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ミッドガルフ貿易国2回目1

 久々のミッドガルフ貿易国。

 色々と王族の間で問題があったものの、市場はいつも通り賑わっていた。

「あ、いたいた」

『む? リエン様よ。知り合いかのう?』

『ご主人って色々なところに知り合いがいるのねー。ウチ達精霊は縄張り意識が高いからセシリー姉さん以外の精霊とはあまり仲良く無いー』

 いつの間にか呼び方が『セシリー姉さん』で落ち着いたフェリー。もう色々とあきらめたのだろうか。

「そういえばエルフもそんな感じだもんね。精霊の事情は難しいね。あ、ゴルドさん久しぶりです」

「リエンですか。久しぶりですね。それとシャムロエとマ……パムレも。おや? 見かけないお二人ですね。精霊ですか?」

 目の前には楽器を販売しているゴルドさん。兼業で鎧や刃物も扱っている。



『のう、リエン様よ。絶対おかしくないかのう? ガランの元王女シャムロエと同じ魔力……原初の魔力を感じるぞ?』

『場合によってはウチはこの場から立ち去りたい気持ちが発生するよー』

「紹介するね。楽器屋兼鍛冶屋兼『鉱石精霊』のゴルドさん」


『『原初の魔力を持つ精霊が兼業って何!?』』


 ちっこい精霊二人が大きい姿に変わって思いっきり頭を下げた。

「我は氷の精霊セシリーですじゃ! その、お初にお目にかかるのじゃ!」

「ウチは火の精霊フェリーですー。この度は足を踏み入れたことをお許しを!」

「あー、そこまで気にしないでください。リエンとは知り合いですし、その契約精霊なら友人です。これからもよろしくお願いしますね」

「「ははー!」」

 精霊の界隈だとゴルドさんってすごい精霊なのかな?

 もはや兼業が多くて最後に鉱石精霊って言ってるからすごさがわからない。

「話は聞いていましたよ。近々ここへ来るという事だったので、楽しみにのんびり待ってました。と言ってもボクから用意できるものは無いのですけどね」

 そこへシャルロットがゴルドへ質問を投げかけた。

「お店を出しているから少しでも情報が欲しいの。この辺で『創造の編み棒』という秘宝が出回ってないかしら?」

「ふむ、聞く限り原初の魔力が関係しそうな『嫌な』名前ですね。編み棒というと何か布で編むときに使う道具でしょうか……」

 しばらく考え込み、一瞬パムレを見た。

「ふむ、立ち話も何ですし、ここは年上らしくお茶でもご馳走しながらお話でもしましょうか」


 ☆


 パムレット専門店。

 それはミッドガルフ貿易国に本店を置く大きなお店で、パムレがこの国に立ち寄った時は必ず入る店との事。

 そういえば話だけは聞いていたけど、前は色々忙しくて全然パムレットを堪能してなかったな。



「……リエン。それは人生の九割を損している。パムレが色々と教えてあげる」

「九割とはまた大きく出たな……」



 もはや俺の心を当然のように読んでくるパムレ。

 とはいえ、ゴルドさんが提案してからパムレはとてもご機嫌である。

「というかパムレットってガラン王国発祥なのに専門店の本店はミッドガルフ貿易国なんだね」

「大叔母様から聞いた話だと、確かに元祖パムレットはガラン王国だったんだけど、それを大量生産する技術や新商品の考案技術がガラン王国には無かったそうよ」

「へー。今やミルダ大陸全土で有名なパムレットだけど、もしかしたら今後パムレットの元祖はミッドガルフ貿易国ーなんて言われる日もあるんじゃない?」

「あはは、味や種類はミッドガルフ貿易国の方が優れているから時間の問題よね。実際パムレットの存在って結構大きくて、商業や鉱石で盛んなミッドガルフ貿易国や魔術で優れているゲイルド魔術国家と比べると、ガラン王国って結構霞んでしまうのよね」

