十二月二十一日
十二月二十一日。ユウの言った運命の日。藤代 悠が生まれた日。藤代 悠が死んだ日。僕が藤代 悠を助けることになった日。そして、藤代 悠を助ける日だ。
ついに、この日が訪れた。この一か月、彼女を助けるためにやり直した。
最初はやる気なんてなかった。そもそもやり直す、というのも信じていなかった。でも、ユウの言った通り時間は巻き戻っていた。それでも、ただ任されたからやるだけだった。自分の意志ではない。あの日、藤代 悠が死んだ日もどこか他人事と思っていた。
だけど、今は違う。
今は心の底から助けたいと、自分の意志で思っている。もう他人事なんかじゃない。僕にとって藤代 悠はただ助けるだけの存在ではなくなっていた。彼女といると僕も救われるようだった。今までにはない幸福を味わっていた。
もしかすると、これがユウの言っていた、藤代 悠を助けることは僕を救うこと、なのかもしれない。
そんなことを考えながら、学校に向かう。登校するには、まだ早い時間で周りにはほとんど人がいない。狙い通りだ。これなら誰かに見られる心配はない。
彼女は今日も車で来ると言っていた。もしかすると、僕の方が遅いかもしれない。
「ちょっと急ぐか」
プレゼントの入った紙袋を片手に、少し走る。急ぐ必要はないだろうけど、なぜか彼女より早く着いていたかった。
走り始めると同時に、空から雪が降ってくる。前に想像した組み合わせを見ることができる。
僕の心は浮足立っていた。
そんな校門が見えてきた所で、真横の道路に車が止まる。そして、その車から彼女は出てくる。
「おっはよう!お互い早いね。デートした時と同じだ」
開口一番、元気な挨拶と共に眩しいくらいの笑顔をみせる。
「おはよう、藤代さん。僕は待たせるより待つ方が得意だから」
「なにそれ。そんなことに得意とかあるの?それにしても、雪降ってきたよ~まさか降るとは思ってなかったよ」
そう言って、また笑う。本当に笑顔がよく似合う。それに思っていた通り、彼女とこの白はとても似合う。
「ん?なに?なにか変かな?」
あまりに僕が見るせいで、なにかあるのかと自分の服装を確認する。
「いや、いつも通りだよ」
「なら、よかった」
一つ安堵して、僕とは反対の車の方を向いて挨拶をする。それが終わると、送りの車は走り去っていった。
「そ・れ・で?その手に持っている袋が私へのプレゼントかな?」
物欲しそうにこちらを見てくる。
「うん。はい、どうぞ」
まだ学校には着いてないけど、大丈夫だろう。袋を彼女に差し出す。
「…」
「え?あれ?早くも気に入らない?受け取り拒否?」
まさかの無反応。中身を見る前に終わるのは想定外だ。
「普通、何かあるんじゃない?こういう時って」
なにか?誕生日プレゼントのほかに…
「あ!」
そうか。この言葉は絶対必要じゃないか。
「誕生日おめでとう。藤代さん」
改めて、その言葉とプレゼントを渡す。
「ありがとう。ね、見てもいい?」
「もちろん」
「なにかな~なにかな~」
ウキウキで袋の中を探る。そして、そこから出てきたのは…
「これは…手袋?」
「うん。でも、もう一つある」
「どれどれ」
次に袋から取り出したのは…
「おお!マフラー!いいねぇ。真っ白で眩し~今降ってる雪みたいだね」
「でも、できればどっちか片方にしてほしいかな…なんて」
「どうして?」
「片方は僕が欲しい」
「え~でも、これって私へのプレゼントなんでしょ?」
「うん。だから、ダメなら両方あげる」
「じゃあ、両方もーらう!」
そう言って、早速身に着ける。
「どうよ?ちょっと可愛すぎる?」
首にはマフラー、手にはミトンの手袋。手をわきわきさせて、可愛い動きをしている。
「うん、似合ってる。思った通りに」
「そう?ならよかった」
そのまま校門までの短い距離を並んで歩く。
「えへへ~暖かいよ、これ」
「それは何より」
防寒具としての機能を発揮できているならよかった。
「そういう物だから当たり前、とか思ってるんでしょ?君がくれたからだよ?人の温もりっていうのかな」
僕の考えを見透かすようなことを言う。
「人の温もりはないでしょ。僕は一度も着けてないから」
「もう、そういうことじゃないって分かってるくせに」
一瞬、呆れたような顔をする。でも、すぐに笑顔になる。
「ありがとう、真白くん。大切にするよ」
そして、校門を通ろうとした時、目の横で何かが大きく動く。次の瞬間、何かが倒れる音が聞こえる。音のした右側を見ると、そこにいるはずの彼女がいない。
彼女は地面に倒れていた。背中に一本の凶器が刺さった状態で。
「………え?」
それを認識した瞬間、訳が分からなくなる。まるで、時間が止まったかのように思考も止まる。
でも、時間は止まっていない。
彼女の背中から流れるものが、制服を赤黒く染めていく。それは流れ続け真っ白なマフラーも赤く染まる。
なにも理解できずにいると、傍にいる男が声を上げる。
「きみが!きみのせい!…だ」
嫌なことに、その声でようやく我に返る。
「ふ、藤代さん!藤代さん!しっかりして!」
我に返っても、どうすればいいか分からず、ただ呼びかける。
「ま…しろ、くん…」
「藤代さん!大丈夫だから。すぐにきゅ、救急車呼ぶから」
そうだ、救急車。スマホを出して、えっと何番だっけ?
「きみがわるいんだ。きみがぼくの…ぼくの…ものに…」
そこで、その男の存在に気づく。右手が赤く染まっている。この男が藤代さんを…
ふつふつと怒りが込み上げてくる。衝撃と怒りでどうにかなりそうだ。
「ぼくのものに…ならないならいっそ…ならないなら…しんだほうが…いいだろ…?」
理解できない。言っている言葉は分かっても、その思考を理解できない。僕の脳がそれを拒んでいる。
「藤代さん!大丈夫!絶対に僕が助けるから!」
「真白、くん…」
「っ!?」
なんで…なんでこんな時でも笑っていられるんだ。これじゃあ、どっちが助ける方か分からないじゃないか。
思わず微笑みそうになるのを堪える。今は彼女を助けないと。
しかし、突如として周りの景色は一変する。
……
「なんで…ここに…」
二度目となる何もない空間にいた。
「どうして…これじゃあ藤代さんを助けられない!どうしてだ、ユウ」
ただ一人、そこにいる人物に問う。