ミッドガルフ貿易国2回目4
レイジ。
名前だけは聞いていたけど、実際どういう人物かわからなかった。
見たところボロボロの白髪の老人にしか見えないけれど、パムレが全力で魔壁を張った所を見ると結構な実力者に見える。
「加勢するわパムレちゃん!」
「……(クイッ)」
「きゃっ!」
軽く何かに押されてシャルロットは俺の方へ倒れ掛かった。多分だけどパムレがシャルロットを魔力で押し倒したように見えた。
「二人を守って戦えますか? それとも、私を倒すのに全力を尽くしますか?」
「……その口を今すぐ閉じさせる『光柱』!」
「ほいっと!」
パムレの放った光線が弧を描くようにレイジを避けていく。一体どんな術を?
「パムレ! 一旦体制を!」
「……大丈夫。今のでフーリエが来る!」
「『混沌の大蛇』!」
巨大な蛇の形をした何かがレイジに突っ込む。この声は母さん?
「遅くなりました! 集中するために全店臨時休業するのに手間取りました!」
「……かまわない。二人は無事」
「ほっ、二人はワタチの後ろへ!」
パムレと母さんが俺たちの前に立つ。
その姿は勇ましく、そして……自分が弱い存在だと改めて痛感した。
「さすがに二人は無理ですね。ここは一旦逃げましょう」
「……逃がさない! 『プル・グラビティ』!」
「ふふ、させません。この術式は見たことありますか?」
パムレの術が発動する前に、先ほどの怪しい石『竜の涙』が光出す。
『む? 見たことのない魔力じゃ! リエン様よ、守れ!』
『遅いー、こっちで壁を張るー』
精霊二人が魔壁を張る。え、一体何が……。
パシュッ!
とても鋭い音。そして……。
「……はぐっ!」
パムレは口から血を吐いた。え、ぱ、パムレ!?
「ではさようなら。また会いましょうね」
「待ちなさい!」
母さんが叫ぶも、目の前のレイジはすでに消えていた。
いや、それよりもパムレだ!
「パムレちゃん! 大変、お腹と口から血が!」
『何じゃ今の魔術は……いや、もしや異世界の? うむ、考えるのは後じゃ。そいつの傷は深い。治癒術を使える者は?』
「いや、俺は使えない」
「私も……」
母さんも首を横に振る。
焦る俺たち。
そこへ。
「騒がしいと思ったら何が起こったのかしら?」
聞き覚えのある声。
そしてもしかしたら今一番必要な人物がそこに立っていた。
「「ポーラ!」」
ゲイルド魔術国家の姫。そして治癒術を使える家系の者だ。
「お願いポーラ! 治癒術を!」
「ふふ、言われなくても状況を見ればわかります。今助けますよ」
☆
「……痛かった」
騒動の後、全員が寒がり店主の休憩所に戻った。
パムレが重傷を負い、そこへ偶然にもポーラが現れた。そして……。
「まさかパムレが自分で治癒術を使って治すとは思わなかったわね……」
「ねえ、ワタシの出番を返してもらって良いかしら?」
うん。まさか『さあ治しますわよ!』と言った瞬間パムレが『……不必要。これくらい自分で治せる。というかもう完治。痛かったー』って言ってすでにぴょんぴょんと跳ねていた。
「……シャルロットは焦りすぎ」
「でも口から血を吐いたのよ!?」
「……あの時点で治癒術を唱えていた。というかポーラではあの傷は治せない」
「なっ!」
かなりショックを受けるポーラ。
「……ペッ」
パムレは口から何かを吐き出した。これは……石?
「ふむ、これは竜の涙……にそっくりですね。ワタチの部屋の書物に書いてある石でしょうか」
そう言って母さんは天井を眺める。多分ゲイルド魔術国家の母さんが書物を探しているのだろう。
「というかポーラ、どうしてここへ? もしかして私に会いに来た?」
「違いますわよ自意識過剰などこかのお姫様! 二人が大陸を旅して得たものがどれほど大きいものか確かめるために、二人を真似て自分の足で確かめている最中よ!」
なるほど。じゃあポーラは現在大陸を旅している最中だったんだね。
「さすがに館長様が空を飛んでいたら、駆け付けるに決まっているでしょう?」
「母さん飛べたの?」
衝撃の事実だよ!
「いや、『混沌の大蛇』を召喚した勢いを借りて『吹っ飛んだ』だけです。多少の操作もできるので結構使えるのですが、欠点はワタチは『認識阻害』が使えないので超目立つのですよね」
ダメじゃん! 大丈夫なの!?
「ミッドガルフ貿易国では時々騒がしい出来事が起こるので、まあ蛇くらい大丈夫でしょう。あとでご近所様に挨拶周りはしますけどね」
「うーん、そんなのでいいのかわからないけど、とりあえずその母さんを見てポーラは駆け付けてくれたんだね」
「何もできなかったけどね!」
うん。駆け付けて『任せなさい』という顔をしたけど、いざ目の前の重傷者はすでに完治していたというなんとも言えない状況だったけど……。
「でも私は会えて嬉しいわよ。数週間しか経ってないけど、元気だった?」
「ふ、ふん! 当然ですわ。でも二人がここにいるならカッシュも連れてくれば良かったかしら」
ポーラの弟のカッシュ。別れ際は涙を流していたっけ。
「カッシュは元気?」
「ええ。布団での生活が長かったから、今は少し軍の訓練に混ざって体を鍛えているわね」
何だろう、弟が遠くで元気に頑張っている……みたいな感覚になる。いや、実際会ったのって少しだけなんだけどね。
「あ、もしまたゲイルド魔術国家に来た際にはカッシュと手合わせを願えるかしら?」
「魔術の?」
「いえ、確かリエンはシャルロットからガラン王国剣術を習っているのよね? カッシュは今ゲイルド魔術国家剣術を勉強しているから、ちょうど良いと思うの」
なるほど。それは面白いかもね。
「マケタラユルサナイワヨ」
おおおおおお!?
すごく後ろから圧が来たぞ!
「こ、こほん。それよりも母さん。母さんが駆け付けるということは相当な人物ってことだよね?」
「そうですね。彼の名前は『レイジ』。今回の問題の第一人者と言っても過言ではありません」
「確かその人が秘宝を集めているんだよね?」
「そうですね。ただしワタチも話を聞いただけです。シャムロエ様がどこからか情報を入手して今に至ります」
なるほど。王族の情報網というやつなのかな。シャルロットはポカンとしているからもしかしたらまだ教えてもらっていないように見える。
「あ、今『魔術研究所の書庫』に石を使った魔術の文献を見つけました。宝石を使った術ですね」
そこでポーラが少し考え込んだ。
「宝石術……そんな術が存在するのでしょうか?」
うーん、俺も聞いたことが無いしな。
と、皆で悩んでいたらパムレが手を挙げた。
「……大丈夫。専門家がこの国にいる」