 苦笑するシャルロット。確かにガラン王国って魔術や商業では二国に負けちゃってるよね。

 と、そこでゴルドさんが「ふふっ」と笑って話しかけてきた。

「その辺を調和させているのがシャムロエですね。ガラン王国は木々が育ちやすい環境や動物が多い地域ということで、ここ百年で農業を盛り上げてます。それに建築技術も一気に向上させているので、他の国には負けていない部分も増えていますよ」

「わー、私の国でありながら全然知らなかったわ。そういう意味でも前回や今回の旅は視野を広げるためにも必要な旅なのかもしれないわね」

 シャルロットもゴルドさんの話を聞いて一安心しているみたいだ。

「さあここですよ」

 パムレット専門店に到着し、中に入ると多くの女性客が笑顔で食べていた。

「凄い甘い香り……そして周囲を見ると女性が多くて目のやり場に困るな……」

 ゴルドさんがいてよかったー。もしシャルロットとパムレだけだったらセシリーに男装してもらって男女比を良い感じにしてもらおうかと思った。

「待つのじゃリエン様よ。『男装』とは? そもそも性別が無い精霊に男装も女装も無いぞ?」

「いやそれだとウチが困るー。一応『セシリー姉さん』って呼んでるし、人間の性別上女性で頼むー」

「ふふ、今日はボクのおごりですよ。好きなだけ食べてください」


 ☆



「ふふ、リエン。すみませんが……半分出しませんか?」

「ふふ、無理です」



 普通の魔術師は精霊に『心情読破』は使えないが、今ならゴルドさんの心が読める気がする。

「ね、ねえパムレちゃん。何もそんなすごい勢いで食べなくても?」

「……目の前にパムレットがあったら、それは食べないといけない。同じ味のパムレットは存在せず、一つ一つが唯一無二の存在。うん、これも美味しい」

 パムレがすさまじい勢いでパムレットを食べている。それも普通の人の数倍の速度で。

 まあ、パムレの気持ちもなんとなくわかる。というのも、この新発売の『甘酸っぱい果汁入りパムレット』はとてもおいしい。

 お菓子は甘いという印象があった俺にとって、このパムレットはかなり新鮮だった。

「……ゴルド、一応言っておくけどパムレはそれなりに稼いでる。パムレの分はパムレが払う」

「すみません。パムレット以外で何かご馳走しますね」

 ゴルドさんもホッと一息つく。にしても……。


「やっぱり精霊三人は食べないんだね」

「「「精霊だからね」」」


 うん。知ってた。

 ゴルドさん、セシリー、フェリーは精霊だから味覚を感じない。だから申し訳程度にお茶を頼んで、ずっとそれを口に触れる程度に動いている。

「……五感の中で味覚は人間の特権。嗅覚や視覚が優れた動物や聴覚や聴覚が優れた精霊はそれぞれがそれらを駆使して生きている。味覚を楽しむ人間に生まれて良かったと思える人生こそ、人間の在り方であり生きがいにつながる」

 何やら語り出したパムレだけど口いっぱいにパムレットのクリームが付いているよ。

「ほら、急いで食べているから。ほら、こっち向いて?」

「……ん」

 そう言って口の周りを拭く。

「ぷふっ」

 唐突にゴルドさんが笑い出した。

「どうしたの?」

「いや、世代が違うのに自然とパムレの口元を拭くのはガランの血なのかなって思いまして」

 というと、シャルロットの先祖……シャムロエ様もパムレの口元を拭いたりしたのかな?

「久々に楽しい光景も見ましたし、そろそろほっこりしつつも本題に入りましょう。『創造の編み棒』でしたね」

「そうです」

「『創造の編み棒』はボクも直接は見たことありません。市場に流れていたとしても、これだけの数があれば見落としもありますね」

「まあ、商人の町だし、目に見える商店だけがすべてじゃないものね」

「はい」

 そう言ってゴルドさんはお茶をすすり……。


「まあ、最悪壊れてないと良いですけどね」


「「え!? 秘宝って壊れる物なの!?」」


 てっきり特別な何かに守られてて壊れ無いものだと思ってたよ!

