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砂の地2

 目の見えない母さんはとりあえず少しの間我慢してもらいつつ、お兄さんたちの案内を続行。

 お兄さんたちの案内についていたら、目の前にガラの悪い集団が現れた。

「こんなところに男が一人と他女だけで来るとは、カモにしか思えないな。おいお前、まるで案内人みたいに情けない姿をして何してやがる」

 少し太っている男一人に、細身の男五人。後ろには……女性?

「リエン、気をつけなさい」

「え、実は強そうな何かを感じ取ったの?」



「店主殿を一発で『女性』と見抜く男よ。かなりの手練れよ」



 いや確かに母さんは布をぐるぐる巻きにして目しか外に出てないけど、百歩譲って子供くらいには思うでしょ!

 と、後ろの女性が前に出てきた。

「頭が痛むわー。一体何用かしらー?」

 赤髪の女性。その瞳は炎のように赤く輝いていた。母さんの目とは少し違う種類である。

「火の精霊、この人たちがあなたに会いたいと」

 この人が火の精霊? 反射的にセシリーを見たら、首を縦に振った。

「ふーん。何用かしら?」

 そこでシャルロットが話し始めた。

「二本の棒を探しているの。編み棒って呼ばれる類のものなんだけど、知らないかしら?」

「へー。情報が欲しいの? ここは楽園砂の地。情報を得るには何かを支払うか力ずくで奪うかよー?」

 にやりと不気味に笑みを浮かべる火の精霊。

 その間にシャルロットは杖を構えた。俺もすかさず短剣に手を置いた。

「ここはワタチに任せてください」

「母さん?」

 母さんが俺の手を放して少し前に歩き出す。

「でも母さん、目が」

「大丈夫です」

 目が見えないはずなのに、俺の方を向く。そして口元の布を少しだけ下げて、舌を出した。


「精霊の魔力ほど香しくわかりやすいものは無いですから」


 ☆


『編み棒の場所は知らないよー。もしかしたらここに住む人間が持ってるかもしれないけどウチはわからないー』

「そうか」

『というかなんだよー。布を巻いた変な人間だと思ったら悪魔だしー、隣のそいつは人間の中で怪物のマオじゃんよー! それに氷の精霊ってどんな面子よー。やーりーなーおーしー』



 俺たちは現在火の精霊の家で『ちっちゃくなった』火の精霊とお話していた。

「というか母さんやりすぎ。魔力吸ったでしょ!」

 そう言って、隣で苦笑する母さんに話しかけた。

「いやー。精霊の魔力が流れ込んできたので、抑えていた感情(食欲)があふれちゃいますね」

「あふれちゃいますねじゃないよ! しかも魔力を吸う際に悪魔術使ったでしょ! おかげでセシリーが腰痛で倒れちゃったよ!」

『リエン様よ……人間が老いたときの感情とはこのことなのかの? 我今めっちゃ人間の気持ちがわかるぞ?』

 セシリーは巻き込まれ事故で、大悪魔を目の前にしてその影響を受けて現在絶賛腰痛で倒れている。

 母さんは悪魔の魔力を抑え込むことは可能で、セシリーが近くにいるときは極力気を付けてくれている。しかし悪魔術で召喚した悪魔は加減を知らないからセシリーや火の精霊は現在腰痛で苦しんでいる。何だよ精霊が腰痛で苦しんでいるという単語は!

「ちなみにリエン。一つ良いかしら?」

 真剣な顔で俺に話しかけるシャルロット。


「すっごくあの火の精霊を抱っこ「却下」したいんだけど、ちょっとまだ言い終わって無いわよ?」


 さっきから目がキラキラしてて手がウズウズしてるから予想できたよ!

「……はっきり言ってこれ以上ちっちゃい人は増えないで欲しい。パムレの専売特許が無くなる」

「パムレちゃんはこのもちもち感が良いのよ! 精霊には無い人間のこの肌触りが!」

「……暑い……」

 あのー、一応この町の代表を前にしているんだからね?

「というかセシリーは火の精霊と知り合いじゃないの?」

『うむ? 知っておるぞ? 今こそツンツンしておるが、昔は常に我の背中に隠れておったな』

『ちょ、お姉ちゃ……』



「「「「(……)お姉ちゃん!?」」」」



 おお、俺・シャルロット・パムレ・母さんの四人が揃った。これは最高記録だ。

「リエン。これはやばいわね。セシリーの妹の火の精霊って破壊力がヤバイわ。どれくらいやばいかと言うと、とにかくやばいわ」

「とりあえず一国の姫らしからぬ言動をやめよう」

 どうしよう。ツッコミが追い付かない。

『こ……こほん。今のは失言ー。別にお姉ちゃ……氷の精霊とは一切関係ないからー!』


「かはっ!」


 おい。シャルロットが口から血を出した(様に見えた)ぞ?

「……なるほど。これが噂のツンデレ。でもやっぱり低身長の人はこれ以上不必要」

 低身長の立ち位置に何故そこまでこだわってるんだよ!

 そもそも母さんもセシリーも火の精霊も(多分)年齢は相当上だろうし、パムレは歴史をたどれば数百歳パムレットパムレットパムレットパムレットうおおおおおおおお!?


「……リエン。今パムレの年齢を考えた?」


「考えてないからこっそり『心情偽装』を使わないでよ! マジで精神崩壊するから!」

 久々に三大魔術師の怖さを思い知ったよ。全人類が唯一自由でいられる場(心の中)ですら侵入して破壊してくるとかやっぱり怖いよ!

