ミッドガルフ貿易国2回目7
ということで店中探しても見つからず、闇市も今はレイジの一件があったから復旧作業で聞き込み調査はできない状態。
ということで今俺は謁見の間に到着したのである。
「ガルフ王久しぶり。最初の挨拶は省くわ。編み棒あるなら出して。ほら」
「適当過ぎないか!?」
うん。俺も思った。
普通王族ってそれなりの一連の会話があって、長い会食なんかもあってようやく本題だと思ったんだけど。
さすがのパムレとゴルドさんもこのやり取りには苦笑している。
「まあ、別にいつも通りの流れをしても良いけど、『前回あんなことがあった手前でそれをチャラにする好機を逃しても良い』のであればそうするわよ?」
兵たちがザっと敬礼した。おおー、そういえば前回大変だったもんなー。
「ご……ごほん。失礼した。編み棒という存在についてだな……今宝物庫や店の帳簿を調べさせる。それまで客室でごゆるりと過ごされては?」
「そうさせてもらうわ」
なんか今回のシャルロットめっちゃ上から目線なんだけど!
☆
「とまあ、正直私らしくない振舞いに私自身鳥肌が立ってるのだけど、実際ミッドガルフ貿易国は隙を少しでも見せてはいけないのよ」
と言って目の前のお茶をすするシャルロット。その姿はとても優雅だった。
隣でパムレがパムレ(お菓子)を食べているし、ゴルドさんは手から鉱石を生成して色々な形にして遊んでいた。自由だなー。
『のうリエン様よ。我達も出てよいかのう?』
『ちょっと窮屈―』
あ、そう言えばずっと出してなかった。
脳内に話しかけてくるセシリーとフェリーを出して、とりあえずシャルロットの両肩に置いてお茶を飲む。
『やはりおかしいじゃろ。もはや定位置になってる?』
『もう慣れたー。慣れたくないけどー』
まあ、シャルロットもお茶に夢中だし問題は『両肩に可愛い生き物。そして手には美味しいお茶。これが夢にまで見た光景ね。あ、パムレちゃんは膝でも良いのよ?』無いかな……って思ったけどそうでもなかったね。
「……パムレはお菓子に夢中。リエン、何とかして」
「そうだな……あ、じゃあセシリーの犬を召喚すれば?」
『む? まあ、リエン様の魔力に余裕があるなら良いが……ほれ』
そう言ってセシリーはシャルロットの膝の上に小さな白い犬を召喚した。
クウンと鳴く犬はとても可愛く、そしてモフモフである。
「ふぉああああああ! これはヤバイわ! 幸せえええ!」
と、大声を抑えて言うシャルロット。そこへ。
『じゃあウチも出すー。火の鳥―』
ポンっと赤い鳥がシャルロットの頭に乗る。大きさにして頭の半分くらいで、普通の鳥と比べて丸っこい。
「え、ナニコレ……明日私死ぬの? こんな幸福を今日一日で味わって良いの?」
「見た目が滑稽だよ。両肩に精霊、頭に鳥?、膝に犬って……」
やっぱりこの子は姫では無いんじゃないかなって思ってしまうよ。
と、そこへ突然パムレが俺の右手をぎゅっと握ってきた。
「え、どうしたの?」
「……精霊を従えるなら教育は必要。精霊二体とその召喚獣二体なんて出したら魔力が切れて倒れるよ? 魔力供給したげるから、今後は気を付ける」
右手からすさまじい量の魔力が流れ込んでくる。同時にすさまじい量の魔力が抜けているのがわかった。
『あ、ご主人ー、ごめんー。この鳥は結構魔力使うー』
「先に言ってよ! あとパムレありがとうね!」
シャルロットの幸せの代償は俺の魔力ですか。
「あはは、なんだか二人とマオ……いや、パムレを見ていると、昔を思い出しますね」
「昔?」
「シャルロットの先祖シャムロエと、その相方トスカ。そしてその隣にはマオ。リエンはトスカとは違いますが、なんだかあの頃を思い出します」
ガラン王国史の中で一番偉業を成したとされる先代王トスカ様。俺の中では偉大な王様という感覚だけど、こういう平凡な一面もあったのだろうか。
というか、そういう一行の中にパムレもいたんだよなー。やっぱり三大魔術師ってすごいな。俺の中で三大魔術師の尊敬度の浮き沈みが激しいけど。
「トスカ様って大叔母様の旦那様よね? ということは大叔父様ということよね。どういう人だったの?」
「そうですね……」
そう言ってゴルドさんは少し考え、何かを思い出して話し始めた。
「腰痛治療の達人でした」
「偉大な王様から一気に庶民の味方に格下げしたよ!」
何腰痛治療の達人って!