「いや、普通に壊れますよ。現に原初の魔力の道具というと……『タマテバコ』は壊れちゃったみたいですし」



「「『タマテバコ』って壊れたの!?」」



 え!? 確か探してこいと言われたものの中にタマテバコがあったと思うんだけど!

「え、なんでそんなに焦っているんですか?」

「いや、実はシャムロエ様からのお願いで、『創造の編み棒』と『タマテバコ』等を探すように言われたんだけど……」

「あー、そうなんですね。おや? パムレ、急に手が止まりましたね」

 ゴルドさんがすごくニコニコしながらパムレを見た。



「……あー、うー、今日のお茶代はパムレが全部出す。だから『タマテバコ』を壊したことは無かったことに」

 その震え……そしてゴルドさんの視線……まさか!

「「パムレ(ちゃん)が壊したの!?」」


 衝撃の事実が多すぎて頭の中で処理できなかった。


 ☆


 その昔、ガラン王国の先代王トスカと先代女王シャムロエと三大魔術師マオがミルダ大陸を旅していた時、とある場所にたどり着いた。

 そこの場所の一番偉い人が三大魔術師マオに勝負を挑んだ。

 開始と同時に思いっきり放たれた魔術は大きな爆風を生み、周囲の柱は倒れ、そしてその付近に保管されているタマテバコに命中。見事壊れてしまいましたとさ。



「「というかシャムロエ(大叔母)様もいたの!?」」

 知ってて話しているとか性格が悪いよ!

「……ちなみにリエンママもいたよ」

 人生最初の反抗期が間もなく訪れそうだよ!

「と言っても、壊れたからと言って無くなったわけでは無い。きっと何か別の方法があると踏んでお願いしたのでは?」

「別の方法?」

「そうですね……例えば他の頼まれた秘宝と言うのはなんですか?」

 えっと確か……。

「すでに場所を把握している物に関しては保留ということだったけど、確か『静寂の鈴』と『精霊の鐘』は探さなくて良いって言われたかな」

「なるほど。精霊の鐘ですか……」

 ゴルドさんがうんうんと頷いて俺たちに答えた。

「編み棒に関しては壊れてない事を祈りながら探すしかないですね。タマテバコに関しては壊れてしまったので『作ってもらう』しかないかなと」

「作って? 誰に?」

「タマテバコは『原初の魔力:時間』に関係する道具。つまり時の女神クロノにお願いするしかないですね」」

 ここに来て話がすごく大きな話が出てきた。

「ちなみに『精霊の鐘』はボクが作った物です」

「ゴルドさん、秘宝まで作れるの?」

 いや、ガラン王国の秘宝の俺の持つ短剣もゴルドさんが作ったやつだし、可能性はありそうだけど……。

「いや、あれは色々事情があって、あれほど大きな魔力の入った鐘は二度と作れませんね」

 苦笑するゴルドさん。

「ちょっと待って、タマテバコに関しては『時の女神様』にお願いするしかないけど、どうして編み棒は存在を祈るしかないのかしら? それこそそれに関連する神様にお願いとかはできないの?」

 確かに。精霊の鐘はゴルドさんが作った。つまり原初の魔力の鉱石の秘宝ということだろう。じゃあ『創造の編み棒』の関連する魔力の神様や精霊に似たものを作ってもらうという選択肢も出てくるはずでは?

「うーん。残念ながら『創造の編み棒』は原初の魔力『神』を宿す道具。そしてその魔力を宿す神様は」

「神様は?」



「いないのですよね」

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[一言] >『『原初の魔力を持つ精霊が兼業って何!?』』 www >「ふふ、リエン。すみませんが……半分出しませんか?」 >「ふふ、無理です」 www >「いないのですよね」 ファッ!?!?
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