ガラン王国へ行く道中
ミッドガルフ貿易国の南門から出て、街道を歩き始めた俺たち。新たにポーラというお姫様を連れて旅を続けるのだった。
「……なんという両手に花。というか両手に王族って普通考えられないよね」
「三大魔術師がそれを言う!? 俺だって好きでそうなったわけじゃないよ!」
「……なんなら両手に精霊とか両手に三大魔術師もできるね。リエンすごーい」
「待ちなさいパムレちゃん!」
「……!?」
「両手に精霊は私の特権よ。リエンがもし実行する際は許可を取ること」
おかしいな。俺が契約した精霊なのに何故シャルロットに許可を求めないといけないのだろう。というか俺はそんなことしないから。両手に精霊とかやらないから。
「リエン。シャルロットってあんな人だったかしら? 決め顔で言ってるけど両肩に精霊乗せてるわよ?」
「危ない危ない。見慣れた光景に違和感を忘れていたよ」
「見慣れているの!?」
気が付けば精霊たちも何も言わずに乗ってるし、もう慣れだよね。旅に支障が出なければ問題ないよねって考えが出ていた。
「そもそもリエンは何も思わないの? シャルロットにワタシにパムレ様。そして精霊たちは女性(の姿)で、少しは照れたりしないのかしら?」
ポーラが少し頬を染めて質問する。まあ、確かに皆可愛いんだけど……。
「イガグリさーん」
「ういっす」
シュタッと目の前に現れるイガグリさん。
「きゃあ! 何者!?」
「影の護衛イガグリっす。一応ガラン王国の兵士で副隊長をしているっす」
「とまあ、一応男性もいるよ?」
「りょ……了解ですわ。あ、ポーラですわ」
「よろしくっす。では!」
そして颯爽と消えるイガグリさん。
「まあ、俺たちの次の行き先はイガグリさんの故郷だから、護衛じゃなくても一緒に来てもらわないと困るんだよね」
「そうなのですね。パムレ様だけでも安心ですが、さらに安心ですわね」
その割に急な登場のイガグリさんが少し怖かったのか、パムレの手を握っていますよポーラさん。
と、そんな話をしていたらシャルロットが立ち止まった。
「シャルロット?」
「シッ。その岩陰……誰かいる」
シャルロットがそう言った瞬間、ボロボロの服装で剣を持つ男三人が現れた。
「へへ、女だらけの集団。金や食い物が歩いているようなものだ」
「兄貴、今夜は豪華だぜ」
「ああ。あの男だけ消せ」
あからさまに怪しいお兄さんがいっぱいなんだけど!
「ちょっとイガグリさーん! すっごく怪しい人いるんだけど!」
そう叫ぶとイガグリさんはパムレの隣にシュタッと登場した。
「いや、護衛っすけどあくまで俺は手助け程度って考えてたっす。命令であれば退治しますが」
ふむ、確かにこんなあからさまな状況って滅多にないよね。
そもそもこの度は剣の修行とかも兼ねているわけだし、確かに本当に危険な時以外は手を出さない方針というのもうなずける。
あれ? でもそれだと『安全な旅』という約束も薄れているような……うーん、細かいことを気にしていたら剣の修行もできないし、なかなか難しい問題である。
「ととととと言う事はワタシ達だけで解決を? いや、パムレ様もいらっしゃるのでででで」
「……ん? パムレはリエンの命令で動くけど……どうする?」
「危なくなったらよろしく!」
「えええええ!」
そう言って俺とシャルロットは剣と杖を構えた。
「おお、男と女が武器を持ったぜ。女は俺が何とかするから男はお前らで対処しろ」
「「おう」」
連携の取れた盗賊である。というか二人同時に戦闘か。
「ポーラは下がってて。一気に間合いを……」
一点に集中して、こっちに迫ってきている男の刃物を……。
飛ばす!
ギイン!
「うお! 何だ!」
一気に間合いを詰めて一人の男の剣を遠くへ弾いた。これでもう一人に集中できる!
「やろう!」
もう一人の男の攻撃も今の俺なら簡単にはじくことができる。これは貰った!
