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ミッドガルフ貿易国2回目5

数分後。

「で、何故ボクが紐でぐるぐる巻きになっているのでしょう」

「……なんとなく?」

 パムレが張り切って外へ出て、数分で戻ってきたと思ったら、ひもで身動きを封じられたゴルドさんがやってきた。

「って、そうか。ゴルドさんはその手の専門家か!」

「誰ですか? この方は」

 と、ポーラの質問にシャルロットが答えた。

「楽器屋兼鍛冶屋兼『鉱石精霊』兼多分宝石とかの専門家のゴルドよ」

「へー。ずいぶんと肩書が多いのね」

 と、ポーラが一瞬固まった。



「ちょっと待ちなさい。鉱石精霊ってどういうことかしら?」

「そのままよ? 鉱石の魔力を持った精霊さん」

「ああああななななたがあああ!? は、初めまして! ぽ、ポーラです!」



 深々と頭を下げるポーラ。いやーシャルロットもわかってて言ったでしょ。

「あはは、そんなかしこまらないでください。それよりもこの紐をほどいて下さい」

「……個人的に力作だった。一つ一つの小さな繊維を網目状にすることで強固にできる。それを僅かな時間で作り上げ……。むう、リエンは容赦がない」

 長くなりそうだったからとりあえずスパッとガラン王国の秘宝の短剣で切り落とし、ゴルドさんを助ける。

「ふう。それで、ボクがここに呼ばれた理由は何でしょう?」

「鉱石について聞きたくて呼んだの。鉱石から魔術を使うことは可能なのかどうか」

「これまた難しい事を。いくつか種類はありますが……」

 そう言ってゴルドさんは手から赤い鉱石を出した。よく見ると透けており、とてもきれいな鉱石である。

「さすがは鉱石精霊……魔力から生成しているのでしょうか?」

「鉱石の魔力が宿っている人間でもここまではできないでしょうね。多分ボクのような精霊や頂点の神などの存在でないとこれはできません。この石は『ルビー』と呼ばれる石で宝石の一種ですね」

「宝石……宝石術の名前と関係が?」

「少しあります。まずこの石には魔力が宿っていて、普通の石と比べて保存容量が大きかったり、長期間魔力を保存できます。そして術式を組むことでここから魔術を発生させることも可能です」

 へえ、石から魔術を。母さんが以前『空腹の小悪魔』を出せる紙を渡したことがあったけど、それに近いのかな?

「一つ目の種類として一つの呪文を保存できる方法です。ですが、この石は実際とても高価なので割に合いませんね」

 そう言ってポッっと赤い石が消える。綺麗だったから勿体ない気もした。

「他の種類は?」

「もう一つはこの宝石の魔力や成分を使って魔力を放出する技です」

 今度はゴルドさんが鞄から鉱石を出した。青い鉱石で、先ほどゴルドさんが出した鉱石よりも濁っている。

「さっきと少しだけ違うような?」

「これは天然の鉱石で、宝石術を使うにはボクが出した鉱石よりも天然の鉱石の方が強いのですよ」

「実際普通の魔術と比べてどっちが強いの?」

「うーん、はっきり言って宝石術は弱い分類です。というのも、宝石はとても貴重で、魔術を一回使うために一年間宝石を探し続けないといけないくらいの労力がかかります」

「え、そんな非効率的な術を何故レイジは使ったのでしょうか?」

 と、そこで母さんがお茶を持ってきながら話した。

「レイジは頭の良い人です。多分パムレ様が来ることも予想はしていたのかと」

「パムレ対策?」

 ゴルドさんが頷いた。

「宝石術は魔術に無い特徴として『宝石の成分を放つ』のです。よって、魔力以外にも固体を飛ばすことが同時に行われるので、宝石の純度によってはパムレでは防げないでしょう」

 そうなの?

「……魔力の攻撃は防げる。でも物理は無理。軽く石を投げられたら魔術ではじくことはできても強く放たれた石は突き抜けてくる」

 パムレの意外な弱点に驚きつつも、レイジの頭の良さを改めて痛感した。


「宝石術はかなり廃れた術でもあります。何故レイジがその術を知っていたかも気になりますが……」

「そういえばパムレは本をーとか言ってたよね? 魔導書? あれって何か関係しているの?」

「……あれは禁書『ネクロノミコン』。本来この世界にはないはずの本。何故レイジが持っていたかはわからない」

「どんな内容が書いてあるのかしら?」

「……色々な魔術や悪魔術や精霊術が書かれてある。その本を使えば人間でも簡単に魔術が使える。故にあれは凄く危険」

 そんな本が……。

「ともあれ、この町にレイジがまだ潜んでいるかもしれないし、単独行動は避けましょう。今夜はパムレちゃんは私と一緒の布団で寝ること」



「……ちょっと待って、さりげなく自分に都合の良い事を押し付けてない?」



 シャルロットの提案はある意味正しいのだが……何故か私利私欲にまみれている気がする。

 と、隣でポーラが少し考え込む。

「そんな危険人物がいる町でワタシも少し心配ですわね」

『それなら我が近くで護衛しよう。ポーラとやらの宿はここかのう?』

『ウチも護衛するー』

「きょ……恐縮ですわ」

 これって緊張のあまり眠れないんじゃないのかな?


