秘宝の在処
牢屋の中には黒装束の人がうつぶせで寝ている。手足は土で固められ身動きが取れない状態だ。
「はい、これで出れますよ」
ゴルドさんがカギを生成して牢屋を開けると、ミッド王子とイガグリさんが外に出る。
「さて、外に出たんだし、どうしてイガグリがここにいるのか説明して欲しいわね?」
「半分はシャル様の影の護衛っす。ですが道中嫌なうわさを耳にしたんで、そっちを優先に行動したっすよ」
「嫌なうわさ?」
「はい。俺の実家の者がミッド王子を消そうとしているという噂を聞きつけて、急遽ここへ駆け付けたっす」
そういえばイガグリさんって元々どこか別の場所で育ってて追い出されたんだっけ。すごくさらっと言われたからほとんど覚えてないけど。
「俺の実家は特殊な剣術や体術を扱う部族っす。特に隠密行動や剣の使い方……俺の実家では『刀』と言いますが、それの扱いには特化してるっす」
そう言ってイガグリさんは『刀』とやらを見せてくれた。よく見ると普通の剣と違ってすごく薄い。
「母さんは何か知っている様子だったけど、イガグリさんの実家について知ってるの?」
「そうですね。突如『精霊の森』に現れた暗殺集団としか」
何その物騒な集団。しかも精霊の森に現れたって、タプル村の近所じゃん!
「と言っても当時ワタチとパムレ様が『火球』を放ったらすぐに降参してきました」
「え、暗殺集団が降参?」
「……その集団は共通して絶対に魔術が使えない人間。体術に特化しているけど、彼らにとって魔術は『ありえないもの』らしい」
よくわからないけど、魔術がありふれたこの大陸でも魔術を知らない部族がいて、その魔術を見た瞬間負けを理解したということかな?
「そこから数百年経ち、精霊の森で鍛えた俺たちの先祖は徐々に勢力を強めて、もう一度暗殺集団として活動し始めたというわけっすね」
「イガグリさんもその集団に?」
「俺は途中で修行が嫌になって破門……村を追い出されたっす」
なるほど。そういう事情があったんだな。
「ほうひへほはへはひふ! ひはふひ!」
黒装束の人が叫ぶ。
うん、地面に顔がついた状態で話せばそうなるよね。
パムレが小さな火球を放ち、黒装束の顔の下に小さな穴を作る。
「イガグリ! 部族の恥を見つけた今、お前をここで打倒して」
「……うるさい」
ぼふっ!
「ふふんふふふんふん……んんんんんんんんんんんんんんん!」
パムレが黒装束の頭の上に砂を生成してそれをかぶせる。
って、いやいや! それだと息できないでしょ!
再度ぼふっと音が聞こえ、砂が周囲に飛んだ。
「はあ、はあ、絶対に許さん!」
「それはこっちのセリフよ。おかげでリエンは死にかけたんだからね」
「ん? いや、俺が死にかけたのってイガグリさんの攻撃じゃね?」
「「……」」
ガチャ。
ボッ。
「待ってほしいっすシャル様にリエン殿の母上様! 不可抗力っす! 敵の気配を移す特別な技を使われて仕方が無かったっす!」
「今回は許してあげます。ですが条件としてガラン王国の宿屋の土地代をもう少し値引きするよう女王に伝えて欲しいです」
それ姫の前で言う!?
シャルロットも隣で『え!?』って顔したぞ! 瞬時に真顔に戻ったけど!
「それよりも『影に潜む者』なら創造の編み棒について知っているでしょう?」
「くく。それをお主らに教えるか。どんなことをされても口を割らない訓練こそ受けておる!」
凄い自信だ。
「そう。なら貴方に選択肢を与えてあげる。どの拷問が良いかしら?」
「は? どの拷問?」
そう言ってシグレット先生・パムレ・母さんの三人が並んだ。
「俺の拷問は主に薬品を使ったものだな。実験した薬の中で上位を争う出来の薬で、これを飲めば質問に対して正直に答えてしまう。副作用として一生笑ってしまうがな」
「なっ!」
「……パムレは洗脳。頭の中かき回す。もう普通の生活には戻れない。一生お菓子について考えるしかできず、きっと言葉も『パムレット』しか発せない。でも安心して。意思疎通できなくても生きてはいけるから」
「えっ!?」
「ワタチはまあ……ふっ」
「最後がある意味一番怖い!
