ラルト隊長の実家
ということでガラン王国に到着!
相変わらず城下町は賑やかである。
と、よそ見をしながら歩いていたら大きな男性とぶつかってしまった。
「おっと、すみません」
「いや、こちらこそすみませ……」
「リエン殿……?」
「ラルト隊長!?」
もはや近くで見ないとわからないくらい普通の服装を完璧に着こなしているガラン王国軍の隊長が立っていた。
「あらラルト。元気だった?」
「シャル様!? え!? ど、どうして」
驚くラルト隊長。そしてその後ろにはラルト隊長の足をギュッと捕まってる少女がいた。
「あれー? しゃるねーちゃ?」
「ラルト。その後ろに隠れている貴方の娘のアリシアちゃんを抱っこさせなさい。命令よ」
容赦無いな!
「しゃるねーちゃ! しゃるねーちゃ!」
ニコニコな笑顔で両手を広げるアリシアちゃん。以前は「しゃるおねえちゃん」って呼んでたけど、今の方が親しみがあるように思える。
「アリシアちゃん久しぶりねー! 元気だったー?」
「げんきー! しゃるねーちゃもげんきー?」
「元気よー。アリシアちゃんに会えてもっと元気になったわー!」
『のうリエン様よ。我たちを扱っているときとあの娘っ子と触れ合っているときの扱いの差は何じゃ? あっちはまるですぐに崩れる雪を優しく触れる感じなのじゃが、一方で我達は手加減無しの力でねじ伏せている印象ぞ?』
『待遇に意見を申し立てるー』
「……あれはもうあきらめた方が良い。ある意味パムレ達は選ばれし者たちなのかもしれない。シャルロットの腕力に耐えられる肉体は誇るべき」
大陸の脅威と言われてもおかしくない三名が、一人の少女を見て悟ってるんだけど。強者の余裕ととらえるべきか、それとも本当に辛いのかわからない。
一方でラルト隊長は「あわあわ」と言って娘が姫に何かしないか不安なのか足が震えていた。そういえば以前奥さんの前でアリシアちゃんと遊んでいたシャルロットを見て「あわあわ」してたっけ。夫婦って似るんだね。
「しゃるねーちゃ。こっちのねーちゃは?」
「こっちはポーラお姉ちゃんよー」
「ふふ、可愛いわね。こんにちはー」
「ぽーねーちゃ! ぽーねーちゃ!」
アリシアちゃんが手を伸ばしてポーラと握手をした。うむ、社交性もあって将来アリシアちゃんは有望かもしれない。
「リエン殿、そちらの女性はどういうお方で……?」
「ああ、ゲイルド魔術国家の姫だよ」
「…………(白目)」
そうだよね! 一国の軍の隊長となると、『姫』って聞くとそうなるよね!
「リエン殿! 恐れ入りますが大丈夫なのですか! 一国の姫二人が同じ場所にいるなんて、盗賊が襲ってきたら大変ですよ!」
「まあ、そのためのパムレ……三大魔術師のマオ様がいるわけだし」
「……時々パムレの存在忘れてるよね。パムレってこの大陸では結構強いと思うんだけど。なんなら今手合わせする?」
「申し訳ございません。貴女様の強さはすでに存じ上げてます!」
ラルト隊長はきっと俺と出会ってから絶対性格が丸くなったよね。初めて会った時は凄い怖い印象だったもん。
「しゃるねーちゃ。ありしあもおおきくなったらしゃるねーちゃのようにきれいになれる?」
「絶対なるわよー。でもね、そのためにはしっかりお父さんの言う事を聞くのよー」
「はーい! おおきくなったら、しゃるねーちゃとぽーねーちゃにまけないくらいきれいなおねーちゃになるね!」
「シャルロット。この子は何か特別な魔術を使っているのかしら? 常にワタシの心を揺さぶってくるのだけれど」
「観念しなさい。アリシアちゃんはガラン王国の宝よ。これこそ魔術には存在しないガラン王国の秘術を彼女は持っているのよ。ふふふ、ゲイルド魔術国家にはない秘宝を目の前に驚きなさい。そして一緒に愛でましょう」
とうとうガラン王国の姫が宝って言っちゃったよ。ラルト隊長は頑張ってその地位にたどり着いたのに、アリシアちゃんは一瞬で国宝になっちゃったよ。あとさらっと国家間のマウントを取りに行ったよね。
「ところでラルト隊長は何故ここに?」
「普通に休暇ですよ。ここ最近イガグリの穴を埋めていたので休暇を返上していたのですが、シャーリー女王から命令を受けたのです。第一小隊は確かミッドガルフ貿易国へ行くということで戻ってくるまでは休暇との命令を受けました」
俺は悪くないのに、なぜか罪悪感が込み上げてきた。うん、きっとどこかで見守っているイガグリさんが苦笑しているに違いない。
「というかパムレはさっきからどうして俺の後ろに隠れてるの?」
「……他意は無い。パムレは必要な時に必要な分だけ動く」
「パムレちゃんもおいでー。いや、むしろアリシアちゃんを抱っこしてパムレちゃんに近づけばいいのね。よいしょー」
「わー!」
「あ、う、お!?」
え、今パムレが最初の「……」無しで言葉を発した? いや、声が出ただけだと思うけど。
「ぱむちゃ? ぱむちゃん!」
「……あ、うん。はい」
「「「はい!?」」」
「ぱむちゃ、なんさい? ありしあは……えっと、ちいさい!」
「……おう、えっと、おぅ……」
すっごく困ってる。え、もしかしてパムレって子供が苦手?
