ミッドガルフ貿易国2回目6
「そこ! 返しが甘いのです! それではご飯が焦げてしまいます!」
「はい!」
「鉱石を司るなら鍋の鉄の熱も自在に操ってください! ほら腕が止まってますよ!」
「はいい!」
「はいそこでご飯を浮かせるのです! 下からの炎の熱を直接ご飯に当てるように!」
「はいいい!」
騒動の後、とりあえず簡単な掃除を行ってすぐに寝て、翌朝になると母さんの声が鳴り響いていた。
うーん。完全に母さんが知らないお爺さんをいじめているようにしか見えない。
金髪で白いひげが生えたお爺さんはゴルドさんの父? のアルカンムケイル様という神様らしいけど……普通の人じゃん?
「というか店主殿がその神様を使役している様にしか見えないし、やっぱり店主殿ってすごいんじゃない?」
「相手は神様だし、やろうと思えばこの場から逃げられるような気もするけど……」
ゴルドさんを見ると苦笑しながら話し始めた。
「神という存在は地上に降りると力が制限されるので、実はボクよりも少し強いくらいになりますね」
「でもそれなりに強いんじゃない?」
「あはは、そこは相性が悪かったですね。フーリエは悪魔で父上……アルカンムケイル様は神ですけど地上においては精霊と同等。つまり相性的に店主殿の方が現段階で強いことになりますね。聖術は使えますが、『人間の』フーリエが来たらさすがに負けるでしょう」
俺の母さんがとうとう神を超えちゃったよ。もう三大魔術師という称号がご近所レベルに思えてきた。さようなら一時はあこがれた三大魔術師という称号。
「……すっごく言いそびれたけど久しぶり」
「む? お主はあの時の人間……ここにおったのか」
パムレがアルカンムケイル様と軽く挨拶した。
って、パムレは神様と知り合いだったの!?
今ので急降下した『三大魔術師』の評価が一気に急上昇したよ! こんにちはやっぱりすごい称号『三大魔術師』!
「……一応名誉挽回。にしてもどうしてゴルドパパがここに?」
「それが」
「だーらっしゃい!(黙ってください!) まずはそのチャーハンを作ってからにするのです!」
「はひいいい!」
☆
ということで、目の前には神様が作ったチャーハンが並べられながらの朝食となった。
いや、普通人間が神様に何かお供えするんじゃないの?
これじゃあ立場逆転してね?
「こほん。改めてゴルドの生みの親アルカンムケイルじゃ。ゴルドが世話になっておるの」
そう言うとゴルドさんは少し照れた。親の挨拶を隣で聞く子供という感じだろうか。
ペコリと軽く頭を下げるシャルロット。そして話し始めた。
「いえ、こちらこそいつもお世話になってます。それで、ゴルドのお父様はどうしてここへ?」
「ふむ。理由は言った通り、この世界を眺めている途中で突然膝付近にいたずらされてのう。転んでここに落ちてしまったのじゃよ」
案外神様の降臨って些細なことなのかなって思っちゃうよ。いたずらで落ちるもんなの?
「それにしても何者かという部分に引っかかりますね。気配とか感じなかったのですか?」
「うむ……それが、何かにぶつかったのは事実としてあるのじゃが、それが何なのかが不明なのじゃよ。背中には何もなかったと『思う』。しかし事実として背中から何かがぶつかった。神である存在が言うのも変じゃが、不思議なものじゃよ」
うん。正直神様が作ったチャーハンを目の前にこんな話をしている時点で不思議を通り越して混沌だよ!
「ということでゴルド、悪いが『お前の子』の力を借りて帰らしてくれぬか?」
「「ゴルド(さん)の子!?」」
ちょっと待って、ゴルドさんって精霊だよね!? 子供いるの!?
「そういえばゴルドって大叔母様の娘のシャルドネ様に名前を付けられたのよね? つまりその間に子を授かったとしたら……」
「あー待ってください。ややこしくなるので結論から言うとボクの魔力から生まれた精霊です。人間との間の子はいませんよ」
「「驚かせないでよ!」」
ちなみに驚いているのは俺とシャルロットだけだ。母さんとパムレは平然としている。
「じゃあゴルドの子供ってどこにいるの?」
「えっとですね」
そう言ってミルダ大陸の地図を机の真ん中に置いた。
改めてミルダ大陸の全体図を見ると不思議な形で、北にゲイルド魔術国家。西にミッドガルフ貿易国、南にガラン王国があり、その三点を線で結べば簡単な地図が出来上がる。
実際はガラン王国とゲイルド魔術国家の間は海になっており、陸路を使っていくにはミッドガルフ貿易国を通過する必要がある。
「このガラン王国とゲイルド魔術国家の間の海に、ポツンと孤島があります。そこにボクの子供……こほん、精霊が住んでいます」
へー。そう言えば小さな孤島が存在するって言ってたし、ガラン王国とゲイルド魔術国家間で貿易をする際の船の休憩所として使うーとか言ってたっけ。
俺たちが船に乗った時は通り過ぎちゃったけどね。
「まあ『ガナリ』もずっと怠けているでしょうし、久々に頼んでみますか」
どうやら『ガナリ』という名前らしい。うーん、ゴルドの子供ということで少し気になるところではあるが……。
「何を言ってるんですか? 何逃げようとしているんですか? 何度も言ってますが相手が神でも屋根の修理代は稼いでもらいます」
母さん!?
