はじまり
「今日はアルバイトで遅くなるから。」
先に食べてて、と言って未来は家を出て行った。
アルバイトは商店街にあるスーパーのレジ打ち。学校の帰りに直接向かうようだ。
「ああ、気をつけていってらっしゃい。」
あまり遅くなるなよ、と言おうとしたが未来なら大丈夫だろうと思って言葉を飲み込んだ。
とは言え若い女の子が夜遅くに一人で帰るというのは結構危ないことなんじゃないか。
オレは仕事中ずっとそのことが気になってモヤモヤしていた。
未来は優秀な子だ。アルバイト先でトラブルを起こすような子ではない。しかし可愛いから、ナンパとかされたらどうしよう。完全な親バカだが可能性はなくはない。
オレは仕事を終え帰宅する前に未来がアルバイトをしているスーパーをこっそり覗くことにした。
「未来は大丈夫かな。」
初めのうちはスーパーの外から様子を伺っていたが周りの人達が次第に訝しむ目で見ていることに気づいた。
これじゃオレが危ない人だよ。
そう思ったので客のフリをしてスーパーの中に入ることにした。
こっちの方がより未来の様子を見ることができる。
未来はレジ打ち1日目にしてはなかなか様になっている。時々わからないことがあるのだろうか、先輩店員(男)に尋ねているシーンが何度かあった。その度オレは知らず知らずに舌打ちをしていた。お前未来にくっつぎすぎなんだよ!
結局外でも中でも怪しい人はオレだった。
警備員が来そうだったので渋々ながらスーパーをそそくさと後にした。