砂の地の反乱
「ようやく見つけたぜリアンガ! 俺の腕の傷を覚えているかああ!」
「面倒なやつだ。おいお前ら、まとめて追い出せ!」
町の中は乱闘騒ぎ。
認識阻害を使って騒ぎの中心から避けているけど、飛び道具が舞っているこの状況に安全地帯なんて無い。
と、その時
ぱあああん!
何か破裂音が鳴り響いた。
「……気を付ける。あれは『拳銃』」
初めて聞く名前の武器……そういえば以前に何かすごい勢いで飛んできたっけ。
何とか騒ぎの中心を避けて『ペシアの人形・衣類店』に到着。
「ペシアさん! ここは危険だ。一緒に逃げよう!」
『貴方は店員さんの? でも……』
周囲のバラバラになった人形たちを見るペシアさん。ペシアさん自体も人形なんだけど、表情はわからないはずなのになぜか悲しい気持ちが伝わってきた。
「自分の命が優先よ。店主殿の店にとりあえず行くの!」
『わかった。ごめんね人形たち。直せなくて』
シャルロットがペシアさんを服の中に入れた。
『む? リエン様よ。少しかがめ』
その瞬間。
バリン!
目の前で氷が砕けた。
「……さすがは精霊」
『死なれては困るからのう。それよりも……』
目の前には鉄の武器を持ったベリルが立っていた。
「お前たちが来てから様子がおかしいと思ったが、この反乱を招いたのはお前たちだよな? 平和に暮らしていた俺たちの邪魔をしやがって!」
確かに『認識阻害』を解除を依頼したのは母さんだが、それにしたって安直な推理である。
「平和? どこがよ!」
「自由。何にも追われず強きものが勝つ地域。俺にとっては平和そのものだ。おい火の精霊さんよう。お前だけが俺が勝てねえヤツだと思ったが、腰抜けだったのか?」
『んー、凄い言われ方だー』
そう言ってポンっと音を立てて、小さい姿から一気に大人の女性に変化した。
「ウチは別に秩序とか人間の生活なんて興味はないー。邪魔者は排除してのんびりと周囲の魔力を吸っていただけー。そこにあやかったのは貴様ら人間だよー?」
「だまれ!」
ばあん!
大きな音が鳴り響く。
「何今の!」
シャルロットが驚いていた。
「どうしたの?」
「今のはただの音じゃなくて、その、凄い勢いで何かを飛ばしてきた……そしてそれは……フェリーに命中したわ」
え! それって、つまり、攻撃が当たったということ?
「俺は気に入らねえ奴は殺す。たとえお前でもな」
「まあ、人間が文明を持ったところでこんなものだよねー」
フェリーがお腹を掃う。もしかしてその凄い攻撃って腹部に命中したのかな?
「ばっ! この! この!」
「……それは洒落にならない。『魔壁』」
バシイ! バシイ! と音を立てて魔壁のところどころにひびが入る。よく見ると鉄の塊りが突き刺さっている。もしかしてこれがフェリーに?
『人間なら死んでおるかのう。じゃが、精霊には効かぬな』
セシリーが頭の上で話しながら何かを唱えている。
『原理は火。そして鉱石の鉄と火薬。そこに魔術的要素が加われば一矢報いたろうに』
「ベリルー。短い間だったけど楽しかったよー。
じゃあね」
「『ガラン流奥義:居合斬り』!」
風の魔術を地面に放って、短剣はセシリーの精霊術も借りて氷を付与して少し長くし、俺は一瞬でベリルの近くに移動し鉄の武器を真っ二つに切った。
「なっ、ご、ご主人!?」
「何!? いつの間に!」
ぶっつけ本番の一発勝負。でもこれをしないと絶対フェリーはこの男を殺すつもりだっただろう。
それはさせない。少なくとも小さい子が見ている前では。
「……え、パムレの事? あ、一応リエンより年齢は上だと思うよ?」
……女の子の前ではそんなことさせない!
「え、私の事? あー、一応軍の隊長やってたし、言って良いかわからないけど盗賊の一人や二人をこの手でー」
「『悲しみのリエンパンチ!』」
「ぬああああああ!」
思いっきりベリルの顎の下を殴った。
というかシャルロットはしっかり『心情読破』を習得したみたいだね。うれしい反面こういう時に何故俺の心を読んだのか気になるよ!
☆
「ということで、シャムロエ様やシャーリー様にお願いをして、ここにガラン王国軍を派遣してもらう事になりました。罪人も多いのでかなり協力的で助かりました」
どうやらガラン王国の母さんがシャムロエ様たちに連絡したらしい。こういう時に連絡手段があるって便利だね。『今日は何を食べましたか?』くらいの話題だったらミルダ様に話してみようかな。母さん経由だけど。
「場所的にミッドガルフ貿易国の方が良かったんじゃない?」
「それも考えましたが、現在ミッドガルフ貿易国は情勢が不安定なので、安定のガラン王国にお願いをしました!」
「さすが店主殿! わかってらっしゃる!」
シャルロットは目をキラキラと輝かせて喜んだ。
「……フーリエ。本当は?」
「ガラン王国に一つ大きな貸しを作ることで、今後の宿の展開もしやすくなる……はっ!」
「さすが店主殿……わかってらっしゃる……」
一気に沈んでいったぞ!
「大きな貸しなの?」
「そうね……大量の犯罪者を抱え込むのは結構大変なんだけど、ミッドガルフ貿易国に向けての大きな交渉材料にもなるのよ。一番被害を受けていたであろう商人の天敵を捕まえたとなれば、ガラン王国は有利に立てる。で、店主殿はその情報提供者として母上は逆らえなく……」
「あはは。ワタチはそんな非情なことなんて考えていませんよ。『そういえば最近少し宿を大きくしようか悩んでますが、土地代結構高いのですよね』」
「母上が涙を流す姿が目に浮かぶわね……」
涙を流しているのはシャルロットじゃないのかな?
「ん? というかいずれシャルロットが王女になった際には母さんから何か直接要求されるんじゃない?」
沈黙が五秒ほど続いた。
『妹よ。これが『気が付いてはいけないことに気が付いた』という状況じゃよ。人間界は色々と不便じゃのう』
『誰が妹よー。でも、何故だか空気が冷たく感じるわー』
『店主さんは昔から変わりなくて安心したわ。うふふ、私もその恩恵にあずかろうかしら?』
おいそこのちっちゃい組。コソコソ話しつつも結構大声だぞ!
「リエン。実は『超偶然』なのですが、リエンやシャルロット様が旅に出た時に、『寒がり店主の休憩所』では新しい取り組みとして『後払い式』を導入しました。試験的に始めましたが、一泊の宿泊代は金貨五枚くらいですね」
「ぼったくり過ぎてない!?」
「試験運用が終われば良心的価格にしますよ。とは言え『常連のお客様』のおかげでだいぶ将来の貯金ができましたね」
あ、その価格でも常連はいたんだ。一応お客さんの顔は見ていたけど、毎回利用する客って俺たち以外は見ていないような……。
ん? 俺たち以外は……?
「リエン……改めて店主殿は悪魔だと実感したわ……」
うん。さすがは母さん、抜け目がないな!
というか後付けってズルくない? 息子から一泊金貨五枚をぼったくる母親ってなんだよ!




