一般人の抵抗2
翌日。
謁見の間に呼ばれた俺は深呼吸をして目の前の扉の前に立つ。
「あー、リエン殿。一応忠告っすけど、今回は状況が特殊っす。俺から言うのも変っすけど、女王や陛下の顔を立ててあげてください」
「ん? どういうこと?」
イガグリさんが苦笑しながら目の前の扉を開けると、昨日は俺が先に部屋に入り、女王達が後から来る流れだったが、今回は逆で俺が最後に入室らしい。
とりあえずシャーリー女王へ向かって歩き、中央に到着したら膝を
「膝をつく必要はありません。そのままでいてください」
……あー、特別なお客様状態となってしまったみたい。
「リエン殿。昨夜はしっかりとお休みできましたか?」
「とてもおいしいご飯に良い布団。俺にはもったいないおもてなしをありがとうございます」
「満足してくださって良かったです。それでは早速ですが本題となります」
シャーリー女王が俺に近づく。
「長時間に及ぶ会議をしても結論はたどり着きませんでした。正直お手上げです。同時に『我々の』敗北でもあります。私達ガラン王国の上層はリエン殿に頼らないといけない状況。どうかこれをわかってはくださいませんか? もちろん私達はリエン殿が当然引き受けてくれるという前提で話を進めてしまったことは何度でも謝罪致します」
「どうしても俺なんですか?」
「今この大陸で各国の主要人物とつながりのある人物は王族や三大魔術師を除けばおそらくリエン殿だけ。秘宝の情報を集めるには一番適しているのです」
それは薄々感じていた。
力だけではなく、三大魔術師が勢ぞろいした場所に遭遇したり、色々な経験がこの短時間であった。
「そしてシャムロエ様が導いた答えが、『与えるのではなく伺うの』とのこと。リエン殿、貴方はどうすれば秘宝探しをしてくださいますか?」
シャムロエ様を見ると、ゆっくりと頷いた。
ん? なんか目赤くね?
「あ、ちなみにシャムロエ様は昨晩会議中に思考が崩壊して大泣きしました。ガラン史に残る悲劇を生み出したということで本来ならばリ……とある少年が逮捕されるのですが、現在代わりに『ラルト隊長』が牢屋に入ってます」
ラルトたいちょおおおおおおお!
え! 何で!?
「泣いて……無いわよ。ぐすん」
「完全に泣いてるじゃん! え! 俺ってそんなにひどい事言ったの!?」
しかもガラン史に残っちゃう大泣きって何!? 多分それに『ラルト(男性)はガラン王国隊長へ昇格直後、歴史的悲劇(先代女王大泣き事件)の犯人の連帯責任者として逮捕』みたいに書かれるの!?
というか俺の罪の連帯責任の『アレ』ってまだ継続されてるの!?
「はあ。わかりました。『最低条件』を出します」
「希望が見えました。是非言ってください」
「俺の事をよくわかる護衛。あ、ガラン王国剣術を教えてくれる人が良いです。それと凄く強い魔術師も護衛にいたら安心ですね。無理ですか?」
その瞬間、シャムロエ様が涙を乱暴に拭いて、大声で叫んだ。
「今すぐマオを呼びなさい! 場所がわからないなら『寒がり店主の休憩所』の店主に聞きなさい! 急いで! あとシャルロットはリエンの護衛よ!」
☆
「……あのねリエン。パムレはこんな『雑』な呼び出しで再会を望んでいない。もっとこう……危ない場面で颯爽と現れるとかそういう状況での再会を望んでいた」
「うん。まさかこんなに早く会えるとは思わなかったよ」
ゴタゴタはあったが『寒がり店主の休憩所ーガラン王国城下町店』の食堂に俺・シャルロット・パムレの三人が夕ご飯を食べていた。
そこへ母さんが若干疲れた表情で料理を運んできた。
「マオ様はまだ良いじゃないですかワタチは『全ワタチ』を駆使して探していたのですよ? まさか『砂の地』にいるとは思いませんでした」
「……本気のリエンママは凄い。どこにいてもパムレを見つける。でも『パムレットパムレット……』とつぶやきながらパムレのところへはもう来ないで欲しい。幸せの塊りが一瞬だけ恐怖の象徴に思えた」
俺の要望が母さんにまで影響するとは。今度肩たたきしてあげよう。
「で、私もその騒動に巻き込まれたというわけね」
おっと。シャルロットさんは会話に混ざれなくて少しご機嫌斜めの様子。いや、この後話しかけるつもりだったよ?
