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プロローグ


『テンジョウの音楽?』


 頭上のシャンデリアをぼんやりと仰いだ私を見て、先生は笑った。


『そっちじゃなくて、天の上って書く方だよ。雲よりも、ずっと上』

『初めて聞いた』


 先生はお爺様とお婆様よりもずっと若いのにとても物知りだった。

 ふかふかの真っ赤なソファで私を抱きかかえたまま、レッスンの休憩中に先生は色々な話をしてくれた。天文学、科学、哲学、そして音楽のことも。子供の私には難しいことが多すぎて全然分からなかったけれど、先生の優しい声を聴くのが好きだったし、理解しようと努力する私を褒めてくれるのがうれしかった。


『天上の音楽』


 噛み締めるように呟いてみる。先生はそうそう、と頷いた。大人の女の人らしい甘い香りが先生からはいつもする。いい匂いだけど、何故だかあんまり嗅いではいけない気がする。


 先生は私の髪に指を入れて優しく梳きながら話を続ける。


『昔の音楽家はね、天上……つまり、神様の為に奏でられたような、この世界には絶対あり得ないほど綺麗な音楽を求めて曲を作っていたんだよ』

『神様のための、音楽』

『そう』


 目を閉じて、想像する。


 私の知る最も綺麗な音は先生の弾くピアノだった。ショパンも、ラフマニノフも、そして先生が一番好きなベートーヴェンも。先生の手に掛かれば、その旋律はどんなCDよりも清らかに私の心の中にすうっと入って来る。


 ウェディングドレスみたいな真っ白な衣装をまとった先生が、真っ白なグランドピアノの前で曲を奏でている。そんな姿ばかり思いつくのに、その音だけはどれだけ想像の世界の中で耳を澄ましても聞こえてこなかった。


『私はね、そんな音楽が聴きたくって、ピアニストを目指してるの』


 期待と、寂しさと、誇りと。小さい私じゃ持て余してしまうような繊細な感情を複雑に組み合わせたような笑顔だった。いつもの優しい笑顔とは違う、ピアニストの本性のような。

 先生がそんな風に感情を見せたのは初めてで、つい見惚れてしまった。


『……どうかしたの? 珠理』

『私が聴かせてあげる』


 自分でも、びっくりするような出まかせが口を突いた。先生の歓心が買いたくって、つい大口を叩いてしまったのが恥ずかしくって、ちらりと先生を見上げてみる。

 先生は私を驚いたように見つめた後、ほんの少しだけ唇を歪めた。


『楽しみにしてるね』

『本気にしてないでしょ!』

『ふふ、どうかなぁ』

なろうの投稿のテストも兼ねて、別サイトで投稿した自作の少し手直ししたものを上げていきます(5000字程度)

読んでくださってありがとうございました


霜敷

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