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第二楽章
第二楽章。
弱音で閉じた曲が華やかに再展開されていく。月の下でワルツを踊るように。陰鬱を脱ぎ捨てたこの曲はスタッカートとレガートを綯い交ぜながら進んでいく。身体が痛むのだろう、珠理は表情を歪めながらも鍵盤を征服するように爪を立てていく。
全章の中で、第二楽章は極端に短い。
ピアノの魔術師と称されたフランツ・リストはこの楽章を『二つの深淵の狭間に咲く一輪の花』と喩えた。その花は気高く、どこまでも儚い。
この先にあるフィナーレへ、曲は進んでいく。
燃えるような彼女の双眸が左右に振れる。赤く滲んだそこに、あの日の惨劇が焼き付いているみたいに。
思い出すのは、酷い熱。それに、皮膚の焼ける吐き気を催すような匂い。灰になっていくピアノの前で両腕を抱え込むように縮こまった珠理の身体。崩落するシャンデリア。それを庇うために突き出した右手の痛み。炎の赤。赤。赤。