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影の者

「まさか教え子が牢屋の鍵をかける日が来るなんて思わなかったなー。先生は悲しいなー」

「あはは……ごめんなさい。ほら、母上にお願いして何か足りない教材を手配するから」

「ゴルドがいなかったらどうなってたかなー。はあああああ」

 すっごいあからさまなため息をつくシグレット先生。大人げないなー。まあシャルロットも何も考えずに鍵をかけちゃったのは悪いんだろうけど。

「まあまあシグレット。シャルロット様もこう言ってますから許してあげてください」

「まったく……そもそも上司が多忙だから俺に仕事が回ってくるんだよ。人使い荒い上司を持つと大変だぜ」



「ほう? 本来違法な魔獣の飼育で逮捕された貴方を『金貨五百枚』出して保釈し、仕事まで与えたワタチに何か不満ですか?」



「すみません言いすぎました。本当はいつも感謝してます。少し調子に乗ってみたかったんですもう言いませんからその背中でふわふわ浮いている目玉の悪魔をしまってください」



 すげー。一瞬でシグレット先生が土下座をしたぞ。

 というかあまりにも鮮麗された動きに実は慣れているんじゃないかと思う。

「というか魔獣の飼育って……シグレット先生何やってるんですか?」

「薬の研究だよ。魔獣の血液は人間とは違う魔力があるからな。どこで情報が漏れたかわからないが、研究中にガラン王国の兵士が攻めてきて捕まったんだよ」

「違法なわけだし、自業自得では?」

「うん……そうなんだけどね」

 苦笑する先生。にしても金貨五百枚って凄いな。タプル村では数世代に渡って贅沢できる額だよね。

「うちにそんなお金あったの? もしかして昔は宿でかなり稼いでたとか?」

 その疑問にシャルロットが真顔で答えた。


「リエン、普通に考えて? 『大陸中に展開している宿屋の店主』に『魔術研究所の館長』に『魔術学校の校長』に『三大魔術師』よ?」


「え、今更だけど母さんの年収っていくらなの!?」


「言うわけ無いじゃないですか。まあ、慈善事業をやらずに稼ぐことだけをすれば保釈金くらい一か月で稼げますね」

 何それ!?

 もしかしてウチって想像以上にお金持ちなの!? そこら辺の貴族よりも凄いじゃん!

「……フーリエは稼ぎのほとんどを研究とか道中の宿の資金とかにしているから、蓄えはあってもそれ以上増えてはいない」

「パムレ様がワタチのお財布事情を知っていることはさておき、まあそういう事です。リエンにはそもそも贅沢をさせない教育をさせているので、あまり教えたくはなかったのですよ」

 なるほど。まあ、今となってはタプル村の生活も楽しいと思えるし、お金持ちの生活が羨ましいとはそこまで思わないかな。……少しは思うけど。



「だから私はいつガラン王国が買収されるかと恐れているのよ……その……店主殿、私は店主殿を信じていますよ?」

「ふむ。ガラン王国改め『寒がり店主王国』ですか。悪くないですね」



 その言葉にシャルロットは固まった。いやいや、宿の名前が国の名前って嫌だよ。

「っと、そろそろ本題に入るけど、『影の者』ってパムレは知ってるの?」

 その言葉に母さんが驚いた。

「待ってくださいリエン。その名前はいつ聞きましたか!?」

「え、ミッドガルフ貿易国の地下牢でミッド王子が」



「マオ様! 至急ミッド王子様のところへ!」


 ☆


 まさか同じ道をもう一度走るとは思わなかった。

 地下牢前の門番はパムレの魔術で眠らせて、急いで地下牢へもぐりこんだ。

「リエン! 屈め!」

 シャルロットが普段使わない口調で叫ぶ。俺は反射的に屈む。


 頭上で『ギイイン!』と音がした。鉄と鉄がぶつかり合う音?


 頭上を見ると長い剣とガラン王国の秘宝の短剣がぶつかり合っていた。シャルロットは瞬時に俺の腰から短剣を取り出したのだろうか。



 え、普通に凄いんだけど……。



「……『光玉』」


 パムレが辺りを光らせ、剣を振るった相手を確認する。



「って、シャル様!?」

「イガグリ!? どうしてここに!?」

「ミスったっす! 誰でも良いから魔術で俺をミッド王子の牢までぶっ飛ばすっす!」

 イガグリさんの言っている意味が分からなかった。

 瞬時に母さんが『風球』を放ち、イガグリさんに命中させた。

 吹っ飛んだイガグリさんは奥のミッド王子の近くまで行った。



『ギイイイイイン!』



 またしても鉄の音。

 薄暗くてよく見えない。一体何が起きている?

「貴様、何故ここに?」

「へへ、姫様の護衛兼お手伝いっすよ。今この方に死なれては困るんでね」

 駆け付けると、血だらけのイガグリさんの目の前には、黒装束の軽装な人間が短剣を構えていた。

「ひい! 一体突然なんだ!」

 さっきまで寝ていたのか細目で周囲を確認するミッド王子が叫ぶ。

「くっ、我らの存在を広める者は消す。今日は寝れても明日以降は恐怖に怯えよ!」

 そう言って地面に白い球のようなものを投げた。

 すると、周囲は一気に煙まみれになり、全然見えなくなった。



『ガギイイイイイン!!』


 ☆


 時間と共に煙が消えていった。

 ようやく周囲が確認できた。

 俺の後ろには母さん。右にはパムレ。左にはゴルドさん。

 牢屋の近くにはシャルロット。

 牢屋の中にはミッド王子とイガグリさん



 ……と、黒装束の人がいた。正確には黒装束の人は頭に大きなたんこぶを作って倒れていた。



「ほら、敵を閉じ込めれば逃げられないかなって思って、鍵を閉めたんだけど、よくよく考えたら私達も中に入れないしミッド王子が危険になるだけだなーって思ってずっと焦ってたの! 後で謝る気満々だったのよ!」



 どうやらイガグリさんと黒装束の人が交戦中にシャルロットはシグレット先生にやった様に牢屋の鍵を閉めちゃったらしい。

 そして煙を出す球を投げた後逃げようとしたのだろうが、まさか鉄格子が閉まっているだけでなく鍵までかかっているとも予想できずに衝突し、現在黒装束の人は気絶していた。



「それはさておき、どうしてイガグリがここにいるのよ?」



「さておかないで欲しいっす! これでも懸命に国のために働いていたのに、その国の姫じきじきに牢屋の鍵を閉められて、結構心に傷を負ったっすよ!?」



 鉄格子を掴んで涙を流すイガグリさん。うん、結構可愛そう。シャルロットは鍵を見たら閉めたくなる癖を直して欲しい。今回はファインプレーだと思うけどね。

「はあ、はあ、待ってくれよー」

 と、遅れてやってきたシグレット先生。

「ゴルド、悪いんだけど開けて貰って良いかしら?」

「良いですけど、この黒服の人起きないですか?」

「さっき『心情読破』を使ったけど、特に何も反応が無かったし大丈夫だと思う」

 そう言うとパムレが一歩前に出た。

「……甘い。この人は特別な訓練を受けている。手かせ足かせをつけるから待って」

 そう言ってパムレは魔術で黒装束の人の手足に土の塊を付けた。

「ぐあああああああああ!」

 と、突然黒装束の人が大声を上げる。もしかしてパムレはこれを見抜いて?



「……ほ、ほらね? パムレの言う通り……だったでひょ?」



 うん! 念のため手足を封じたけど本当に『気を失っていたフリ』をしていたとは思っていなかったみたいだね!

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[一言] 牢屋の鍵最強説( ˘ω˘ )
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