精霊の森3
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太陽は真上。
馬も完全な回復というわけでは無いが、歩くくらいなら可能らしいのでゆっくりと前進することに。
シャルロットは兵士達に『兵士達は雑談しなさい。なんか静かなのは嫌』という理不尽な命令をして、城の定食についてひたすら話していた。その話を横でシャルロットが聞いていて、真剣な表情を浮かべた。
「深刻な問題ね」
「ん? 馬の調子でも悪くなった?」
真剣な表情のシャルロット。
「まさか城の食堂が美味しく無いなんて……一国の姫として気が付かなかった私は情けないわ」
「兵士さんたち! その会話止めて! 皆のお姫様がどんどん落ち込んでる!」
「なんと! 誤解です! あの定食は栄養を考えられたもので、いざという時に舌が肥えていては困りますから!」
「そうです! 噛めば噛むほど深みが出てくる栄養食で、あれはあれで美味で」
「いや不味いだろ」
「こいつを牢に入れろ! 今ならそこの仕切り線の奥へ投げ飛ばせ! エルフ達が始末してくれよう!」
「ちょ、冗談ですよー! シャル様、気にしないでくださいー」
いやもうシャルロットは涙目だよ。そしてエルフのお仕事を増やさないでね。
「副長、ちなみに定食って毎日同じなの?」
「うむ、定食は二つ。肉か魚のおかずに汁物と穀物だ。焼き魚や煮魚など、若干の変化はあるが、大体似ているな」
「だったら、数日に一回は少し変わったメニューを出したら良いんじゃない?」
「というと?」
「俺はよく母さんに魔術の特訓をさせられたけど、その日の成績が良かったときはおかずが豪華だったんだ。ハンバーグとかカレーとか」
逆に魔術特訓の成績が悪かったときは、栄養満点の超苦い料理だったりしていたけどね。
「はんばー? かれえ?」
副長含め、兵士たちが疑問を浮かべる表情をする中、シャルロットは少し笑った。
「店主殿はすごいわね。ミッドガルフ貿易国の料理やゲイルド魔術国家の料理などを知っているのね」
「え、ハンバーグとかカレーって違う国の料理なの?」
「そうよ。私も遠征で少し食べたことがあったけれど、とても美味しかったわ。でも……その案は面白いかもしれないわね」
ピタリと足を止めるシャルロット。同時に皆も足を止めた。
「十日に一度、『お楽しみ料理』という制度を作るわ」
「うおおおおおおおお!」
「さすがシャル様だああああ!」
「リエン殿の提案も素晴らしい!」
すごい喜んでいる。そんなに美味しくないんだな……。
「もちろんその制度を取り入れるからには私が責任を取るわ。よって、私が作る!」
「うおおおおおおお!(いやああああああああ!)」
「さすがシャル様だああああ!(終わったあああああ!)」
「リエン殿の提案がああああ!(お楽しみ料理の日はリエン殿を強制的に呼ぶ。絶対にだああああ!)」
ちょっと待って、反射的に『心情読破』を使って皆の心を覗いたら、皆の声が歓喜じゃなくて悲鳴だったんだけど!
驚いていたら、若い兵士が俺の耳元でささやいた。
「シャル様の料理はその……国が滅ぶ」
「おかしいでしょ!」
「何がよ?」
「ああ、いや、何でもありません!」
国が滅ぶって……いや、冗談でしょう?
「シャルロットって料理は得意なの?」
「得意というか好きよ。時々『食材が私の腕に耐えきれない』みたいだけど、兵士たちは皆美味しいって言ってくれるわね」
食材が耐えきれないという言葉を俺は初めて聞いたよ。
とりあえず俺は兵達の心を『心情読破』で覗いてみた。
(そうだ、俺はシャル様の料理を食べてから定食のありがたみを知ったんだ)
(あの料理で料理長はひと月ほど舌がおかしくなって味見ができなくなったよな)
(ガラン王の血筋だろうか……料理をする姫や王女様はすごく笑顔なのに、できあがる料理はすべて……うぷっ)
なるほど、俺はもしかしたら国の戦力を落としかねない提案をしてしまったのかもしれない。
「これはリエン殿にも責任を取ってもらい、初日はガラン城の食堂へ来てもらおう」
「ええー、そんな凄いところへオレナンカガー」
すっごく行きたくない。
「え、副長、良いんすか?」
「む?」
「リエン殿が『万が一喉に詰まらせて間違って料理を吹き出してしまった(まずくて吐き出した)』場合、不敬罪として逮捕。そして副長は連帯責任で逮捕ですよ?」
「なっ!」
いや、その決まりって期限は無いの?
「民の不敬も背負うなんて……さすが副長っすぶふっ!」
「お前今笑っただろう! そこに座れ!」
「騒がしいわね。どうしたの?」
「なんでもありません! さあ、間もなくガラン王国へ到着するのでリエン殿は私の馬に移しましょう」
素早い切り替えに笑いそうになったけど、まあここから先は少し真面目に行動しないといけないんだよな。
シャルロットの魔術勉強の許可をガラン王国の女王に話さないといけないんだもんな。