墓で会う
墓所についた。
まさかと思ってオレの女房が眠っている墓まで行くと、未来がその墓石の前で座り込んでいた。
「未来…」
「…お父さん。」
あのな、未来…と語りかけようとしたら
「お父さんに聞いて欲しいことがあるの」
未来の言葉に遮られた。
「わたしこの街が好きだよ。お父さんと、小さい頃に死んじゃったお母さんが住んでたこの街が好き。そしてお母さんのお墓のあるこの街から離れたくない。もし留学しちゃったらお父さんもお母さんとも離れ離れになっちゃう、そんなのわたし嫌だよ…」
最後の方は声が掠れていた。
オレは静かに未来に歩み寄る。
「でもお父さんの話を聞いて、お父さんが留学の話をしたのを聞いてわたしわからなくなった…お父さんはわたしを必要としてないんだって…すごく怖くなって…」
未来が俯いてしゃっくりをあげる。
「それて…それでお母さんのところに行ったのか…」
オレはそう付け加えた。
そんな事ない。いつだって未来を一番に考えてきた。オレが逆に未来に必要とされなくなる日がくることを不安に思っていた。
「…未来。お前はオレの大事な娘だ。どんな時だってお前のそばにいたい。未来の成長はオレの喜びだった。お父さんはな、未来とお前のお母さんが居るこの街だからこうして生きていけるんだ。」
未来をそっと抱きしめて
「それに…」
ほらっ、と懐から小さなパスポートを取り出した。
「これはオレの女房の形見、未来のお母さんの若い頃の写真が貼ってあるパスポートだよ」
大事に大事に肩身離さず大切に持ってきた。
「でも、なんでお母さんがパスポートを…?」
未来は目を丸くして聞いてきた。
「実はな…未来のお母さん、美咲はもともと海外留学をしていたんだ。ちょうど未来より2つ程上の歳でな。オレも海外を旅行していて偶然美咲と会った。オレは出会った瞬間一目惚れしてしまったんだ。美咲には断られた続けたがそのうちお茶ぐらいならと付き合い始めた。月日を重ねて、こういっちゃ恥ずかしいが、愛を重ねていった。」
未来は真剣な眼差しでオレの話を聞き入っている。
「それはそれは夢のような話だった。しかし美咲に赤ちゃん、未来がいることがわかって、美咲は日本に戻ることになった。美咲のご両親はひどく立腹してね、勘当を言い渡された。それからオレたちはこの街に暮らし細々とながら暮らしていった。未来が産まれたときは嬉しかったなぁ。オレは仕事に必死だったから美咲と未来にあまりかまってやれなかった。だから美咲の体調の異変にも気づいてやれなかった。未来が2歳の頃、美咲が死んだ。オレは考えたよ。もし海外で美咲と出会わずにいたら美咲は死んでなかったんじゃないかって。オレが美咲の運命を狂わせてしまったんじゃないかって。」
「……」
未来は黙って聞いていた。
「だからせめて、せめて未来には幸せになってほしかった。お前が留学へ行って欲しいのはちゃんと理由があるんだ。美咲の、お母さんの夢の続きを…お前が叶えてやって欲しい。そしてそれがオレの願いだ。」
「お父さん…」