表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/224

精霊の森へ行く前の準備1

「またきてねー! しゃるねーちゃ! ぱむちゃー! せしちゃー! ふぇーちゃ! りーくー!」

「またねー!」


 アリシアちゃんの元気な見送りに背中を押されながら店を出る。『りーくー』ってリエン君って意味なのかなーと思いながら照れつつも手を振った。

 隣のパムレはすっごく真剣な目をしていた。

「パムレちゃん、そんな怖い目で睨みつけていたらアリシアちゃんが怖がるわよ?」

「……人の心をわかろうと必死なだけ」

「んー、パムレちゃんの読もうとしている心って、その人の思った言葉だけであって、心とはちょっと違うんじゃないの?」

「……理解できない。言葉のほとんどには相手に伝えるための情報がすべて入っている。その情報が読み取れない以上、あの子はまだパムレと会話はできない」

「そう? じゃあ理解しようとせず、『心情読破』を使わずにアリシアちゃんを見てごらん?」

「……?」


「ぱむちゃー! こんど、いっぱい、おはなししよー!」


 元気に手を振っているアリシアちゃんの姿をパムレは先ほどの真剣なまなざしとは変わって、普通に見た。

「……理解はできない」

「全部?」

「……いや、なんとなくわかった。とりあえずパムレを呼んでいる……気がする」

「会話に言葉は時々いらないと思うわ。アリシアちゃんの笑顔とあの思いっきり強く振った手と、何を言っているかわからない言葉。それだけで大体何をパムレちゃんに伝えたいのかわかるんじゃない? 無理して理解しようとせず、相手が子供なら気楽に接しても良いと思うわ」

「……ん。なんとなく。理解」

 そう言ってパムレは少し笑って手を振った。それを見たアリシアちゃんはさらに強く手を振ったのだった。


 ☆


「あのパムレ様が小さなお子様と触れ合っているなんて……明日は雪でしょうか」

 母さんがおよよーとウソ泣きをしながらパムレと会話をしていた。

「……触れてはいない。手を振っただけ。楽し……かったけど」

 珍しくパムレが照れてる? うん、明日はやっぱり雪なのかな?


「……親子そろって……『パムレットの刑』にするよ?」


「ごめんなさい。というかパムレットの刑ってなんだよ!」

 パムレの事だからパムレットしか話せなくなる生き物になるとかだろうけど!

「それはそうと一度寄って行ってと言ってたけどどの道ここに一泊するつもりだったし、店主殿はどうして一度寄って行ってと言ったのかしら?」

「理由は二つあります。一つは『影の者』の場所へ行くための道具をお渡ししようと思いまして」

 そう言って母さんは一つの鉄の塊りを渡した。先が尖っていて武器にも見える。

「これは?」

「これはクナイという武器です。ですが、すでにボロボロで武器としては意味を持ちませんが、これがあれば彼らとの交渉手段の一つになるでしょう」

 交渉手段。一体なんだろうか?

「もう一つは?」



「ああ、もう一つは単にリエンたちが一泊すると後から金貨五枚ほど手に入るので」



 後払いシステムってまだ稼働してたの!?

 違和感は感じていたけどいつも一泊する時会計が無いからやっぱりまだ稼働してたんだ!

「まあ後払いシステムは半分冗談です。今ここでリエンに『じゃあ野宿する!』なんて言われたらワタチは暴走してしまうでしょう」

「怖い事言わないでよ! 本当にできそうな力を持っているんだろうし!」

 その時はミルダ様を何とか呼び寄せるしかないよね!

「ん? 半分冗談ってことはもう半分は本当ってこと?」

「はい。シャーリー女王様からお世話になっているということで食料の支援と宿泊費等をすでにいただいて、それだけで当分宿代は必要なくなりました」

「え!? 母上が!? ちょっと挨拶しないと」



「あ”、ごめんなさい。今の忘れてください。陰ながら応援する母親の気持ちをついうっかり話してしまいました!」



 わざと言ってるんじゃないかと思うくらいスラスラと話す母さん。うむ、シャーリー女王ってシャムロエ様よりも少し会話しにくい感じだけど、実際優しい人なのかな。

「まあ、せっかくガラン王国に来たんだし実家に顔を出さないとさすがに無礼だろうから、状況報告もかねて明日寄っても良いかしら?」

「そうだね。というかそもそもガラン王国に来たのに女王に挨拶をしないって変だよね」

 まあ一般市民の俺が挨拶に行くってことは変なんだけど、一応今の旅って女王のお願いで動いているしね。


「店員さんー。オムライスひとつー」

「こっちもー」

「あ、今持っていきますねー!」


 と、そういえば普通に会話していたけど周囲にお客さんもいるんだった。


 ☆


 ドタバタしていたけど、時間があるときは剣術の修行も行っている。

「てい!」

「ふっ!」

「やあ!」

「はあ!」

 鳴り響く木刀の音。それをパムレはあくびをしながら眺めていた。

「うん。なかなか鋭い形になってきたわね」

「先生が良いからね。でも結構疲れたー」

 ペタリと地面に座る。

『リエン様よ、冷水じゃ。そこの井戸水をフェリーが煮沸して、我が凍らせた美味しい水じゃぞ?』

『名付けて『精霊の鮮麗な水』だー』

『ぬっ! 言われてしまった』

 精霊たちの会話に少しほっこりしつつ冷たい水がのどを通す。ん? というかこの器はずいぶん立派というか、素人目でもなんとなくだけどよくできた焼き物だな。

「へえ、店主殿ももしかして芸術に興味があるのかしら?」

「母さんが?」

 いや、聞いたことが無いけど。

「え、その器ってこの宿の物じゃ無いの?」

 普通に考えたらまあ……そうなんだけど。



「……我ながらよくできた陶器。コツは温度調整で、ただ高火力で焼けば良いというわけでもなく、全体にまんべんなく熱すること。あとは土も少々こだわった。ここの地下は良い土が取れる」



「「これパムレ(ちゃん)が作った器なの!?」」

 驚きだよ! すごく立派な器だよ!

