神様との再会
……夢の中。
いや、夢と認識できるのはおかしいのだけどね。
『さすがに三度目は慣れたかな?』
「出たな『カンパネ(仮)』さん」
『張本人なのに』
またしても靄がかかって見えない。いや、以前よりも霧が濃い気がする。
「この夢を見ると母さんが嫌がるからできれば会いたくないんだけど」
『そう言わないでよ。僕はギリギリの力を使って出てきているんだよ? でも僕が消えたら世界も消えてしまうからそこは頑張っているのさ』
「わー。トテモソウダイ」
『信じてないねー。とは言え、本当に君が良い方向へ進んでくれて助かったよ』
進む? どういう事かな?
『君はこれから『原初の魔力が込められた秘宝』を探す。その中で一つだけ僕に渡してほしい物があるんだ』
「渡す?」
『『創造の編み棒』。これは僕の親と呼べる存在が唯一作った魔力を込めた道具で、それを探してほしい』
編み棒って単語はどこかで聞き覚えがあるな。確かシャムロエ様が言っていた秘宝の一つだったかな?
『間違っても君の周りの人間や精霊以外の手には渡してはいけない。特にあの元人間には』
「元人間……母さん?」
『君の母親はどっちもいるだろう? ある男がその秘宝を狙っているのさ。さあ、間もなく目が覚めるだろう。頼んだよ』
そんな不思議な夢を見た。
☆
「リエン。朝ですよ。起きてください」
『リエン様の母上様よ。今は近寄らぬ方が良い。こやつ……神なんぞからお願いされておった』
え、セシリーって夢も見れるの?
『だいぶうなされておったからのう。ご主人様の心配をするのは当然じゃな』
「一体どんな事をお願いされたのですか?」
「うーん。ふわっとしか覚えていないけど、『編み棒』を探してほしいって」
「編み棒……ふむ」
そう言って母さんは自分の首に巻いているマフラーを見た。
「母さん、もしかして心当たりでも?」
「だいぶ昔ですよ? ですがこのマフラーは『絶対に寒くならない』という不思議な素材のマフラーなのです。その時の使っていた道具が編み棒だったので……」
なにその万能マフラー。というか使う場所間違ってない? ゲイルド魔術国家の母さんが使えばいいのに。……『ゲイルド魔術国家の母さん』って何だよ!
『うむ、そのアミボーとやらの持ち主はどこに?』
「確かその才能を買われてミッドガルフ貿易国の商人のところへ嫁いだはずです。ただ……」
「ただ?」
「ミッドガルフ貿易国で出会って無いのですよね」
……。
…………ん!
ミッドガルフ貿易国にいる『母さん』とその人が出会って無いということね!
現実離れしている存在だからたまにわからなくなるよ!
と、そこへガチャリと部屋の扉が開いた。そこにはシャルロットとパムレが立っていた。
「……心当たりはある。多分盗賊の巣窟『砂の地』にそれはある」
「行きましょう! 危険かもしれないけど!」
砂の地。名前だけは聞いたことがあるどこの国にも属さない地域。
税金や仕事という概念が無い楽園。とは言われているが、それはあくまで皮肉。実際は盗賊が好き勝手に住んでいる地域で、各国がその地域を囲う様に警備している。
「ワタチとしてはおすすめできないのですが、パムレ様がいるなら」
「……大丈夫。もしものことがあったら破壊する」
ずいぶん物騒だな。
「さあリエン。早速行く準備をしましょう!」
「うん。その前に俺まだ寝間着だから皆出てってくれる?」
☆
ガラン王国から北に向かえばミッドガルフ貿易国。
砂の地はガラン王国から北東に向った場所にある。
途中の分かれ道で北はミッドガルフ貿易国で東は『立ち入り禁止』という看板が置いてあった。
「お客さん、ここまででええんすか?」
「はい。これ、ここまでの運賃よ」
「ありがてえ。じゃあ気を付けてくれよ。ここらは物騒だからな」
「ありがと」
そう言ってここまで乗せてくれた商人と別れる。