いや、医学の分野で考えたら凄いけど、もっとこう……戦争を鎮めたとか無いの!?
「いやいや、これは凄いことですよ? ボクのような精霊は悪魔の影響を何かしら受けるので、その都度『原初の魔力:音』で治療してもらいました」
原初の魔力で腰痛の治療してたの!?
そんな世界を作り上げた魔力を腰痛治療に使うって、どんな贅沢なの!?
「一番つらいのは不意打ちですね。雲を眺めてぼーっとしていたら後ろでフーリエがくしゃみをしちゃって、その時は気を失いかけました」
母さん何やってるの! いやくしゃみは人間の生理現象だからしょうがないけど! というか母さん悪魔だからゴルドさん凄く影響するの忘れてたよ!!
「……リエンママはあれでもかなり抑えている。けどくしゃみや不可抗力にはどうしても悪魔の魔力が漏れる」
「店主殿も大変なのね。じゃあ『ついうっかり』店主殿を驚かせたら、ゴルドは倒れるのかしら?」
「やめてくださいね。フーリエの魔力は疲労・腰痛・歯痛・頭痛・目の疲れ・足のむくみなど、色々な影響が出るんですから」
聞く限り温泉の効能を言ってる感じなのが非常に残念である。
「と言っても、腰痛治療だけじゃなく『味覚』を教えてくれました」
「味覚を教える?」
はて、どういう意味だろう?
『リエン様よ忘れたか? 我ら精霊はそもそも食を必要としない。それに味覚が無いのじゃよ』
『パムレットの美味しさなんてーウチにはわからないー』
そういえばそうだった。ピーター君がサンドイッチをセシリーに渡した時も食べる身振りはしたけど、実際味はわからなかったみたいだし。
「音の魔力で料理の味をボクに伝えることで今まで感じなかった味覚というものを感じることができました。あれは感謝ですね」
「へえ、つまり私が『音の魔力』を使えば、このお茶の味を伝えることができるのかしら?」
と、シャルロットが提案。しかしそれをパムレが阻止する。
「……ダメ。多分大変なことが起こる」
信頼というのは大切である。一度犯してしまった罪は簡単に消えないね。
「あはは、せっかくですし久々に人間のお茶を飲んでみたいなって思いました」
「……どうなっても知らない」
「ではこのお茶について心を込めて説明するわね」
そう言ってこほんっとひとつ咳をして説明を始めた。
「まずこのお茶は何と言っても香ばしい苦みかしら。ふわっと漂う香りがとても良くてガラン王国でもお客様向けによく出されているわね。高級な茶葉として有名なこのお茶……
あら危ない。カップの底に小さな茶葉が入っていたわ。これそのまま口に入れるとすっごい渋いのよね。一日口の中で苦みが消えない成分があるのよね。
っと、底の茶葉を取ってっと。ん? ゴルド? なんか顔色青いけどどうしたの?」
しっかりと話を聞いていたゴルドさんは口の中をもごもごしている。うん、実際俺も若干口の中が苦く感じてきた。これが音の魔力の力か……。
セシリーとフェリーと犬と鳥もなんとなく苦い顔をする。
「って、パムレだけは平気そう?」
平然と目の前のパムレ(お菓子)を黙々と食べる。もしかして通用しなかった?
と、俺の目を見てパムレが反応した。同時にパムレは耳に触れた。
「……名付けて『麗しの音魔力完全阻止物質絶対防音耳栓』」
全然麗しさが感じられない耳栓をポンっと一つ外すパムレ。すげー、魔術で耳栓まで作れるんだ。
『ぬお、リエン様よ。その『ミミセン』とやらの魔力でこの国一つ破壊するほどの力がこめられておるぞ!」
なんてものを両耳に生成したんだよ!




