砂の地3
翌朝。
青い空。白い雲。
あたり広がる砂の土地。
「ぎもぢわるいー」
そして目の前で体調不良を訴える女の子。
「パムレの『魔力譲渡』で回復したんじゃないの?」
「……シャルロットの魔力は凄く複雑。原初の魔力『音』も体内に秘めているから、手軽に回復できなかった。人間の魔力に関してはパムレが補ったけど、他は本人の問題」
「どうすればいいの?」
「……んー、魔力は心の力でもある。シャルロットが喜ぶ何かをすれば……」
☆
『で、何故我らが捕まってるのじゃ!? で……出れぬ! なんじゃこの怪力は!』
『お姉ちゃん! すごく痛いよー! でもこの人間なんでこんなに喜んでるの!? というか普通にすごい怪力なんだけどー!』
「ああああああ! 可愛いに囲まれてすごく幸せ! もうこのままずっとこうしていたい!」
ということで、セシリーとフェリーにはシャルロットのおもちゃとして今日一日くっついてもらうことになった。
ちなみにパムレに関しては調査に支障が出るため抱っこはあきらめてもらった。
母さんは万が一も考えて氷の小屋で待機してもらうことになった。というか、他の店の母さんを制御しないといけないらしい。
『ご主人! それを言うならウチを自由にした方が調査は楽だと思うよー! 選択間違ってないー!?』
「……だ、大丈夫。パムレはフェリーの考えを読み取れば問題解決」
『そんな精霊の考えを読み取ることができるという規格外能力をこんなところで使うって絶対変よー!』
必死に逃げようとするも、がっしりと捕まって出れない。
というか、両腕に精霊を抱え込んで歩く姿はまるで狩人が獲物を確保して両腕にそれぞれ獲物を抱えている姿にしか見えない。後姿は凄く男らしいよ……。
『あ、あそこがベリ』
「……リエン。あそこがベリルの集まる場所らしい。フェリーがそう言ってる」
『本当に心を読んだー!? ご主人の周辺ってどうなってるのー!?』
いつものことではあるが、パムレは規格外ということをしっかりと忘れないようにしないと危険かもしれないなー。
「ん、わかった」
なかなか大きな建物。集会所といったところだろうか。
コンコンとドアをノックして、中に入るー
キイン!
咄嗟に何かが迫った気がして短剣を構えたら、何かからの攻撃を防いでいた。
「ひゅー。今のを防ぐの? 結構強いね」
「な、なんですかこれは?」
「ここは無法地帯。金目の物を持つ相手が目の前にいれば手に入れる。見たところその短剣はなかなかの代物だな。貰っていくぜ」
鋭い剣の攻撃が三回迫る。
「はあっ!」
何とかそれを防ぎ、空いた左手を突き出す。
「おっと、武術か?」
「『魔球』!」
「なっ! があ!」
ゴッと鈍い音を立てて、相手を吹き飛ばす。
単純な魔力を固めて飛ばす『魔球』は、衝撃しか与えない技ではあるが、こういうときには使える。
「貴様……今の技は!?」
相手の質問に答える義理は無い。今は少しでも優位に立つことを考える。
「せえい!」
相手を思いっきり押し倒し、剣を首につける。
「がっ!」
「お見事」
少し離れた場所から声が聞こえた。
「俺の顔に免じてそいつの命は助けてやってくれ」
「貴方の名前は?」
「ベリルだ」
数か月剃っていないと思われる長いひげの生えた大男。この男が一番強いと思われる男か。
「ガラン王国のシャルロット・ガランよ」
「……三大魔術師のマオ」
『氷の精霊セシリーじゃ』
『火の精霊で、今はフェリーとなった。三日ぶりー』
「俺に免じてもそいつの命は助からないかもな……」
「ちょ、兄貴!?」
いやいや! 何皆自己紹介し始めちゃってるの!?
パムレに関しては普段名前を出さないのに、突然言うから驚いたよ!
「孤立した地域ではあるが、それでも有名な奴らが勢ぞろいか……おい火の精霊、もしやここはもう無くなるのか?」
『んー、それはベリル次第。知っていたらで良いんだけど、この人達はある物を探しているんだー』
「ある物?」
俺は拘束していた男を開放して、話し始めた。
「『創造の編み棒』。ミルダ大陸の秘宝の一つだ」
「ほほう、なかなか面白い質問だ」
『知ってるー?』
「ああ。知ってるとも。だが、ただで教えるとでも?」
男はにやりと笑った。
「そいつが俺に手合わせで勝てたら良いぜ? もし負けたらそこの嬢ちゃんは俺の仲間になってもらうがな!」
☆
ということで、なかなか困った状況になってしまった。
相手は俺よりも体格の大きい大男。一方で俺は見習い剣士。どう見ても分が悪い。
「あのー提案なんだけど」
「なんだ?」
「パムレ(マオ)が相手じゃだめ?」
「駄目に決まってんだろ。常識的に考えろ俺がこの世から消えるだろうが」
「情報が消えるのは困るな……じゃあそっちの金髪の女子はダメ?」
「万が一怪我をさせたら大陸から犯罪者扱いを受けて終身刑になりかけん。お前が相手だ諦めろ!」
くっ!
俺の最後のあがきは駄目だったか。
「リエーン。マジで頑張りなさいー。負けたら店主殿から究極の呪いを教わってリエンにかけるから!」
「……パムレの知る限りの呪いなら教えようか?」
「本当!? じゃあ今から」
「教えないでよ! がんばるから!」
外野は楽しそうだなー。
と。
「何よそ見してやがる。試合は始まってるぞ?」
「!?」
シュン!
拳が顔に飛んできた。反射的に避けることができたが、ぎりぎりだ。
「ほう。避けるか」
「ぐっ! てええい!」
ガラン剣術の基本技『三連撃』を繰り出すも、避けられてしまう。
「わかりやすい動きだな。どこかの国の剣術か?」
見破られてしまう。それどころか、軽い拳が俺に何回も当たってくる。
「ほらほら、負けちまうぞー? へへ、ここは弱肉強食。そういう地域だからな!」
「くそおおおおおおおおおおおおおお!」
そして、俺は禁断の……。
「『プッシュ・グラビティ』『火球』『火球』『獄炎』『獄炎』『獄炎』あ、最近覚えた『氷爪』『氷爪』『氷爪』!」
「ぬおおおおおおおおあああああああああああああ!?」
ばああああああああああああああああああああああああああん!
悔しいな……。なんとも悔しい。
剣を頑張って特訓しているけれど、まだまだ修行不足というのが身に染みてわかったよ。
「ベリルさん。ありがとう。俺の剣はまだまだなんだね」
「来るなあああああああああ! そんな力を出し惜しみして楽しかったかこの悪魔がああああああああああああ!」
どうやら俺は一人の男にトラウマを植え付けちゃったみたい。




