精霊の森の集落1
ということでガラン王国を出て精霊の森へ向かう俺とシャルロットとパムレ。残念ながらちょうどタプル村に行く馬が無かったので歩きとなってしまった。
「というか本気で怒らなくても」
「はあ!? 一人だけあの残虐な魔術から身を守って何を言っているの!」
「わかったわかった。ごめんって」
シャルロットはご機嫌斜めである。まあ、目の前でコテンパンにされている女の子とその親を放置していた俺も俺なんだけどね。
「……まあ、正直パムレ的には悔しい」
「どういうこと?」
「……手加減していたとはいえ、三大魔術師を名乗る以上は負けられない。それも二人共闘するというのはもはや災害レベル。それをリエンは精霊の力を借りたとは言えたった一人で耐えた。魔術や精霊術の中にもやはり集中することで強さは増す。剣術の修行はちょうどその部分を強化したのかもしれない」
「でも一人だけ守っちゃって、ズルくない?」
「……防御は時に攻撃の好機を生む。仮にあの防壁をもう少し広げる技術があれば、国の重要人物の一人や二人を守れる騎士にもなれる。シャルロットは結果だけを見て過程を見ていない。お菓子は見た目だけじゃなくて中身が大事」
「なんかすごく言いくるめられてるんだけど! くう、わかったわよ。この件はとりあえずこれで終わりよ。ぐずぐず言ってても始まらないし、次に行くわよ! あとセシリーちゃんとフェリーちゃんは両肩に乗って!」
『逆らえぬ空気。仕方がない』
『むー、精霊の森までだよー。ノームは苦手ー』
そういえば精霊の森に入るんだし、またエルフたちに許可を貰わないといけないのか。
☆
「ということでエルフさーん」
…………。
何も言わずに氷を生成。
何も言わずに氷をこすり合わせる準備。
あら不思議。目の前にエルフたちが登場。
「一応言っておくが、その行為は我々を召喚する物ではないぞ?」
「あの方の息子じゃなければ弓で撃つ」
殺意に満ちたエルフ達が文句を言いつつもしっかり整列していた。
「以前は氷だけだったが、今回は火もか……堕ちたものだ」
『心外ー。でも不可抗力で契約したからなんにも言えないー』
まあ確かに。フェリーに関してはうっかり契約しちゃったもんね。
「それで、何の用だ?」
「実は『影の者』に会いに」
「しっ!」
そう言ってエルフたちは周囲を見回した。
「その名は伏せるように。どこで聞いた?」
「いや、その場所出身の知り合いから」
「そうか……いや、彼らは我々とは一切関わらないという契約をしている。もし用があると言われても道案内はできない」
「近くまでは良いかしら?」
「うむ……途中に土の精霊ノームの集落があるから、その手前までなら」
ノームの集落。やっぱりあるんだ。
「分かった。そこまで案内してくれる? そこから先はノームにお願いしてみる」
「算段はあるのか? ノームはそれなりにプライドが高いが」
「まあね」
そう言ってにっこりするシャルロット。ゴルドさんからもらった鉱石を見せれば良いんだっけ?
「わかった。では案内しよう」
☆
本来人間が入ってはいけない領域というのはなかなかワクワクするものである。
決められた場所以外踏み込むとエルフが敵とみなして攻撃してくる道を警戒しつつも歩く緊張感はなんとも
「何この木の実! 見たこと無いわ!」
「……それはパムレットの隠し味に使われる。そのままだと苦い」
なんとも……。
「きゃ! 変な虫が!」
「気を付けられたし。その虫は害は無いが踏むと悪臭が」
……うん。やっぱり何でもないや!
「……リエン。元気ない?」
「未知の領域よ? もっとワクワクしなさいよ!」
「あーうん。俺とちょっと方向性が異なるけど十分ワクワクしているよー。わーい」
「こんなにも心の無い『わーい』は初めて聞いたわ……」
と、そんな会話をしていたら、目の前の雰囲気が少しだけ変わった。
「リエン殿。この広場がエルフとノームの唯一共有できる場所です」
なるほど。どっちも入れる場所が無いと大変だもんね。
と、そこへ魔力の塊りのようなものがいくつかこちらに向かってきた。
それほど早くもなく、地面を這いずっているような……。
「んじぇ! 人間とエルフが一緒とは珍しいんぼ!」
言葉で表現すると……丸いお団子が二つつながっていて、下の団子に小さな団子が四つくっついていた。あれが手足だろうか。
そしてそれぞれ帽子をかぶっていて、三角帽子や布の帽子。母さんのような布をぐるぐる巻いている物体もいる。
「シャルロット。一応言っておくけど、いきなり抱き着いたら駄目だよ。相手は精霊だからね」
「分かっているわよ。というか私を誰だと思っているの?」
と言いつつ目がすっごく怖いんだけど。多分必死に耐えてるんだけど!
