砂の地1
未開拓地の一つ『砂の地』。
ミルダ大陸の未開拓地の中でも危険な場所と言われているこの場所は、一般の人はまず行くなと言われている。
ミルダ大陸をこの足で一周したとは言っても、全部安全な道を通っていたから、こういう初めての場所を訪れると世界の広さに驚かされる。
「それにしても母上から危険と言われていた土地に来ることになるとはね」
「シャルロットもここについては知っているの?」
「知識だけね。危険な理由として犯罪を行った人間が集まる場所で、全てにおいて自由だから一部では楽園とも言われているし、凄腕の商人は他よりも稼げるって事で隠れて来ることもあるらしいわね」
魔獣がいるとか悪魔がいるというわけではなく、危険な理由が人間というのもまたなんとも言えないよね。
「というかパムレちゃんは何でここにいたの?」
そういえば母さんが全力で探し当ててここにたどり着いたんだっけ。
「……ミルダから頼まれて、時々様子見をしている。稀に悪魔と契約した人がここに隠れるから」
いや、てっきり『普通では手に入らないお菓子が稀に見つかる』とか言うのかなって期待していたんだけど。
「……リエンはパムレをお菓子魔人だと思ってる? 『心情偽装』でその認識を書き換えてあげようか?」
「ごめん。マジで怖いから許してくれ」
『リエン様よ。仮にぞ? 仮にリエン様がそいつの『心情偽装』を受けたら我にも影響出るからの?』
時々思うけど、セシリーって最初出会った時もう少し威厳あったよね。あとダジャレを言ってたのに契約した瞬間全然言わなくなったし、むしろツッコミに徹底してない?
もしかして契約者に影響するのかな。だとしたらすごく複雑。
と、そこへ。
バン!
何かの破裂音とが鳴り響き、足元の地面が少しえぐられていた。
「なっ!」
「攻撃!?」
「……大丈夫。軌道はずらした」
『うむ。あれくらい容易いのう』
さっきまで頼りなかったのに、一転するのやめない? こっちの身にもなってよ!
「ケッ、まっすぐ飛ばねえ銃を売りつけやがって。あいつ帰ったらしばいてやるか」
「だな。おいお前ら。この先は入場料頂くぜ?」
ガラの悪い連中二人が目の前に現れた。
「……パムレの前に立つとは良い度胸。消し炭にしてくれる」
「どれ……生物の序列を叩き込んでやろう」
パムレはともかくセシリーはお姉さんバージョンになったぞ。
片方は三大魔術師だし、もう片方は精霊だし、実際常人が適う相手では無い。
「おお? 何だ姉ちゃん。急にデカくなって、『まるで精霊だな』」
「!?」
精霊を知ってる?
「お兄さん達? 精霊を知ってるの?」
「あん? 女に囲まれた野郎が突然なんだあ?」
「『獄炎』」
ばああああああああああああああああああああああああああん!
「お兄さん、精霊を知ってるの?」
「「超知ってます。ご案内します」」
ほっ。どうやら見た目ほど怖いお兄さんでは無いみたいだ。
「いやリエン様よ。どう見てもリエン様の方が恐ろしい存在に見えたぞ?」
「母上と言い合ってから精神的に強くなったのかしら? まあその方が剣も教えやすくなるけどね」
「……リエンって怒ると怖い類なんだね。覚えておこう」
何故か皆から冷たい視線を浴びることになった。
☆
少し進むとそこには町があった。その光景に一番最初に驚いたのはパムレだった。
「……なるほど。これは凄い」
「どうしたのパムレちゃん?」
「……広範囲の『認識阻害』。おそらくここは限られた人間しか入れない場所」
魔力は感じていたけど、見た感じミッドガルフ貿易国の商業区くらいの大きさの町だ。この範囲を囲う認識阻害って結構凄いと思うけど。
「では俺たちはここで!」
「いや精霊について」
と言っている間に逃げられてしまった。
「というか突然温度も上がったわね。栄えてはいるけど砂だらけだし、人が住む場所とは言い難いわね」
「……ん、氷属性の魔力を付与してあげる。これで暑さに負けない」
「ありがとうパムレちゃん!」
「おい、今こそ我の出番だったろうに」
うん。セシリーの言いたいことはわかるよ?
「セシリーは俺に付与してよ」
「リエン様の言葉が身に染みるのう。とは言え、ここはちと我に不都合な場所じゃな」
「というと?」
「奴らの言っていた精霊というのはおそらく『火』のヤツじゃ。この暑さと言いこの魔力と言い、あいつ以外考えられん」
同じ精霊同士だし、何か心当たりはあるのかなーとは思っていたけど、やっぱり何かはいるんだね。
「それはとりあえず後回しに考えるとして、今日の宿はどうするの?」
あ。
そういえばここって母さん居ないじゃん!
母さん居ないって単語も意味不明だけどね!
「ちなみにリエン様よ。それについては三つほど案があるのじゃ」
「お、何かな?」
「一つ目は目立たない方法としてこの町の宿を使う。物価がわからぬが、かなり取られるかもしれぬ」
「ほう」
「二つ目は少し離れたところで我が氷の小屋を作ってマオが温度調整をする案じゃな」
「二つ目が今のところ候補として有りね」
シャルロットが目をキラキラ輝かせている。うん、俺も二つ目が良いかなーとは思ってたけど、三つあるって言ってたっけ?
「三つめは?」
セシリーが真横を見る。ん? 何か小さい人みたいなものが座っている?
「そこで人形のごとく座っているリエン様の母上様に野営場所を聞く」
「いるじゃん母さん!」
「ふぉ!? その声はリエンですか!?」
え、何その反応。
「店主殿がいるということはここに宿が?」
「その声はシャルロット様ですね。どうやら全員無事の様で良かったです」
ん? なんか目線が合わないんだけど。
「すみませんリエン。せっかく町と思われる場所に到着したと思いますが、ワタチの手を引いて外に出てくれませんか?」
「どういうこと?」
「どうやら迷子になった時にうっかりこの『認識阻害』の空間に入ったみたいで、記憶の共有が完全でなくなったみたいなんです。今このリエンと話しているワタチは目が見えない状態なんです」
まだ迷子だったの!?
「わ、わかった。とりあえず引っ張るね」
「すみません」
そう言って俺は母さんの手を握る。
『……フーリエ、多分心の中ではうれしいと思ってる』
『微笑ましいわね』
『人間の親子とは不思議なモノじゃな』
なんか後ろで話しているけど無視。
……母さんと手をつないで歩いたの何年ぶりだ?