「ちょっと待つのじゃ! ワシが戻らんと原初の魔力の神としての威厳が」
「この世界をイヤらしくも覗いておいて威厳もなんもないでしょう! それにガナリ様は『寒がり店主の休憩所ー孤島店ー』でしっかり働いてもらっているので、暇ではありません!」
「「え!?」」
親子(正確には精霊と神だから親子ではないけど)揃って驚いていた。
「大変よリエン……」
と、そこへシャルロットが額に汗をかいている。
「ガラン王国・ミッドガルフ貿易国・ゲイルド魔術国家の三国に店があるだけでもすごいのに、前人未到の孤島まで店を置かれたら手も足も出ないわ……もうこの大陸は店主殿に支配されていると言っても過言では無いわね」
知らない間に実家が全国展開を通り越していて驚きだよ!
「ゴルド! 頼む、この方を説得してくれ! このままだとワシ……このチャーハンとやらを作ることに!」
「すみません父上。フーリエには大きな恩があるので、ボクは何も」
「ゴルドオオオオオ!」
☆
ということでゴルドのお父さんことアルカンムケイル様は母さん(ミッドガルフ店)のところで働くことになり、これから晩御飯の仕込みに入るとか。これ以上長居すると神様と悪魔(母さん)の間でチャーハンを作る手伝いをさせられそうだし逃げてきた。
「ゴルドは良いの? 一応お父さんよね?」
「まあ時々『ガナリ』を通じて会話をしてますし大丈夫ですよ。まあ、ここ数十年連絡をしていませんでしたが」
へえ。その『ガナリ』とゴルドさんは何かしらの連絡手段を持っているのだろうか?
「……ガナリは鉱石精霊から生まれた少し変わった存在。魔力的には原初の魔力だけど、セシリーやフェリーと同じく後発精霊に近いかもしれない」
「なんだか頭がこんがらがって来るわね。ところでそのガナリちゃんとはどうやって会話しているの?」
とうとうガナリ『ちゃん』って呼び始めたあたり頭の中ではちっちゃい子供を想像しているのだろう。
「そうですね……ここでは少し目立つのでこの陰で」
そう言って今は使われなくなった家と家の間に入った。
そしてゴルドさんは精霊術を使って二本の棒を地中から生成した。
「これは?」
「これは普通の鉄の棒なのですが、こうして地面に突き刺して並べると震え始めて、それが音に変わります。どういう仕組みかは説明を省略しますが、その音を使ってガナリとボクは離れていても会話ができるのです」
へー。よくわからないけど、とにかく遠くの人と会話ができるのか。母さんを通じてミルダ様と会話している感じだろうか。まあ、そもそも普通の人って『母さんを通じてミルダ様と会話』とかしたことないけどね!
「あーあー、ガナリー。聞こえますか?」
『父様!? 今話しかけないで!』
おや。可愛らしい少年の声が聞こえたぞ。
「見抜いたわ。身長はパムレちゃんと同じくらい。見た目は少女っぽいけど男の子。ゴルドの魔力から生まれたということでゴルド似だろうけど、どちらかと言うとパムレちゃんに似ているかしら」
「怖いよ! 音だけでそんな予想しないでよ!」
これも音の魔力の能力なのだろうか? いや、絶対違う気もするけど!
「せっかくですし創造の編み棒の情報があれば聞き出してみましょう。ガナリ―、あのですねー」
『ここにいましたかガナリ様! ワタチは今超怒ってますよ! 貴方のお爺様に屋根を壊されただけでなく夜に孤島限定パムレットまで食べましたね! お仕置きとしてパムレットの生地を三倍作ってもらいます!』
『ぎゃー! 父様絶対許さない!』
『ふふふ、ゴルド様には感謝ですね。ありがとうございます。では後程……』
『ぎゃあああああ!』
「「「……」」」
なんだろう。悪いことをしていないのに悪いことをしてしまった感覚が襲ってくる。というか母さんこの短期間で短気になってない?
『リエン様よ。短期間で短気とな?』
セシリーが何か反応したけどとりあえず無視しよう。
「……パムレは『孤島限定パムレット』という言葉の所為で今すぐにでも旅に出たい」
「母さんに頼んで作ってもらうから飛んでいかないでね」
世界の危機のはずなのに、何故だかいつもどこか気が抜けてしまう今日この頃だった。