「こ……こほん。とりあえずこの町に編み棒があるか確認しても?」

『勝手にしなさいよー。ウチは吸われた魔力を回復するので手一杯だからー』


 ☆


「で、なんで火の精霊はついて来てるの?」

『不本意ながらー、氷の精霊の近くにいた方が回復は早いのー』

 ということで現在シャルロットは右肩にセシリー、左肩に火の精霊を乗せてパムレを抱っこして歩いていた。



「……いや、パムレ必要なくない? むしろすごく恥ずかしい」



 時々パムレの冷静なツッコミが個人的に好きだったりする。

「私は恥ずかしくないから」

「……なんか圧があるから抜け出せない」

 まあシャルロットがご機嫌なら良いかな。

「というか姉妹なのにセシリーはセシリーなのに、火の精霊は『火の精霊』って堅苦しいわね。何か呼び名は無いの?」

『無いわよー。というかお姉ちゃ……氷の精霊は名前ついてるのー?』

「そうよ。せっかくだしリエン、堅苦しいから火の精霊ちゃんと仲良くなりたいから名前つけてよ」

「急だなー。えー、じゃあ『フェリー』で」

『何でもいいわよー。とりあえずそれでー……』

 ん? 名前が無い精霊……?


「『あ』」


 ☆


「リエン」

「はい」

「ワタチはリエンをそこまで無責任な人間に育てた覚えはありませんよ?」

「いや、あれは不可抗力」

「口答えですか?」

「いえ。本当に反省しております」



 完全に忘れてたよ!

 名無しの精霊に名前を付けると契約が成立するんだったよ!

 おかげで人の家(精霊の家だけど)で母さんの前に正座して説教受ける羽目になったよ! というか母さん目見えてるんじゃない!? すっごくしっかり俺を見て説教しているよ!


『じゃが不幸中の幸いじゃぞ? 今の流れで変な名前だったらそれで契約者が死ぬまで生きねばならぬからな』

「……パムレだったら『お菓子探偵ジェノサイドインフェルノ』ってつける」

『心の底からそこの怪物人間じゃなかったことを神に感謝するわー』

 人が説教されているのに後ろでは何楽しく話しているんだか。

「ですが店主殿、もしかして私の声が影響していたのでは?」

「シャルロット様のですか?」

「仲良くなりたいと思いながら名前を付けてって頼んだから、その『音の魔力』ってやつが影響してリエンやフェリーは抵抗できなかったとか」

「ふむ、一理あるかもしれませんね」



「つまり、全力で念じて『私の事はお姉ちゃんと呼んで』と言えば二人は……」



『おおおお!? リエン様よ! こやつやばいぞ! リエン様よりえげつない命令しようとしてるぞ!』

『ご主人ー! ウチの主人になったなら守ってー! これは本気だー!』



「な……慣れろ」



『『ぎゃああああ!』』



「二人とも……オネエチャンッテヨン……


 ☆


 町の中はガラの悪い男が多いため、少し離れた場所で野宿することになった。野宿と言ってもセシリーにお願いして氷で小屋を作ってもらい、パムレには中の温度を適温に変えてもらい、焚火はフェリーに用意してもらった。というか野宿ってもう少し野性味あふれていると思うんだけど……。

 とりあえず今日は何も情報を得ることが無く帰ってきた。強いて言えばシャルロットは強く念じて声を出すと気を失うという情報くらいだろうか。


「……念じすぎて『音の魔力』を極限に使った挙句倒れるって、どれだけ念じたのだろうか。さすがにパムレも心が崩壊するレベルだよ?」

 背筋がぞっとするよ!

 とりあえずシャルロットを背負って帰ってきて布団へ寝かせる。母さんの話だとただの魔力切れらしいから寝れば治るとのこと。まあ母さんがシャルロットの隣にいるし大丈夫だろう。

「……一応パムレも行ってくる。『魔力譲渡』で回復できる」

「おねがいね」

「……ん」

 そう言ってパムレはシャルロットの部屋に行った。



『のうリエン様よ。この空気をどうしてくれようぞ?』

『ご主人ー。暇ー』



 机の上でぴょこぴょこと動く精霊。何だこの平和な世界は。

「そもそも俺たちは『創造の編み棒』を探しに来たんだし、何か手掛かりの一つくらい見つけないと」

『ご主人……ウチとの契約がおまけ扱いにされてそうで怖いから一応言っておくけど―、結構凄い事なんだからねー?』

 まあそうなんだろうけど。

「というかフェリーは何でこんな土地のリーダーやってるの?」

『んー、理由は無いよー? 最初は一人の少年がウチの近くに住みついて、それが増えてってー、やがて大きくなったー。どこから持ってきたかわからない物資とかもあったけどー、ウチにとってはどうでも良かったー』

「実は盗賊を守っていたとしても?」

『ウチにとって盗賊かどうかは関係ないー。悪魔か人間かは流石に意識するけど、人間同士の争いに手を出す義理は無いー。ただ、魔獣だけは共通の敵だからその時だけ戦ってたー』

 実際はこの『砂の地』でそれほど大きな存在感を出していたわけでは無く、住んでいる人が勝手にフェリーを持ち上げていただけなのかな?

「じゃあさ、人間で一番強い人って知ってる?」

『多分ベリルが人間で強いって言ってたかなー。というかその人しか名前覚えてないー』

 となると明日はそのベリルという人に会って、編み棒があるか確認してみるか。

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― 新着の感想 ―
[一言] またリエンハーレム要員が増えた!!www >「……はっきり言ってこれ以上ちっちゃい人は増えないで欲しい。パムレの専売特許が無くなる」 パムレちゃんが危機感を抱いているwww >時々パムレ…
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