「リエン! 後ろ!」
「え」
後頭部に固い衝撃が走った。
「がっ!」
「馬鹿か? 剣を弾いたら終わりって、頭お花畑か?」
「なっ!」
相手は盗賊。言われて気が付いた。確かに剣を奪えば終わりなんて俺の中のルールであり、盗賊からすれば『素手』という武器が残っている。
「リエン!」
「よそ見はあぶねえぜ。お嬢さん?」
「くっ! 『火球』!」
「うお!」
シャルロットは男を一人『火球』で吹っ飛ばす。
「まあ、俺も生きるためだ。悪く思うなよ? 兄さんよお!」
「!」
緊張が走る。
が。
「な……足が……動かねえ!」
意識が飛びそうな状態の中、男の足を見てみると、そこには大きな氷が生成されており、男の足を固定していた。
『見ておれぬわ。というか痛覚は我にも影響が出るからあまり痛手はやめて欲しいのう』
『こっちは燃やすねー』
「うお……うおおおおおおお! 服があああああ!」
男たちは叫び、そして逃げていった。
それを見た瞬間、俺の意識は飛んで行った。
☆
目を覚ますと、空は暗くすでに日が落ちていた。
「はっ! ここは」
「やっと目覚めたわね」
「シャルロット?」
苦笑しながら目の前の焚火に枝を入れているシャルロットの姿があった。
「皆は?」
「しっかり寝ているわよ。パムレちゃんが生成した土の蔵に二人で寝ているわ」
どこかの民族の家みたいなものがそこにあった。
「はあ、また駄目だったか」
「そう落ち込まないでよ。私も多人数での戦闘を教えてなかったから落ち度はあるわ。今度イガグリにもお願いして複数人での剣術を教えるわね」
「ありがと」
そう言うとシャルロットはニコッと笑ってお湯が入ったコップを俺に渡してくれた。
「シャルロットは順調に魔術に関して上達しているのを見ていると俺は焦るよ」
「そう?」
「だって、さっきも『火球』をすぐに出せた。最初に会った頃は変な踊りを踊ってたし」
「忘れなさいよ。あれは間違った練習方法を教えられてたんだから」
まあ、あの時はガラン王国の魔術師がおだてていたという経緯もあるし、仕方が無いんだろうけどね。
「私から見ればリエンは剣術の防御と間合いを取ることに関してはかなり上達しているし、そこまで自信を無くすことも無いと思うわよ」
「そうかな。いまいち上達した感じがわからないな」
「上達したら褒めたほうが良いかしら? その代わり『変な踊り』を踊っても褒めるわよ?」
「うん。褒めないで今まで通りでお願い」
お互い苦笑しつつお湯をゆっくり飲む。
「ふと思ったんだけどさ」
「ん?」
「店主殿……いや、フーリエ殿やミルダ様ってこの世界が誕生する前から存在したのよね?」
「まあ、そんな感じの事を言っていたね。知る権利は無いって言われちゃったけど」
「私達はまだ十六で、記憶は無くても十六年前に生まれたわけでしょ? 一方でフーリエ殿やミルダ様って『生まれていた』って事になるのかしら。それってどんな感覚なのかしらね」
「どんなって……うーん、それは本人にしかわからないだろうね」
そもそも俺にとって一年は結構長く感じるけど、母さんにとっての一年ってどれくらいの長さに思えるのだろうか。
それまでに知り合った人は沢山いるだろうけど、必ず母さんより先にいなくなるだろうし、それは……その……。
『深く考えるでない。リエン様よ』
ガツンと頭の中にセシリーの大声が響いた。
「セシリー?」
ポンっと頭の上に現れる。
『リエン様が悩めば我らも同じく不安になる。それに長く生きる者はそれ相応の覚悟を持っておる。あやつ……リエン様の母上はそれらを理解して今の状態になったのじゃろう』
「それってすごい覚悟だと思うけど」
いつも俺の前では笑顔の母さんだけど、千年以上笑顔だったわけでも無いよね?
うーん、やっぱり色々考えちゃうけど色々片付いたら肩でも揉んであげようかな。
「あ、火の当番は俺がするよ。沢山寝たからね」
「そう? じゃあお言葉に甘えるわ。あとセシリーかフェリーのどっちか借りて良い? できればフェリーの方が暖かいかな」
「はいよ」
『ご主人? ウチ暖かい枕じゃないよー!』
召喚した瞬間がっしりと捕まって土の蔵に入っていったシャルロット。
まあこれも試練だと思ってくれ。
『精霊としての威厳がどんどん損なっていくのが少し悲しいのう』




