影の者の集落1
「ぐう、奇妙な術を使いおって……にゃあ! 耳は触るな!」
「ツンとしたパッチリ目なのに小さい身長。これはパムレちゃんとはちょっと違う感触ねー。例えていうならパムレちゃんは時間をかけてこねられたパンの生地から作られたパンだとすると、この子は初心者ながらも頑張って作られたパンね」
「……え、遠回しに『年とってる』って言われた? え?」
パムレが結構衝撃を受けているよ!
シャルロットはどっちも褒めていると思うんだけど、聞き手によっては悪口言われてると思っちゃうよ!
「ぐう、早く離さぬか!」
「良いけど、とりあえず創造の編み棒は頂いたということで良いかしら?」
「たわけ! そこの男が鞄に入れようが飲み込もうが儂達は奪うまでじゃ!」
「そう。ならこのまま集落を一周しましょう。道案内もお願いしようかしら」
「え……このまま?」
「そう。このまま」
「儂、抱っこされながら?」
「そうよ?」
フブキは固まった。というかシャルロットがもはや間髪入れず回答するもんだから回答に脳が追い付けていない状態だ。
「負けを認める……その棒は渡そう」
がっくりと力を落とすフブキ。うん、シャルロットのそういう淡々としているところは本当に凄いと思うよ。容赦なく相手を無力化する。一番平和的だね。
「そう。ありがと。じゃあ一周するわよ」
「え!?」
そう言ってシャルロットは問答無用で外を一周した。
うん。シャルロットのそういう淡々としているところ……本当に凄いと思うよ。容赦なく相手を無力化したうえで罰を与える。一番ひどいね!
☆
俺とパムレとセシリーとフェリーがのんびりと会話をしていたら、村を一周していたシャルロットが帰ってきた。
「あ、お帰り」
「うん。ただいま。なかなか面白い集落……というか一つの国か村かしら。この村について村の人たちも優しく教えてくれたわ。なぜかずっと頭を下げたままだったのだけど、それがこの村の礼儀なのかしら」
「たわけ! 儂を抱っこしたままじゃぞ! どう見ても人質にしか見えんじゃろうて!」
うん。俺もそう思う。
「あはは。ごめんごめん。はい、これで自由よ」
「おおおお。地面じゃ。とうとう儂は地に足を!」
何故感動しているかわからないけど、とりあえずよかったね。
「ということで早速……」
瞬時に床に落ちていた武器を取り、それを俺に向けて切りかかった。
反射的に俺は短剣を抜いて守りの体制に入ったが、フブキはそれを見て驚いた表情をした。
「む? いや、『おかしい』」
「へ?」
フブキの武器は俺の目の前で止まっている。そのまま切りかかっても俺の短剣があるから大丈夫だとは思うけど。
「元々切るつもりは無かった。貴様に脅しをかけて編み棒を返してもらうつもりじゃったが、『どうして儂の刀が見えた』」
「え、いや、見えては無いけど……」
あまりの速さに咄嗟に短剣を構えただけなんだけど……。
「ほう。ではこれはどうじゃ?」
瞬時にフブキは俺に向かって右わき腹、左肩、頭の順番に武器を振った。しかしすべて当てずにギリギリで止めている。
「はあ、はあ、凄く心臓に悪いよ!」
「ふむ。神速とも言われておる儂の刀についてくるなどありえん。貴様は面白い特技を持っているようじゃ」
そう言って武器を専用の道具にしまった。
「リエンって大叔母様と手合わせしたときも思ったけど、防御に関する反射神経だけは凄いわよね。おかげでガラン剣術も守りの部分は教えるのを省いているのよ」
「省かないで! 全部教えてよ!」
何その『あえてその部分は教えてない』ってやつ! 剣の先生なら全部教えてよ!
「ガランの姫の大叔母様……シャムロエ殿のことか? ほう、貴様はあやつとも張り合う腕を持つのか」
「大叔母様を知っているの?」
「かか。知っているも何も、あやつに情報を流しているのは儂じゃよ」
え!?
