ミッドガルフ貿易国2回目2
「『創造の編み棒』の原初の魔力は『神』と呼ばれる分類です。その『神』を宿す『神』はとある事情で封印されました」
ゴルドさんの言葉にパムレは頷いた。
「その『神』の傍若無人っぷりはすさまじく、それを他の神や精霊、そして人間が食い止め、今の世界があるのです」
「おおよそ予想が付くんだけど、その食い止めた神や精霊や人間ってゴルドさん達だったりするの?」
「ふふ、どうでしょうね」
うーん。何故秘密にするかは不明だけど、もしかしたら言えない理由があるのだろうか?
と、俺が疑問に思っているとシャルロットが手を挙げた。
「じゃあその『神』の手下みたいな存在にお願いしたら? 精霊の鐘を貴方が作ったという事は、それを宿す精霊や配下が作ることも可能なんじゃ?」
「ふむ、その『神』は一体だけ『神』を宿す配下を生成しました。しかしそれも今や概念となって存在はしないのですよ」
「そうなんだ……ちなみに配下とか神って言ってるけど、名前ってあるの?」
「神に関しては名前がありません。その配下に関しては『カンパネ』と名乗っています。この大陸では名前だけは有名ですけどね」
「え、俺の夢に時々出てくるんだけど……」
その言葉にゴルドさんとパムレは目を点にした。
「なんだ、生きてるんじゃない。貴方も意地悪ねー」
「え!? いや、ありえない! 大きな対価を払うために自らを犠牲にした『カンパネ』が?」
「……パムレも同感。カンパネは生きているけどいないのと同じ。何故夢に出ているかが不思議でならない」
と言われても、出てくるものは仕方が無いよね。俺が忘れるころにやってくるし。
「ふむ、少し状況が変わったのかもしれませんね。とはいえ、夢に出るだけで実際復活したかは不明。そうなるとどのみち編み棒が壊れていない事を祈るのは変わりないですね」
「そうね。お願いする手間は省きたいし、この町で見つけてさっさと他二つも見つけましょう!」
☆
と、色々と探したものの、それっぽい道具はあっても魔力を秘めている物は見つからなかった。
「あ、リエン。お帰りなさいませ」
いつもの母さんの宿……いや、ざっくり言うと俺の家なんだけど、とりあえず今日はこの辺で休もうということで帰ってきた。
「母さんは創造の編み棒の場所について知らない?」
「一応大陸の問題としてワタチも少なからず動いてはいます。他の秘宝も同時に探してはいるのですが、宿の経営もあるのでなかなか効率が悪いのですよ」
「なるほど。そもそも記憶を共有しているし、動くのも一苦労だもんね」
「いや、動くことよりもミルダの指定した『売り上げ二割(とお気持ちを少し)を壁の修理代にする』という約束が想像以上に重くて、現在お財布が氷河期なのです」
全然今回と関係ない理由じゃん!
「あれ? でもパムレちゃんも払ったって」
「……ミルダはああ見えて賢い。壁の修理と言いつつ改修工事をさらっと組み込んで、実際の修理代より高くついた」
「それってズルくない!?」
「……でもパムレとリエンママは加減なく『遊んだ』からなんも言い返せない」
三大魔術師同士の凄まじい手合わせ。実際それを目の当たりにできて俺はうれしかったなー。
「そういえばシャルロット、魔術は三大魔術師という感じだけど、武術や剣術ではシャムロエ様以外に強い人っていないの?」
その質問にシャルロットは顎に手を当てて考え込む。
「はるか昔にはいたみたい。それこそシャムロエ様の娘のシャルドネ様は同じくらい強かったらしいし、シャルドネ様に武術を教えた先生はそれ以上に強かったという記述もあるわね」
へー。やっぱりこういう歴史が残っているのってそれをしっかり伝える人間がいるからなんだろうな。
ミルダ様は重要な部分以外は関与できないし、パムレは自由奔放となると、やはり常に王族として立っているシャムロエ様は偉大なんだな。
そうなるとますます剣術を極めて、いつか大陸屈指の剣術使いーなんて呼ばれてみたいものだ。
「っと、話が脱線しちゃった。ちなみに母さん、『神』の魔力を保持している人間っていないの?」
「『神』の魔力ですか?」
精霊が無理なら、シャムロエ様やシャルロットみたいにその魔力を保持している人間がいれば、可能性は見えてくるだろう。
「うーん、残念ですが今はいないですね」
「今はって、いたの?」
「魔術研究所の初代館長の『マリー様』がその魔力を保持していたと言われていますね」
「……あー、持って持ってた」
いや、パムレも何でそんな『ポケットにそういえばお菓子入ってた』ってノリで話すの? 結構大事なことだと思うよ?
「残念ですが今はいませんね」
まあ初代って言うくらいだし、代替わりしたということはそういうことなのかな?