「……待っている間暇だったからその辺の土で作った。魔力は使わないと腐る」

「いや、腐りはしないと思うけど……」

 にしても何度見ても立派な器だ。普通こういう焼き物って何年もの修行を経てできるものだと思うんだけど……。



 何年も……か。



 永遠とも言える命。その間に何もしないという事はできない。普通人間ならば生きている間に目標ができ、挫折や達成など色々な事を終えた後に『終わり』が待っているけど、パムレの場合は無い。

 そう考えると……なんというか……。

「てい」

「いた!」

 シャルロットに木刀で叩かれた。

「人の心配より自分の心配よ。『心情読破』は便利だけど、人の悩みを無理やり覗くっていい気分では無いわね。今後気を付けようかしら」

 いや、木刀で軽く叩いた後に反省されても。

「……パムレの運命は仕方がない。偶然にも長生きで強力な魔力を持っている体に生まれた今、その力が間違った方向へ行かないように色々な趣味を見つけているだけ」

「間違った方向?」

「……三大魔術師同士の約束がある。もし一人が自分を保てない場合は、ほか二人がその人を戦闘不能にするか、この世から消してもらうという約束。リエンやシャルロットには悪いけど、三大魔術師を止められるのは三大魔術師かシャムロエくらいしかいないから」

 それは紛れもない事実なのだろう。強者のみ強者を止められる。俺やシャルロットはその辺のガラの悪い人よりは力をつけているだろうけど、それでも母さんやパムレには到底辿りつけないのだろう。

「あはは、なかなか暗い話ね。ちなみに自分が保てなくなりかけた人とかいるのかしら?」

「……前にさらっと話したけどミルダが一度なった。寒い教会でずっと座っているだけの仕事に耐えきれず急に教会を出て外の雪を食べ始めた」



 うん。その『外の雪を食べ始めた』っていう話は衝撃が大きすぎるよ!



「……パムレも一回ある」

「え、パムレちゃんも雪を?」


「……んー、さすがにそれは無い。けど、辛い出来事があった。他の人は全員今でも生きているのに、唯一パムレ……マオを助けてくれた唯一の恩人が亡くなった時。トスカがこの世からいなくなった時はこの世界を壊そうと思った」


「「……」」



 すっごく重いんだけど……。



「その、今は大丈夫なの?『マオちゃん』?」

 シャルロットが屈んでしっかりと目の前の小さな女の子に話しかけた。

「……うん。しっかり怒られたから」

「誰に?」

「……リエンママ。フーリエに」

「母さんに?」

「……あの時のマオは考える力がなかった。とにかく暴走していた。本気でこのミルダ大陸を破壊しようとした。でも、そんな本気を超えたマオをフーリエは止めた。だからマオはフーリエを超えるという目標ができて今平常でいられる」

 そんな出来事があったんだ。というか母さんがパムレの本気……いや、本人曰く本気を飛び越えた状態ですら勝ったってすごいな……。



「はあ、ワタチの名前が聞こえると思ったら昔話ですか。人がいないので良いですけど、少しヒヤッとしますね」



「母さん!?」

 たくさんの食器を持って母さんがこっちへ来た。そう言えば井戸がすぐそこだったっけ。

「母さんってやっぱり強いんだね」

「昔の話ではありますけど、そうですね。リエンの母であるワタチは強いのですよ。もっと敬ってください」

「ははー!」

『リエン様よ。母だけに『ははー』とな! なかなか良いぞ!』

 さすが三大魔術師。いや、旅に出るまで知らなかったし、薄々気が付いてたけど血はつながってないしで色々あったけどやっぱり母さんは凄いんだなー。ん? セシリーが何か喜んでるけど、とりあえずいいや。

 と、そんなことを思った瞬間だった。シャルロットが手を口に当ててボソッと一言。



「え、ということはその店主殿に一本取った私ってもっとすごいの?」



「「(……)!?」」



『おおおお!? リエン様よ。俗に言う『空気を読まない発言』とやらが炸裂したぞ! 氷の精霊だけに空気が凍る瞬間が目に見えたぞ!』

『火の精霊だけに闘志が燃える瞬間も見えるよー』

 おいおい、氷と火の精霊がそれぞれの分野で上手な事を言わないでよ。

「良いでしょうシャルロット様。前回の再戦として魔術勝負をしましょう。何ならワタチとパムレ様の二人組で勝負します?」

「……本気を出そう」



「リエン。悪いんだけど一緒に組まない?」



「拒否権があるなら是非使わせてもらおう!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] マオちゃんの人生壮絶……( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