泣くことができない令嬢ユーディアは幼馴染の婚約者に婚約破棄をされてしまった。婚約者の浮気相手は自分の妹で妊娠していて。絶望した彼女はどうなったのか?
「どうして泣くことができないんだ? 今もどうして泣かない! 親が死んでも泣かない、こうやって僕が浮気をしても泣かないなんて!」
「申し訳……ありません」
泣くことは許さぬと『貴方』が言ったのですわ。心の中で私は思います。
前世、私が愛したこの人はお前は涙することは許さぬ! と呪いをかけたのです。
因果応報といえばそうなります。
「お姉さまは冷血なのですわ。お母さまが死んだときすら泣きませんでしたもの」
笑う妹、妹と浮気をして、その妹が妊娠しているという事実を聞かされても私は泣けません。
婚約は破棄する! とルークが言ったのです。
幼馴染のルークは婚約者であり、私が前世愛した人でした。
前世、王太子と言われた彼は、聖女である私と駆け落ちし、それを咎められ、彼は秘密裡に殺されたのです。
最後、私を愛したことで殺された彼は、一人、生き残った私に呪いをかけて死んだのです。
「……申し訳ありません」
私が頭を下げると、ふんと鼻息が荒い妹が、元婚約者のルークと腕を組み、冷血お姉さまは放っておきましょうと笑ったのです。
婚約して5年、一度も涙を流さない私を、彼は試してきました。
でも私は泣けません。
あなたの前世に呪いをかけられたのですといって信じる相手がどこにいますか?
『未来永劫呪ってくれよう、聖女、いや悪役令嬢ミリアム! お前は二度と涙することがないだろう!』
私は王太子である彼と、国の平和を天秤にかけて、後者をとりました。
だから呪いは仕方ないことでした。
前世、ミリアム・バルガー、侯爵令嬢であった私は、国が平和になるための生贄として神に捧げられるとき、王太子である彼に助けられ、一緒に逃げました。
でも生贄とならないと、私の大切な家族を殺す! と言われて私は迷い、彼を捨てたのです。
私は生贄となり死にました。
生まれ変わってユーディアとなった私は、幼馴染のルークは王太子殿下、イリオス様の生まれ変わりだとわかり、彼に償うために生きてきました。
彼がどうして泣かないと責めても謝ることしかできませんでした。
イリオス様を私は裏切った。これは間違いないのです。
「……ねえ、ユーディア、どうして泣けない理由を言わないの?」
「だって、貴方のせいで泣けないなんて言えませんもの」
私は義弟に向かって泣き笑いの顔を向けます。義弟ユーシスはまだ12歳、彼は継母の連れ子です。
妹はユーシスのことを嫌ってました。
私は彼のことは嫌いじゃありません。だから前世のことも夢物語風に語ったことがあったのです。
「前世は前世、今は今でしょ!」
「ユーディアではなくて、お姉さま、でしょ。ユーシス」
「またお姉ちゃんぶる! あんなくそ女にとられるなんて!」
「だから、くそ女じゃなくてアンジェラお姉ちゃんでしょ!」
私は苦笑いのまま、ぽんぽんっとユーシスの頭を撫でます。
前世、こうやってルーク様も私の頭を撫でてくれたっけ。
「泣けないって呪いのせいなのかな」
「多分そうね……」
神様は生贄なんて求めていないのに、数百年前は生贄なんて制度があったのよと私が笑うと、それは前世のこと? と聞いてきます。
「そうよ」
「でも今は今でしょ!」
「そうね」
私はユーシスが大人になったら僕がユーディアを幸せにしてあげる。お嫁さんにしてあげるよ! と宣言するのを聞いて、もう子供のくせにっとぽかっと頭を軽くたたきました。
笑うことはできます。悲しそうな顔はできます。でも泣けないのです。
「あいつがルークを誘惑したんだよ!」
「それは仕方ないことですわ」
お母さまが死んだときすら泣けない、冷血令嬢、それが私のあだ名。
私はふふっと笑うと、どうして悲しいのに笑うの! とユーシスが怒ります。
「彼が幸せであればそれでいいと前世思ったのです。だからこれでいいのですわ」
「そんなの間違ってる!」
私は幸せになりたいと思っていたのです。でもルークの相手は私じゃなかった。
それは仕方のないことで……。
「何もかも諦める年じゃないでしょ!」
「そうねありがとう」
ユーシスがいたから耐えられたのかしらねと思います。
私は彼をぎゅっと抱きしめました。
「しかしねえ、やっぱりあいつ浮気したか」
「あいつっていうのやめなさい!」
あれから4年がたち、結婚したルークと妹でしたが、妹の浮気がばれ、二人は離婚。
挙句の果てに子供はルークが引き取ることになり、妹は浮気相手にも逃げられ、今は財産分与で争っています。妹がかなり使いこんだのでほぼ残っていないと聞きました。
「……俺のことまだ好きだろ、だから結婚してやるよ」
「あら、もう相手がいますので結構です」
私のもとに現れたルークに向かって私は笑いかけました。ユーシスがこいつ来たの? と嫌そうな顔でルークをにらみます。
「相手って誰だよ!」
「僕だよ、あ、お父様の後を継ぐのも僕、ユーディアと結婚するんだ」
「ええ、もう婚約も済んで、式は来年ですの」
ルークが弟だろ! といいますが、血がつながっていない場合は結婚はできますわと私が答えます。
ルークが嘘だろと怒ります。
「僕はもうすぐ17になる。婚姻年齢になると同時に結婚する」
「おい、お前みたいなガキ!」
「ガキではないです。あなたが浮気をした年齢のもうすぐ17になりますわ」
「そういえばそうだ! あはははは」
大笑いをするユーシス、それを見てぎりっと唇を噛みしめるルーク。
あれから4年たってますし、私はユーシスに愛され、傷をいやしました。
だから婚約し、結婚も決めましたの。
「私、もう泣けますの、真実愛する人が現れて呪いが解けましたのよ」
「僕がいる限りもう泣かせないけどね」
ユーシスが後ろからぎゅっと抱きしめます。私が笑うと、ルークが覚えていろよ! と何かセリフを残して走り去りました。
いつまでも振った女が愛していると思っているのでしょうか?
「あいつまた来るかな」
「追い払ってくれますわよね、でも手荒くしてはだめですわ」
「そうだね、まあ一応甥っ子の父親だしね」
財産すらなく、大変だというのも聞いていましたが、ユーシスは自業自得だといいます。
それは私も同感でした。
呪いが解けてすっきりしましたわ。私が大笑いすると目から涙が零れ落ちます。
笑っても涙ってでるものですのねえ。
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