「……世界がグルグル。パムレのお腹もグルグル。超簡潔に言うと『キモチワルイ』」
「やっぱり乗り物弱いんだね!」
思った通りのパムレでなんかほっとしてしまった。
「……名案思いついた。シャルロット」
「何ー?」
「……マオの心が落ち着く話を『心を込めて』話して」
と……唐突だな。
「……マオの算段だと『音の魔力』は心に影響する。『安心する話』って念じてお話すればマオのこのキモチワルイ感情も消える」
「うーん、よくわからないけどお話すれば良いのね。わかった」
そう言って近くの椅子くらいの石に座った。
「昔、あるところに一匹の動物がいました。その動物は怪我をしていました。それを見た少女は可哀そうと思い手当をしました。するとあら不思議、その動物は突然人の姿になりました。その人は言いました。『優しい少女、ありがとう。お礼に
へっくち! あ、鼻水が……ちょっと待って、ズズズー。ふう。
お礼に願いをかなえてあげましょう』」
「……待って……人間になった動物が鼻水を出している状況が頭から抜けなくて全然心が安らがない」
うん。正直俺も思った。
『半信半疑じゃったが、まさか本当に『音の魔力』を持っているとはな。まだ上手く使いこなせていないみたいじゃが、いつかその力が必要になるじゃろう』
いつの間にかセシリーが頭の上に乗っていた。
「あれ、鉱石精霊に関しては凄くテンション上がっていたセシリーでも、音の魔力には興味無し?」
『うむ、なんというか音の魔力の神『エル』様は少し苦手なのじゃよ。他の神と違ってその魔力を保持した人間が一生を終えた時、魔力や記憶を吸収するのじゃよ。じゃから会う度に性格が変わっているのじゃよ」
なんだかすごい事を言われている気がするのに、ちっこいから全然頭に入ってこないんだけど。
と、そこへパムレが身を乗り出してセシリーに質問をした。
「……待って。会う度ってどういうこと? セシリーは神に会ってるの?」
『ずいぶん前じゃよ! 苦しいから手を緩めてくれぬか!?」
「そういえば他の神様の名前とかも知ってたよね」
『む? 光の『ヒルメ様』、時間の『クロノ様』、音の『エル様』、鉱石の『アルカンムケイル様』、そして神の……まあ、あやつは名が無かったな」
「……パムレが言うのも変だけど、知りすぎている。それを知っているのはパムレかシャムロエかフーリエくらい」
「え、大叔母様は知っているの?」
「母さんも知ってるの?」
「……『パムレ』かシャムロエかフーリエ……ね?」
「「パムレ(ちゃん)物知りだね!」」
いや別に仲間外れとかにしてないよ。ただ身内が物知りだったことに驚いただけで、そもそもパムレは群を抜いているから。
『我からすればマオの方が知りすぎている。知ったからと言って世界が崩壊するわけでは無いが、『ヤツ』にとっては不都合じゃろうて』
「ヤツ?」
『リエン様が時々夢で会ってる『カンパネ様』じゃよ』
ああ、この世界の神様のことね。俺があった人がそうなのかはわからないけど。
『我が各神を知っているのは偶然じゃよ。もっとも相手は忘れているかもしれぬが、我が住んでいた土地は時々間違って神が落ちてくるんじゃよ』
「……そういう事にしてあげる」
そう言ってパムレは椅子代わりの石から降りた。
「……だいぶ気分も良くなった。シャルロット、一応お礼言っておく。ありがと」
「なんだか後半話についていけなかった気がするけど、良くなって良かったわ」
そして自然な流れでシャルロットはセシリーを抱きかかえて歩き始める。
『うおい! 何故我抱っこされてる!? ナデナデが始まったぞ!? リエン様よ助けてくれぬか!?』
と言ってるが、実際は凄く小さくなったり、身を隠せば良いのにと思ったけど、セシリーって実は優しいところもあるんだなと再認識した旅路だった。