「……リエン、違う。小さい子供には『心情読破』が通用しないからこの子の言葉がパムレにはわからない。要するに、超助けて」
まさかの理由に一同驚きだった。
☆
ポーラをガラン王国城に届けて、俺たちは休憩もかねてガラン王国城下町にある小さな喫茶店に入った。
最初は寒がり店主の休憩所に行こうと思ったんだけど、アリシアちゃんが『ままのおみせきて!』と言い、話を聞くとラルト隊長の実家は喫茶店ということでお邪魔することに。
「まさかのシャルロット様にお茶を出す日が来るなんて……あの、お口に合わなければ残していただいて構いませんので……」
うん。予想通りラルト隊長の奥さんはすっごく緊張していた。以前一度会ったとはいえ、喫茶店に王族だもんね。そりゃそうなるよね!
ラルト隊長は用事があると言って少し外に出ることに。それを言われた時の奥さんの顔はすっごく青ざめていた。
「いえ、とても美味しいお茶です。お茶に合うお菓子を頂いても?」
「は、はい! 今ご用意いたします!」
そう言ってラルト隊長の奥さんは台所へ向かった。
「ふふ。優雅なひと時ね。時々こうして王族の作法を復習しないと、いざというとき忘れそうになるわね」
「いや、澄ました顔で言っても、膝の上のアリシアちゃんがいるから全然王族らしくないけどね」
膝の上のアリシアちゃんが目の前の小さなセシリーとフェリーと楽しく遊んでいた。
「よーせーさん! かわいい!」
『うむ、我は妖精ではなくその上位の……まあ、何でも良い。無邪気とは良い。邪気が無いとはすなわち悪魔が無いに等しい。子は好きじゃぞ』
『熱くない炎に触ってみるー? 不思議な感触だよー』
え、精霊二人って結構子供相手得意なんだ。
一方で大陸屈指の魔術の使い手パムレ様は……。
「……わからない。言葉が……わからない……」
すっごい頭を抱えながらアリシアちゃんを見ていた。
「そういえばパムレって二つの神術を使って会話していたんだよね。最初の『……』は神術を使っているんだっけ?」
「……そう。『心情読破』は相手の心を読む。だから使う言語が異なっていても分かる。一方でパムレの言葉は『意思疎通』で相手に直接パムレの言いたい事をわからせる術を使っているから、疑似的な会話はこれで可能。でも、言葉を直感で話す子供とは会話ができない」
「へえ。ん? でも『心情読破』って確か基本的に人間が対象で、極めれば精霊の話す内容も読めるんだっけ?」
「……そう。普通の人間でもおそらく幼少期から老体になるまで『心情読破』を極めれば可能にはなる。精霊は子供よりも若干だけど考えて話すから、そこを読み取る」
さらっと凄い事を言ってるけど、もうあまり驚かないようにした。
「じゃあ母さんと会話している時ってどうなってるの? 見た目は目の前の母さんと会話しているんだろうけど、『心情読破』を使っているということは母さんの心……つまり大陸中の母さんと記憶共有しているという事は読むと大変なんじゃない?」
その質問にセシリーがアリシアちゃんと遊びながら答えた。
『リエン様よ。じゃからそやつは規格外なのじゃよ。鉱石精霊様の父上である鉱石の神様と会話が出来ている時点で、そやつはすでに人外の領域に達しておる。我らには理解できぬことじゃよ』
「そう……なんだ」
なんだかこれ以上は聞いちゃいけない気もするなあ。
「……別にパムレは気にしない。ゴルドパパと会話するのはリエンママと会話するより楽」
神様と会話する方が楽ってどういうことなの!?
「……リエンママと会話するときはもちろん記憶共有の所為で、今会話している内容をそこから探すことになるんだけど、半数以上が今日のおかずかリエンの事を考えているから、結構大変」
他の母さん暢気だな! いや同一人物なのに『他の母さん』って表現もどうかと思うけどね!




