子作りしないで元の世界に帰る方法
次の日、柚子はアズールスに連れられて書斎にやってきた。
アズールスは柚子が開けた机の下から二番目の引き出しを開けると、一冊の本を取り出したのだった。
「アズールスさん、その本は?」
「ユズを召喚する時に使った召喚書だ」
アズールスは他の引き出しから白手袋を取り出すと、両手にはめた。
そして、召喚書を慎重に開いていったのだった。
「この召喚書によると、この世界に来た時と同じ状況になれば、元の世界への道が再び開かれると書かれている」
アズールスに見せてもらい、柚子も召喚書を覗く。
そこには、召喚者が召喚された時と同じ状況ーー場所、時間、が一致して、召喚されてから最初の一カ月目のみ、元の世界に帰れるとの事が書かれていた。
「場所と時間ーー召喚には月の満ち欠けも関係すると言われている。ユズ、君がこの世界に召喚された時、月はどんな形をしていた?」
柚子はその時の状況を思い出そうとした。
「半分だけの月でした。色はピンク色」
「そう。月がピンク色だったな。この世界では、月に一度だけ月がピンク色になる日がある。その時は必ず半月になる」
柚子は息を詰める。
柚子がこの世界に来てから月がピンク色になったのは、最初の日だけであった。
「その、月がピンク色になる日はいつですか?」
「……明日だ。それを逃したら、次は召喚主の願いを叶えるまで、帰る事は出来ない」
明日。明日が柚子が元の世界に帰れる、唯一のチャンスなのだ。
そして、柚子は疑問に思った事をアズールスに聞いたのだった。
「どうして、今更、教えてくれるんですか? 黙っていれば、知らないままでいられたのに」
そうしたら、柚子は元の世界に帰れる方法を知らないまま、アズールスの願いを叶えるまでこの世界に留められるのに。
柚子が訊ねると、アズールスは目を逸らした。
「……俺にもわからない。だが、ユズは自分の事を話してくれただろう。今度は俺も話さなければならないと思ったんだ」
そうして、アズールスは召喚書を元の場所に戻すと、白手袋を外した。
「色々と明日までやる事があるだろう。俺の事は気にしないで、自分のやるべき事をやりなさい」
アズールスはそのまま出て行った。
「アズールスさん……」
後には柚子と、アズールスが外した白手袋だけが残されたのだった。