「ノーム殿。こちら、ノーム殿に会いたいとのことで連れてきました」
「んじぇ? これは面白い客人。オラ達はノームだじぇ」
なかなか独特な言葉使いのノーム達。そして
「……あ、久しぶり」
「んぼ!? マオがいるんじぇ!?」
やっぱりパムレの事は知っていたか。
「む? マオというと、あの?」
あ、そういえばエルフにはまだ紹介していなかった。てっきり自然な流れで道案内してたからどこかで挨拶を済ませていたのかと。
「んぼ。とりあえず人間は理由が無いとここには来ないんじぇ。とりあえずノームの集落に来るんぼ?」
「え、良いの?」
「立ち話も疲れるんぼ。まずは落ち着ける場所にいくんぼ」
プライドがとても高いって聞いたからすごく高圧的に来るのかと思ったけど、どうやらそれは昔の情報だったのだろうか。見た限りすごく友好的だった。
シャルロットが今か今かと出そうと構えているゴルドさんからもらった鉱石は、ゆっくりと鞄に入っていった。
☆
「さて、背の高い人間を手に入れたわけだし、力仕事をしてもらおうかんぼ!」
「人員増加は助かるんぼ!」
「んじぇー!んじぇー!」
はい。俺たちは今牢屋の中にいます。
突然地面から槍が生えてきて、取り囲まれた俺たちは流されるように牢屋に入れられた。
「というかパムレちゃんも普通に捕まっているけど、パムレちゃんなら余裕で出れるんじゃない?」
「……ふあー。まあ無理ではない。でもこの方が後々都合が良いと思った」
意味が分からないよ! 捕まって都合が良いって、普通は入れない場所に侵入するための手段としか思えないよ!
と、そんな話をしていたら『ドシン、ドシン』とゆっくりと、しかし大きく横揺れが続いて次第に大きくなってきた。
目の前を見ると大きな……すごく大きなノームが立っていた。
『んぼ! 人間が来るとは珍しいんじぇ。とりあえずしばらくは美味しい土料理が食べれそうんぼ!』
声が大きすぎて森全体に響き渡る。
「土料理?」
『人間は創意工夫に長けているんぼ。ノームの食料である土に少し細工をしておいしい料理にするのも可能と考えたんぼ!』
「リエン料理長。できるかしら?」
「……まあリエンなら」
「できないよ! 俺の専門は人間にお出しできる料理だから!」
俺を一体何だと思っているんだか。というかリエン料理長って久々に言われたよ!
『できないんぼ!? この原初の魔力に最も近いと言われる土の精霊ノームの願いが聞き入れられないと!』
「原初の魔力に近い……?」
それはどういう意味だろう。
『オラたちノームは原初の魔力『鉱石』の神から生まれし正当な後発精霊。そこらのミルダ大陸で生まれた精霊とは少し系統が違うんぼ!』
『なんじゃとー! 我だって元をたどれば……たどれば……ぐぬぬ!』
『悔しいけどー、言い返せないー』
セシリーとフェリーが少し落ち込んでいる。
というか精霊界にもそういう上下関係があるのかな?
「なるほど。つまり原初の魔力に関係している物でも差し出せば、ここから出してくれるかしら?」
『んぼ? 何かあるんぼ?』
「ええ、これよ!」
そう言ってゴルドさんから渡された鉱石をシャルロットは渡した。というかずっとうずうずしていた腕が動いた感じでもある。
『……んぼ? まあ、確かに原初の魔力の鉱石が込められているけど、今時ミッドガルフ貿易国の鉱石ならほとんど微かに魔力を帯びてるし、珍しくない……んぼ?』
ゴルドさあああああああああああああん!




