砂の地4
「驚いたわ」
シャルロットが両手に精霊を抱えながら俺を見ていた。
「リエンってそういえば結構強い魔術師だったんだよね」
「今まで見せてなかったけどね!」
うん。実は剣術の練習を意識してから焚火とかちょっとした時は『火球』程度で終わらせていた。
「……リエンママの息子なら当然。パムレの本気には及ばないけど、はっきり言って強いよ?」
「それだけ実力があるのにやっぱり剣士なの?」
そんな質問がシャルロットから飛んできた。
「それはシャルロットも同じだと思うけど。剣士としての実力はあるけど魔術師を目指すーみたいな」
「ふふ、そうね。言ってから気づいたわ。今の質問は無かったことにしても?」
「うん」
そう言って俺はベリルを見る。
「くるなああああああ!」
完全に俺を悪魔を見る目で見ている。いや悪魔の息子ではあるけど、俺は人間だよ?
「約束は約束よ。『創造の編み棒』について話してくれる?」
「んなもんとっくに売っちまったよ!」
「なっ!」
売った!?
「秘宝を売ったですって?」
「ああ。俺にとってはあんなのただの棒きれだ。確かに手先が器用なら何か作れるだろうが、ここにいる連中は無理だ。だからミッドガルフ貿易国にいる商人に売ったんだよ!」
ふむ。少し残念。見つかりかけたと思ったら遠かったのかな。
と、そこへ後ろの扉が開いた。そこには小屋で待機していた母さんが立っていた。
「お尋ねしても?」
「誰だ!」
「ワタチはただの宿の店主です。ここへは人を探してきました」
「人?」
というか母さんどうやってここに来たの? 目が見えないんじゃ?
「その編み棒の持ち主……貴方から奪われた人はどこにいるのですか?」
「それは……」
☆
集会所から少し離れた場所に一件家があった。
いや、家と呼べるものかどうかわからないけれど、ぎりぎり人が住める場所ではあった。
そして少し霞んでいるが看板があった。
『ペシア人形・衣類店』
そこへ入ると切り刻まれた人形たちが床に転がっていた。というかすごく怖い!
「り、リエン! かか帰らない?」
「……すっごいホラー。え、ここだけ世界が違う」
「母さん、これは?」
そう言って母さんは半分に切り刻まれた人形を手に取った。
「さすがに数十年以上も経てば……いや、これはもう深い傷の所為で死んでしまいましたか」
「というか母さん目見えるの?」
「フェリー様にお願いをして、一時的にこの辺の『認識阻害』を解除してもらいました」
解除って……え、いつ?
「ご主人がベリルと戦っている途中でー、ウチの魔力をたどって悪魔がフラリフラリと歩いてきたー。結構……怖かった」
「あー、ごめんな俺の母さんが」
涙目のフェリーを少しなでる。それにしても母さんの手に持っている人形へ言った言葉が少し気になった。
「人形が死んだってどういうこと?」
「これは『創造の編み棒』で作られた人形でしょう。そしてきっとこの先にはワタチの知り合いがいます」
母さんの知り合い?
「はい。初めに言っておくとすでにその方は亡くなっているでしょう」
え、つまり……そういうこと?
「正直この先に編み棒はありませんし、リエンが付きそう必用もありません。戻って良いですよ? 見ていて楽しい物ではありませんからね」
「あー、できればそうしたいけど……」
んー、その人って編み棒の持ち主だったんだよね。これからそれを回収するわけだし……。
「いや、行くよ」
「「(……)行くの!?」」
あ、二人は反対なんだ。
「シャルロットとパムレは出入口で待ってて「(……)そうする」良いから俺はって返事早いな! もう行ったよ!」
「ふふ。さすがに人が亡くなった姿は見たくないでしょうからね」
そう言って母さんはてくてくと歩いていた。
「母さんは抵抗が無いの?」
「ふむ。ワタチはそういう現場をありえないほど見ました。と言っても、もちろん抵抗はあります。ですが、現実逃避をしては前に進めないと思うのですよ」
そして扉を開けた。
俺も勇気を振り絞って部屋の中を……。
「ん? 何も無い?」
「あれ? 何も無い!?」
え、母さんも予想外だったの?
「か、母さん。あの……すっごい自身満々で『この先には~』って言ってたけど、あれは」
「言わないで! その、ワタチだって時に予想が外れることも」
「何よ。なんも無いじゃない」
「……フーリエは時々早とちりする。まったくもー」
「なんで二人まで戻ってきてるんですか!」
『面白そうじゃったから我が呼んだ』
『ご主人の母とは言え悪魔。一矢報いー』
みるみる母さんの顔が真っ赤になっていく。
と、そこへ。
『あら、『寒がり店主の休憩所』の店主さん? すごい、なんで生きてるの?』
声が……聞こえちゃった。
「「『『(……)ぎゃああああああ!』』」」
いやいや、人間二人が驚くならわかるけど、精霊二人が驚くのは変でしょ!
「その声は『ペシア』様ですか?」
すると薄暗い奥の方から小さな人形のような物がふわりふわりと~
「無理無理無理無理! リエン早く聖術! 消そう!」
「……パムレが全力で吹っ飛ばす」
『我がここらを凍らせよう』
『ウチが爆破させて』
「落ち着こう!」
とりあえず全員にチョップ。
『ふふ。なかなか面白いお客さん。店主さんのお友達? 私はぺシアよ』
「まさかこのふわふわ浮いている人形が?」
茶色の髪の小さな女の子の人形。目には硝子玉が付けてありとても可愛らしい。
「そういうことですか。まさか編み棒で『自分を作ったのですか』?」
自分を……作った?
『正確には自分の記憶を保持した人形よ。だから細かいことを言うと店主さんとは初めましてでもあるの』
ちっちゃい精霊二体と会話している身としては結構見慣れた光景だが、表情がわからないというのは不便だな。
「何故自分の人形を?」
『理由は簡単。命を狙われたから』
「命を?」
『そう。だから自分を作って、ここの町の一番強い人に編み棒を託したの。その後は人間の私は殺されちゃったけどね』
「そうでしたか……」
自分の分身を残した……という事なのか、でも母さんと違って記憶を持っているだけだから別人でもあるんだよね。どういう気持ちなのだろう。
「実はその編み棒はミッドガルフ貿易国の誰かの手に渡ったそうなのです」
『そう……でしたか。あれは不思議な道具としか認識していません。きっと高値で売れたでしょう』
「『創造の編み棒』という名前しかわかりません。何か特徴を教えてくれませんか?」
『もちろん。あれは……』
☆
店を出て、少し沈黙が続いた。
「母さん、久々の再会なのに、もう少し残らなくて良いの?」
「はい。いずれあそこにワタチの店を建てるので……間違えました。ワタチの店にしようかと交渉するので」
今完全に乗っ取ろうとしたよね?
相手は人形だからって容赦無くない?
「それよりもペシア様の話が少し気になりました」
「命を狙われたってところね? 一体誰かしら?」
と、そこへパムレがぼそっと言葉を発した。
「……レイジ」
小さくて聞き逃しそうだったけど、おそらく名前だろう。
「きっと彼でしょう。ワタチと同じくドッペルゲンガーの『レイジ』。おそらく今回の秘宝を狙う悪者というのは彼でしょう」
その言葉はなぜか重みを感じた。
レイジ……一体何者だ?