いや、レイジについてどこで情報を掴んでいるのかなーって思ったけど、まさかの『影の者』だったの!?
「何だ。じゃあフブキちゃんと大叔母様は友達だったのね」
「『ちゃん』!? ま、まあ良い、一つ言っておくと友という間ではない。あやつは儂の客じゃ。各国の重要な情報からその辺の飼い猫の在処まで容易い物よ」
「それなら創造の編み棒も実は渡してくれるつもりだったとか?」
「む? それは無い」
「へ?」
「儂はこの世界でうごめく闇について情報を提供したまで。契約はそれで終わりじゃ。じゃから秘宝を見つければ儂の手中に収めるし、儂らの存在を明かす者がいたら容赦なく消すぞ」
確かに。それでミッド王子は一度殺されかけている。味方……というわけでは無いのか。
「というか大叔母様ってここともつながりがあったなんて……どう見ても危険な人しかいないと思うのだけど」
「む? 儂からすればシャムロエ殿も脅威の一つに過ぎぬがのう。儂とサシで戦い初めて決着がつかなかった者じゃからな」
え、それってつまりシャムロエ様ほどの強さをフブキは持っているということ?
つまり大陸中でも凄腕の一人なんじゃ……。
「凄いわね! じゃあそんなフブキちゃんに勝った私は大叔母様を超えたということね!」
『だあああ! 言いよったぞ! 絶対言うと思ったぞ! こやつ、何かと上に立つのが好きと見た! 絶対何か言うと構えておったがここ一番という時に言いおった!』
『あー、フブキが固まったー。『え、儂……負けたの……?』って心で思ってるよー』
「やめてあげてよ! 君たちの言葉もとどめになってるから!!」
明らかにショックを受けている相手に追い打ちをかけるなよ!
「と、というかパムレ……マオを見て驚いてたじゃん! マオ相手には負けるってことだよね?」
「……単純に相性の問題。パムレくらいになると『ゲイルド魔術国家からゲイルド魔術国家と同じくらいの大きさの火球をこの地に落とす』ことは可能。それくらい大きな火球ならどれだけ強くても怖いものは無い」
「パムレの力がインフレしていてもはや訳がわからないよ!」
と、いつも通り突っ込む。
「ふむ?『いんふれ』とな?」
フブキが俺の目を見て話し始めた。
「えっと、何?」
「貴様。なかなか面白い『言葉』を知っておるようじゃ。先ほどの『いんふれ』とやらは誰から教えてもらった」
「いや、母さんからだけど……」
特に気にせず使っていた言葉に、急に疑問を浮かばれても……。
「ほほう、なかなか興味深い。貴様の母上、『フーリエ』じゃったか」
やはり母さんの正体はバレていたか。
「あやつは実に不思議な存在じゃ。時々理解できない単語を使う。情報収集しておると世界の理とやらにだんだん近づく気がするのでのう」
「世界の……」
「そうじゃ。聞き覚えの無い単語。何故そういう言葉だけがあるのか。答えは簡単じゃ。おそらく別の世界があると我は思っておるからのう」
不気味に微笑むフブキ。その言葉にパムレが口を開いた。
「……あるよ。パムレが別の世界出身だし。というかフーリエもそこに行ったことがあるから言葉くらいは知っているよね。そもそも『オムライス』や『ハンバーグ』とかもそこの世界の料理で、実はパンの作り方もそこで覚えた知識をこっちで活用しているんだよね。宿の経営もなかなか厳しい中、『地球』の知識は言ってしまえばこの世界に無いお宝そのもの。だからそこでの料理はこっちには無いものということで珍しいよね。あっちの世界の言葉で言うと『インパクト』あるよね。何事も『チャレンジ』した結果だよね」
「ちょっとパムレ、ストップ。うん、ここはちょっと聞いてあげよう? もうアルカンムケイル様とか落ちてきている時点で異世界の二つや三つあるのは知っているけど、他の人からすれば大発見のモノだったり生涯をかけて研究する類のものだから!」
「貴様らその場で切ってやるから首を出せええええ!」




