ミッドガルフ貿易国2回目3
今日は二手に分かれて行動。
パムレはゴルドさんのところへ寄ってから色々な場所を覗いてみるとか。
俺はシャルロットと一緒にほぼ知らないからこそ見つけられるのでは? という運任せな状態での行動である。
「思えばこうしてリエンと二人だけでの行動は久々ね」
「そうだね。基本パムレもいたり母さんもいたりしたからね」
軽く雑談。相手は姫と言ってもここまで一緒に行動するとなんか気が抜けてしまう。
『のうフェリーよ。ここはリエン様とシャムロエ殿の行く末を見守ることに徹するべきかのう』
『人間のあれそれは面倒ー。でもご主人の思考は直接こっちに影響するし、邪魔しない程度で隠れてよー』
別に忘れていたわけじゃないけど、なんかごめんね!
ということで、脳内にコソコソと(おそらくわざと)聞こえる声で話している二人を呼び出し、手のひらの大きさを指定して二人をシャルロットに渡す。
『のうリエン様よ。何故自然な流れでシャルロット殿に渡す!?』
『絶対変だよねー! 普通ご主人の頭の上とか肩の上とかじゃないー!?』
「何言ってんの? この距離で召喚された二人は、その時だけ主は私になるのよ?」
『『ひっ!』』
おお、シャルロットの目が怖いぞ。「言う事聞かないとお仕置きするよ?」と目が言っているぞ?
「まあ半分……いや、一割冗談だとして、普段リエンの頭とかに乗ってるんだし良いじゃない。別に嫌なことをするわけじゃないし」
『いや、すっごく言いにくいのじゃが……シャルロット殿は『音の魔力』をもっているじゃろ?』
「自覚は無いけど、そうみたいね」
『例えば『撫でさせて』って言われると体がしびれて撫でられる体制になるのじゃよ』
『地味に痛いよねー』
「え……あ……え!?」
すっごい動揺してるシャルロット。そういえば思いっきり念じて命令しようとしたら魔力切れで倒れたこともあったっけ。
無自覚でも撫でさせてーとか言うと、精霊たちは言われたことを実行する状態になるのかな? それって結構すごくね? というか俺の契約精霊なんだけど。不可抗力だけど。
「ごめんね二人とも! 今までそんな不自由な状態になっていたなんて知らなかったの!」
『わかれば良いのじゃよ』
『原初の魔力は制御が難しいー。しょうがないよねー』
シャルロットも今回の件で反省したのだろう。これで俺もとりあえずシャルロットに渡さずに済むのかな。
「では改めて」
と言ってシャルロットは両手を広げる。
「……」
『『……』』
すすすー。
ギュッ。
「え!? 今シャルロットは何も言ってないのに何で自ら抱っこされに行ったの!?」
『我にもわからぬ。しかしシャルロット殿の目が怖くてのう……』
『無音の圧力ー?』
これはもう二人はシャルロットに染められたんだなと、そう思った。
☆
一通り見て回ったけど、やっぱりそれらしい商品は売ってなかった。
そしてたどり着いた場所はと言うと……。
『闇市場』
うーん、いかにも危険そうな人ばかりがいるな―。絶対あの茶色い草とか普通の草じゃないよね。
「ちょっと危険かもしれないけどここを調べましょう」
「気は進まないけどね」
母さんからよく言われていたのは、目の前に絶対に勝てそうな相手がいても油断はしてはいけない。
実際俺はガラン王国の剣術をシャルロットから習っているし、シャルロットは大陸でもそれなりに強い魔術師である。
『のう、リエン様よ。普通逆じゃね?』
『ご主人はかなり強い魔術師でー、シャルロット殿はかなり強い剣士だと思うよー?』
「確かにそうなんだけどね! でも特技に頼ってたら成長しないからね!」
精霊二人を厳重注意しつつ、目の前の店をよく見る。
ボロボロの白髪の老人が店員のとても店とは言いにくい屋台。
「へへ、いらっしゃい。お嬢ちゃん綺麗な目をしてるね」
歯も欠けていて、すっごく怪しい店員。この店は期待できないな。
「ありがとう。この石は何かしら?」
「お目が高い。これは竜の涙と言って魔力を永遠と生み出す不思議な石さ。金貨百枚とお高いが……買う価値はあるねえ」
すっごい嘘くさいな。ただの石じゃん。
『リエン様よ。これ、本物ぞ?』
『この人ヤバイー。全部本物売ってるじゃん―』
「マジで!?」
ごめん店員さん。人は見かけによらないんだね!
「ヒッヒ、人形が話すとは面白い客だねえ」
どうやらセシリーとフェリーは人形に見えるらしい。まあ手のひらの大きさの人間っていないもんね。
「聞きたいんだけど、編み棒って売ってないかしら?」
「創造の編み棒かい? 売ってないねえ」
「そう」
そう言ってシャルロットは杖を構えた。
え?
「出して」
「この年になると口がすべって仕方がないねえ。ヒッヒ」
え? え? 何!?
「私は普通の『編み棒』を探していただけ。『心情読破』を使った形跡も無し。どうして『創造の編み棒』を探していると思ったの?」
「なかなか鋭いお嬢さんだ。でも残念。本当に無いんだねえ」
そう言われてシャルロットは杖を下げた。
『リエン様、シャルロット殿、ちょっと気をつけよ。こやつ……『心が無い』ぞ!』
その瞬間だった。
目の前が真っ白く輝き始めた。
と、同時に強い魔力の塊りが後ろからすさまじい勢いでやってきた!
ババババガガガガガガッ!
そんな音を立てながらすさまじい火花が辺りに散らばる。
「……はあ、はあ、危なかった」
「ぱ、パムレちゃん!?」
両手を前に出して、禍々しく光る光線から魔壁で俺たちを守っていた。
「ヒヒッ。厄介なお前にはこれですよー!『ドッペルゲンガー召喚』!」
なっ! それって母さんが自分に使ったとされる術!?
「……リエン、シャルロット、二秒間だけ『強く』目を閉じる!」
「え、うん!」
「わ、わかった!」
言われてすぐに閉じた。
しっかり目を閉じたはずなのに、すさまじい光が瞼を突き抜けてくる。え、何を……。
「ヒヒッ! 容赦無いですね。まさか『悪魔の自分をすぐに消す』とは」
「……『マオは一人で充分』。それよりもその本を渡す。そしてここから消える。消えてくれたらリエンの目的は達成される!」
パムレがいつも以上に声を荒げている。
「ようやく見つけたんです。ガランの次期女王と神から選ばれし者。ここで始末すれば私の願いが叶うのですよ!」
「……させない。だからその魔導書をこっちに渡す。『レイジ』!」
レイジ。
この旅が始まった原因であり、危険人物とされる名前をパムレ……いや、三大魔術師マオが言い放った。