さっきまで殺気を放っていた暗殺者が一気に弱気になった。
『リエン様よ。さっきまで殺気とな? さっきまで殺気とな!?』
頭の中でセシリーが騒いでいるけど無視!
「ぐう、あの秘宝は我ら部族を守るために必要な物。どこにあるかなぞ……」
「……動揺は時に本音を不可抗力に話す。なるほど、そこにあるんだ」
「なっ! 我は在処なぞ……はっ!」
なんというか、凄い心理戦を目の当たりにした。
パムレが一瞬『心情読破』を使い、カマをかけて心に話させた。
「……ふむ、どうやらイガグリの実家の里にあるらしい」
「不覚……くっ、この両手を自由にさせろ! そして我はここで絶つ!」
「へいへい、すこーし寝てくれますか? はあ!」
イガグリさんが軽く黒装束の人の後ろ首を叩くと、パタリと倒れた。
「気絶っす。このままだと自害しかねないんで。ただ、この後どうするか」
そう言っていると、後ろから多くの兵たちが走ってきた。
「動くな! 動けばこの場でとらえる!」
がしゃりと剣を構える兵達。そして後ろにはガルフ王が立っていた。
「シャルロット姫。まさか理由はどうあれ貴女がここに強行突破してくるとは思わなかった。覚悟はおありで?」
「ミッド王子を助けるためよ。本人が一番知っているわよ」
「うぐ……それは……」
え、本当の事じゃん。どうしてミッド王子はそこで黙るのだろうか?
「まあ当然っすよね。ここで頭を縦に振ったらガラン王国に貸しを作ることになるっすからね。王子の命を姫が助けたなんて、一生の恩と言っても過言では無いっすね」
なるほど。つまるところ『王族って本当に面倒だな!』ってやつだね。
「ミッドよ。どうなんだ?」
「ぐ……う……」
「ふむ、無言だな。これはやはりとらえて話を聞く必要があるな」
そんな! ここで時間を無駄にするわけにはいかないのに!?
と、あたふたしてたらシグレット先生が一歩前に出た。
「何だ貴様は……っと、依頼していた魔術学校の講師か」
「はい。シグレットです。一つよろしいでしょうか?」
「何だ?」
「この場の者全員捕らえるという事は、『ガラン王国の姫』と『三大魔術師マオ』と『全国展開している宿の店主』と『三大魔術師の息子』と『魔術学校講師』と『ガラン王国の兵』をとらえるということですよね? 二国間の問題ならまだしも、三大魔術師とガラン王国とゲイルド魔術国家の者を捕らえるというのは、今後に影響するかと」
「おい待て、『三大魔術師の息子』って誰だ?」
「そこのリエンです。三大魔術師の一人、魔術研究所の館長の息子で、ついこの間事実を知らされました」
「なっ!」
言われてみればそうだよね。俺はともかく皆肩書は凄いもんね。
『うむ、我も精霊なのじゃが、隅っこでフェリーとお絵描きでもしてるかの』
『どうせ捕まるならー、暇つぶししてるー』
「あ、ボクも混ぜてください。精霊の交流会をしましょう」
『何と!? 原初の魔力の精霊と交流会……我リエン様と契約できて本当に良かったぞ?』
『セシリー姉さん本当にうれしそー。いやウチもうれしいぞー』
「あはは、それは良かったです」
「……あっちで井戸端会議をしている人間より優れている『精霊』はとりあえず置いといて良いと思う」
「置いとけるか! ぐう、わかった。謁見の間にて話だけを聞かせてもらう。それで良いか?」
「ありがとうございます」
そう言ってガルフ王と兵達は去って行った。
「一難去ってまた一難。シャルロット様がお話している間、ワタチの家で休憩しましょう」
母さんの提案に皆賛成をし、その場から去った。
『はっ! ぐ……イガ……グリイイイ! ここからだせえええええ』