「ちなみに母さ……今の館長って何代目なの?」
一応周囲のお客さんを配慮して『今の館長』と言い直す。時々忘れかけてふと言い出しそうになるけど、結構重要な機密情報なんだよね。
「今は三代目ですね。二代目は三代目の姉の『ミリアム』という方が館長をやっていました。二代目までは数十年で、三代目が一番長いですね」
まあ、悪魔だしね。
ここで『まあ母さんだしね』なんて単語が出ないあたり、俺も成長したんだなと思いたい。
というか母さんに姉がいたんだ……。いや、もしかしたらどこかで聞いたかもしれないけど、意識して聞いたのは初めてかな。
「やっぱり地道に探すか―。ふぁー」
っと、大きなあくびをしてしまった。
「ふふ、どうやら眠たいみたいですね。お部屋は準備してありますから、各自自由に使ってください。あ、セシリー様かフェリー様は少し店を手伝って欲しいです」
『『何故我ら!?』』
☆
ミッドガルフ貿易国は夜になっても少し賑わっている。仕事を終えた商人たちが酒場で飲み食いをするためらしい。
『寒がり店主の休憩所―ミッドガルフ貿易国店―』は旅の人向けの宿のため、深夜帯は店の鍵を閉めていた。
そのため外には出れないけれど、宿泊客のみ使える屋外広場は出入りが自由だった。
なんとなく眠れないためここへ来ると、すでに誰かが座っていた。
というか、母さんだった。目が真っ赤に光っているから、その光だけで誰かがわかる。
「あ、リエン。どうしました?」
「久々に眠れなくて」
「そうですか。では久々にお話でもしましょう。何か知りたいことでもありますか?」
「うーん、そういえばさっきちらっと言っていた母さんのお姉さんの話を聞きたいかな」
そう言うと母さんはニコッと笑ってお茶を二つ準備して俺に一つ渡した。
「そうですね。ミリアム姉様はワタチと違って真面目……という感じでしょうか」
まあ、母さんは息子の俺から見ても子供っぽい性格をしているかなーとは思うけどね。
「二代目館長ということは、やっぱり強かったの?」
「ミリアム姉様は悪魔術をミルダ大陸で初めてきちんと使用した人ですね。ワタチは姉のやっていることをマネした感じとなります」
「へえ、母さんが初じゃ無いんだ」
「はい。ミリアム姉様は元々ここミッドガルフ貿易国の土地出身で、その名前の由来となった『ミッド』という少年に恋をしていました」
え、名前の由来になる人物にあこがれていたってすごいな……。
「てことは母さんのお姉さんって女王様か何か?」
「いえいえ、そんな大きな存在ではありません」
いや、二代目館長になるほどの人物だし、大きな存在だとは思うけど。
「『ミッド』はここが国と言われる前までは少し大きな町で、その町では武術で一番強いと言われていました。しかし、ある日ミッドの両親が間違った悪魔術に手を出してしまい、自ら悪魔となって亡くなってしまいました」
好きになった人が悪魔になって亡くなる。なんとも悲しい話である。
「ん? というと、確かこの町には『英雄ミッドの伝記』って本があったと思うんだけど」
宿の棚にお客様用として数冊本があり、その中にはこの町の名前の由来などが記された本が少しあって、ちょっとだけ読んでいた。
「そうですね。あれに書かれているのはすべて美化されたもの。そして著者は不明となっていますが、ワタチの姉のミリアムです」
へえ、母さんの姉さんが書いた本だったんだ。もう一度読み直そうかな。
「最後は魔術研究所で寿命を迎え、ワタチの目の前で倒れました。いつか来る日とはいえ、親族が亡くなるのは悲しいですね」
お茶を一口飲むも、量は減っていない。なんとなくその時の光景を思い出しているのだろう。
「正直こうしてリエンとお話していると気が楽なのです。魔術研究所の館長って結構激務で、ようやく慣れてきたくらいなのですよ?」
「年齢はあまり聞かないようにしていたけど、結構時間かかってたの?」
「そりゃもう。むしろ初代の『マリー様』や『ミリアム姉様』が凄すぎて、三代目になったばかりの頃はシャムロエ様に相談しに夜城へ侵入して就寝直前で驚かせて起こしたくらいです」
大丈夫? それ、不法侵入で逮捕案件だよね?
でも、ふと思ったことがある。
このまま数十年生きてけば必ずその時がやってくるだろう。
母さんはおそらくほぼ永遠の命を持っている。
俺は人間。
その事に少し寂しさを感じた。
「どうしました? 少し悲しそうな顔をして」
「いや、俺は母さんと違って人間だから、その……その時が来るのかなって」
そう言うと母さんは目を点にして答えた。
「ああ、それなら心配ありません。まずこの紙に指示通りの文字を書いて魔力を通せばあら不思議、『自分と同じ姿のナニカが出てきます』。あ、決してお互いの目を見てはいけませんよ? 利点として記憶が共有されます。片方は人間なので寿命はありますが、もう片方は聖術を受けなければ生きていけます」
「息子を悪魔にする母親ってどうなの!?」