「秘宝を探す冒険者の護衛兼剣の師匠としてはとても良い選出だと思うけど?」
「まあ事前に聞いてたから良かったけどね」
「へ? リエン、シャルロット様に自分の要望を言っていたのですか?」
「ああ。夕食の時にね。確かに一番は危険が無いタプル村での生活をしたかったけど、超どうしてもその秘宝を探して欲しいということであれば、条件は二つ。一つは延期にされている剣術の本格的な指導をしながら冒険。もう一つはこの大陸一安全な旅をする。我ながら無茶な提案だとは思ったよ?」
「……その条件ってシャルロットを名指ししてるようなもんじゃん。パムレはおまけ扱い。安く見られたものだ」
「一応リエン、忠告しますが、その……男女の関係というのはですね?」
「そういう意味で言ったんじゃ無いよ! そもそも俺だけじゃ他の国……とくにミッドガルフ貿易国は入りにくいからシャルロットが最適だと思ったんだよ!」
「「(……)そういう……意味?」」
「ぬああああああ!」
今ここで反抗期を発動してやろうかと思ったよ!
「ちなみにリエン。貴方に剣術を教えるのは良いけど、一つ条件があるわ」
「ん?」
「一日一回以上パムレちゃんを膝の上、セシリーちゃん(小)を頭の上に乗せて良いかしら?」
「ああ、良いよ」
「『(……)待って(のじゃ)』」
ポンっと現れる小さなセシリー。それを一瞬で捕まえるシャルロット。み……見えなかった。
『リエン様よ。一応我ってすごいのじゃよ? 鉱石精霊は原初の魔力ということで、言ってしまえば『全世界の神』的立ち位置だとすると、我のような後発精霊は『この世界の神』的立ち位置なのじゃぞ?」
「……パムレも一応凄い人っぽい。ほら、なんかすごい集団の三人の内の一人だよ?」
セシリーは頑張って主張しているけど、パムレはもう少し頑張ろう? その『なんかすごい集団』って確かにすごいんだけど、雑すぎて軽く思えるよ?
「分かった。パムレは本人の許しを得てから膝に乗ってもらって。セシリーはご自由に可愛がって」
『リエン様よおおおおおお!』
☆
あっという間の夜。
水を入れたコップに氷を入れて月を眺めていた。
おそらくセシリーもこの状況をどこかで見ているのだろうけど、気を使って出てこないのだろう。いや、もしかしたらいじけているかもしれないかな。
「で、気配を消して母さんは何故俺の部屋に入ってきたの?」
「たまには悪魔っぽく『ヌッ』と登場も良いかなと思いました」
「息子の前に『ヌッ』と登場する母親はきっと母さんだけだよ」
と変なやり取りをしながら母さんも椅子に座った。
「男の子は難しいですね。いや、年頃というべきでしょうか」
「どういうこと?」
「この数週間、リエンの顔を見ればなんとなくわかりました。シャルロット様との旅はとても楽しかった。できることならもう一度旅をしてみたい。でも一人では嫌だ。そんな迷いが顔に出ていましたよ」
「あはは。まるで心を読んでいるみたいだ」
今の母さんは『心情読破』を使えないのに、俺の考えはすぐにわかる。きっとそれが母親なのかなと思っていた。
「そうですよ。母親だからですよ」
「え!?」
「ふっ。リエンの考えなんて手に取るようにわかります。リエン限定ですけどね」
「驚かさないでよ」
実は悪魔でも神術を使える方法が母さんならあるのではなんて思ったよ。
「それで、何か話でもしに来たの?」
「いや、実はリエンには直接関係が無く、でもどこか落ち着ける場所に行く必要があったのです」
え、何か悩みでもあるのかな?
「『フーリエ十二号』が絶賛迷子になってしまって、軌道修正をしてました」
「大問題発生じゃん!」
そうだよね! パムレを探すのに『全母さん(こんな単語二度と使いたくない)』が出動したんだもんね!




