繰り返す日々、変わらない運命
高校一年生の十二月。冬休みを目前に控えているが、僕は自身の現状にため息を吐いている。
最近、妙な既視感を覚えていた。ここ一か月くらいの話だけど、周りの出来事、自身の行動にすら違和感を感じる。とはいえ、具体的には言葉にできないから歯痒い。
学校での授業も初めて聞くもので、聞く前に分かるというわけではない。友達との会話も、初めて話す内容なのに違和感が拭えない。
そんな奇妙な感覚はあるけど、生活する上で特に困ったことはない。だから、この一か月普通に生活して、今日も変わらず学校に来ている。
「よぉ、真白。辛気臭い顔してんな~。何かあったか?」
「え?そんな顔してる?」
友達の雪之丞が声を掛けてくる。
的を得た発言に考えを見抜かれたのかと思ってしまう。
「いや、言ってみただけ。なに?ほんとに何かあんの?」
「ないよ。雪が変なこと言うから」
内心、冷や汗が出たものの、知られた所で困ることでもなかったか。
「それより…」
内緒話をする様に、顔を近づけてくる。
「今日は来てるらしいぜ」
「なにが?」
「なにって、お前。決まってんだろ。藤代だよ。藤代 悠。学校に来てるって話だぜ」
「ああ、そう」
「んだよ。興味なさそうにしやがって」
「実際、興味ないからね」
他の人がどれだけ騒いでも、僕はどうとも思わない。
「そんなこと言って~。学校のアイドルだぞ?」
「だからこそさ。僕たちが関わることなんてないでしょ?」
「まぁ、それもそうだな。お!噂をすれば。ほら、廊下見ろよ」
雪に頭を掴まれ、向きを変えられる。そうなれば否が応でも、その人物が目に入る。
その人は一際、輝いていた。周囲を魅了するその容姿、噂によれば性格も良く、また勉学においても優秀な成績だとか。
「まるで、完璧な人間だな」
常に周りには人がいる。そんな魅了するだけでなく、惹きつけるカリスマもあるとは。アイドルと持て囃されるのも頷ける。
「あれで学校のアイドルじゃなく本物のアイドルやってんだから、すげぇよな」
そう。藤代 悠は今やテレビにもよく出るトップアイドルだ。
「ほんと完璧だな」
自分とは別次元の存在に思えてくる。だからこそ、一生関わることはないだろうな。
ふと、その考えが引っ掛かる。
(前にも、こんなことを考えた気が…)
いや、それくらいあるだろう。この手の話題は、もう何度も上がっていることだから。
そんな学校一の有名人の登場に、今日は沸いていた。
……
当然、そのアイドルと関わることはなく放課後を迎える。
「ま~しろ!どっか遊びに行こうぜ~」
HRが終わると同時に、雪が肩を組んでくる。
「僕はいいけど、雪はいいのか?」
「なにが?」
「藤代 悠だよ。関わる機会を窺うんじゃないの?」
「あーそれな。今朝、真白が言っただろ?俺たちじゃ、関わることは出来ないって。だから、もういい」
「諦めるの早いな」
てっきり、もっと粘るものかと思っていた。少なくとも、卒業までは。
「んなことより。行こうぜ」
「わかった。それで?どこ行く?」
そう、僕たちが彼女と関わることなんてない。高嶺の花ってやつだ。彼女は彼女の、僕たちは僕たちの関わるべき人たちがいる。
……
そんな考えを忘れるほど、雪と遊び尽くした。
「くぅ~、かなり遊んだな」
「久しぶりにこんなに遊んだ気がする」
「そうか?まぁ、たまにはいいだろ」
「まぁね」
たまにであれば、悪くない。
「じゃあ、次はなにする?カラオケでも行くか?」
「いや、流石に時間が時間だ。もう帰ろうかな」
「え~帰るのか?まだいいだろ?」
時計を見ると、十九時を回っている。確かに、まだ行けなくはないけど。
「いや、やっぱり今日は解散だ。雪も遅くなる前に帰ろう」
「そっか、なら仕方ない。一人で行ってもつまらないしな」
「ごめん、合わせる形になって」
「いいさ。別に今日が最後ってわけじゃないだろ?」
「そうだね」
……
雪と別れて、家路につく。
(そういえば、どうして今日は藤代さんは学校に来たんだろう?そもそも、進級や卒業は出来るのだろうか。ほとんど学校に来ていないよな)
と、考えたけど、僕には関係ないことだ。
「ただいま~」
家に帰ると、既に晩御飯の香りが漂っていた。
「お帰り、真白。遅くなるなら、連絡してちょうだい」
「連絡はしたけど…」
もしかして見てない?
「十九時を回るとは思ってなかったってこと」
「そういうこと。次から気を付けるよ」
「よろしくね。それで、ご飯は?」
「食べる」
「はいはい」
……
「ご馳走様でした」
「食器はシンクに置いておいて」
「はいはい」
食器を移動させて、部屋に戻ろうとしたところで、テレビから聞こえてくる声に立ち止まる。
「今日の午後七時頃、高校生アイドルの藤代 悠さんが亡くなったと───」
それは、藤代 悠の訃報を告げるものだった。
僕の中に小さくない衝撃が走った。
(藤代 悠が…死んだ?)
そして、その事実を認識すると同時に、僕の意識は見知らぬ空間へと移った。
目を開けると、そこには何もない空間が広がっていた。
「ここは?」
周りを見回しても、何もない。
「新屋 真白くん」
突如として聞こえた声の方を見る。そこには、目を疑うような人物がいた。
「藤代 悠?なんで…」
そこには、ついさっき訃報を聞いたはずの人物がいた。