 ☆


 で、


「どうしてこうなる」

「ボクに言わないでください。フーリエに頼まれてなぜか同室になったのですから」


 俺の隣の布団にはゴルドさんが横になっていた。

「というか精霊って寝ないんじゃないの?」

「形だけでもですよ。ボク一人が椅子に座っていたら眠れないでしょう?」

「ま、まあ」

 精霊って心を持たないと思っていたけど、ゴルドさんやセシリーやフェリーはなんだか違う気がする。いや、最初のセシリーは怖かったけどね。

「そういえばゲイルド魔術国家に行ったなら人間のフーリエとは会いましたか?」

「え、ああ、ミルダ様の教会で会ったよ」

「母親に会えてどうでしたか?」

 うーん、何というか、姿かたちは一緒だけど、ちょっと違うような。まあ……。

「嬉しかったかな。初めて『心情読破』が使えたし」

「そうですか」

 そう言ってゴルドさんは天井を眺めた。

「ボクにも父と呼べる存在がいます」

「ゴルドさんにも? 精霊ってそもそもどうやって生まれるかわからないけど……」

「精霊によります。空気中の魔力の集合体から妖精になり、それが集まって精霊になる場合もありますが、ボクは直接鉱石の魔力を集めて生まれた精霊となりますね」

「へえ、なんだかそれだけ聞くとゴルドさんって特別な存在に思えるね」

「一つ疑問なのですが、人間には『親孝行』という言葉があります。精霊にはいまいちよくわからないのですが、一体何をすればよいのでしょう?」

 何というか、簡単なようで難しい質問が飛んできた。相手が人間ならとりあえずお手伝いすればいいんでね? とか言うんだけど、精霊の親でしょ?

 うーん、そうだな。

「とりあえずそのゴルドの親がしてほしい事をすれば良いと思うけど、もし見つからないなら顔を見せるだけでも親孝行になると思うよ?」

「顔をですか……うーん」

「難しいの?」

「そうですね。ボクの親と呼べる存在はこことは異なる世界にいるので、空から降ってこない限りは難しいですね」

「空って……また変な事を言うね」

「例え話ですよ。ふふふ」

「あはは」

「ははは」



 ばああああああああああああああああああああああああああああん!



 あまりの大きな爆発音と地響きに体が一瞬浮いた。そして窓ガラスは破壊され、部屋中に破片が飛ぶ。


「魔獣か!? いや、魔獣のほうが内心安心するのは気のせいかな!」


 正直嫌な予感はするんだよね。いや、外れてくれ!


 壊れた窓に人影が一つ。大きなローブに長い金髪。かなり年老いている様に見える。

「久しいな」

「父……アルカンムケイル様!? 何故!?」



 絶対さっき話した『親と呼べる存在』だよね!



「アルカンムケイル様が来たってことは何か重大な事件が!」

「うむ……それが……」

 ごくりと唾を飲む。



「後ろから『膝カックン』をされてな。落ちた」


 ☆


「ということで神だろうが原初の魔力だろうが関係ありません! 宿の修繕費が集まるまではここで働いてもらいます!」

「じゃがワシはこういう経験は無くてのう!」

「問答無用です! それとも壊して逃げるのですか? 全ワタチと人間のワタチを駆使して貴方を捕らえますよ!」

「息子よ! この方は何者じゃ!? 一応ワシ神じゃぞ?」

 母さんが神様相手に超説教していた。

 いや、被害があったのはここだけじゃないんだけどね。

 精霊に囲まれて一睡もできなかったポーラに関しては、神様降臨という状況に頭が追い付かなかったのかとうとう気を失っちゃったからね! 今絶賛お布団の世界にいるよ!

「ねえリエン」

 と、そこにシャルロットが俺に話しかけてきた。

「人間、精霊、妖精はこの大陸に住んでいるのは常識だとして、神が目の前にいるこの状況どう思う?」

「正直胡散臭い人にしか見えない……」

 だって落ちてきた理由が『膝カックン』ってなんだよ!

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[一言] 膝カックンwww 面白いなあwww
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