮索はしないこと」


 一気に質問の答えを言う。ユウって、見た目のままじゃないか。


「つまり、ここは不思議空間で、藤代 悠ではないが、あなたについて聞くなと」

「うん。それで、わたしの話も聞いてくれる?」

「とりあえず、聞くだけなら」

「それでいいよ。君は断らないから」


 全く理解し難い状況ではあるが、この人から聞くしか情報を得る手段がないのも事実。ここは話を聞くしかない。


「わたしの頼みは一つ。藤代 悠を助けてほしい」

「助ける…?どうやって?藤代 悠はもう死んだんじゃないのか?」

「そう。だから、死ぬ前に助けるんだ」

「待て。それじゃあまるで、時間を巻き戻すみたいな言い方だぞ?」

「ご明察!今から、一か月前の十一月二十一日に戻るの」

「そんなこと可能なのか?」


 当たり前の疑問ではあるが、聞かずにはいられない。


「もちろん。だから、この話をしてるの。わたしの頼み、聞いてくれるよね?」

「なにがしたいのかは理解した。でも、僕がその頼みを聞く理由がない」

「なんで?藤代 悠を助けられるんだよ?」

「関係ない。僕と藤代 悠は関わることのない人間だ」

「もぅ~薄情だな~。じゃあ、君に利点があるって言ったら?」

「そんなものないだろ」

「あるよ。さっき君の過去を視たけど、もし藤代 悠を助けられれば、君も救われる」


 一体、そこにどんな因果関係があると言うんだ。


「…今、過去を見たって言ったか?どういうことだ?」

「そのままの意味だよ。わたしは過去と未来を視ることが出来る」

「じゃあ、一体僕の何を視たと?」

「それは…言えない。言わない方がいい」

「僕が救われるっていうのは?」

「そのままの意味だよ」


 全く理解できない。そもそも、過去視だの未来視だのは本当なのか?


「未来が視えるって言ったよな?」

「うん、視えるよ」

「じゃあ、もし一か月前に戻ったとして、そこで藤代 悠はどうやって死ぬんだ?どうやって助けろと?」

「あーそれは…分からない。わたしが分かるのは、やり直す前の未来であって、やり直した後の未来は分からない。今いるここは、やり直す前と後の間みたいなものだから」


 それって、証明は出来ないってことか。少なくともここでは。


「でも、わたしの頼みを聞いて一か月前に戻れば、未来が視えるっていうのも頷けるんじゃない?」


 確かに、時間を戻せるなら未来くらい視えるのか。でも…


「その頼みを聞く前に、いくつか聞きたいことがある」

「いいよ。答えられることなら、答えるから」


「まず、どうして一か月前なんだ?」

「最長でそこまでしか戻らないから」


「僕に頼む理由は?」

「わたしが選んだのは偶然だけど、たぶん必然かな」


「そもそも、藤代 悠が死ぬ前に接触は出来なかったのか?」

「それは難しいかな。こうして会えるのは、やり直したりしない限り一度だけだから」


「じゃあ、やり直す前でも後でも会って、未来を教えてくれればいいんじゃないか?」

「それは出来ない。もし、上手くいかなかった場合、もうやり直せなくなる。わたしと、もう一人いないとやり直せないから。それに、未来を知っていながらの行動は、教えた未来とは違うものになるかもしれない」


「じゃあ、やり直す機会は何度でもあるのか?」

「ない。そう思っておいて」


 他にも聞きたいことはあるんじゃないか?そう思うが…


「質問は終わり?」

「とりあえず今は」

「それじゃあ、藤代 悠を助けてくれる?」

「それは、僕にとっても意味があるんだな?」

「ああ。君を救うことにもなる」


 正直、言っていることの全部を理解できたわけじゃない。でも、やるべきことは分かった。


「わかった。やってみる」

「うん。やっぱり君は断らない」


 了承すると、辺りが霞んで見えなくなっていく。これから戻るのか。


「藤代 悠が死ぬのは、十二月二十一日だ。絶対に彼女の死を阻止して。これは君にしか出来ないことだから」


 完全に周囲が見えなくなる。最後に、ユウが言った言葉をしっかりと記憶する。


 ……


 意識が覚醒して、目を開ける。そこは、見慣れた自分の部屋だった。


「今は何月だ?」


 枕元の卓上時計を確認する。


「十一月二十一日。本当に戻ってる」


 ユウの言葉は嘘ではなかったということだ。なら、未来が視えるというのも嘘ではないかもしれない。


 それより、今は…


「藤代 悠を助ける」


 猶予は一か月。この間に、藤代 悠を助ける手段を考えないと。


「まずは…話しかける所からか。………難しいな」


 既に最大ともいえる関門が僕の前にはあった。

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