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精霊の森1

 ⭐︎

 

 精霊の森。それはその名の通り精霊が住む森である。

 エルフやノームなどの精霊が住み、自身の縄張りの外には基本的に出ない。そして人間(俺たち)は精霊の森に唯一整備された道を進むことが許されている。

 小さい頃は母さんの召喚する目玉に翼の生えた悪魔の『空腹の小悪魔』が、俺を入れさせないように脅していたけれど、実際は本当に危ない場所らしい。

 というのも、精霊の魔力はとても貴重で、エルフに関しては人間に似ているという理由で奴隷として捕まえる輩も存在するとか。

 そういう歴史があるから、エルフの縄張りに入ったら『許された者以外は排除』らしい。少し成長してからその話を聞いて少しぞっとしたなー。

「シャル様」

「大丈夫。この速度でまっすぐ進むわよ」

「はっ」

 全員が緊張しつつ前へ進む。当然と言えば当然か。



 と言うのも、絶賛遠くから監視されて、何か武器的な物で狙われている最中である。(シャルロット談)



「刺激をさせないようにね。敵だと思われない限りは無害だから」

「うん」

 ちなみにこの道は商人にとって意外にも一番人気の道だったりする。決められた道以外を歩けば危険だが、逆に言えば決められた道を歩けば常にエルフ達から狙われているため、無償の監視がつくとのこと。

 仮に森に住む動物が襲ってきても、遠くから弓で倒してくれる。これは商人を守ったというよりも食料確保という意味の方が大きい。

「でも、周囲の魔力反応はちょっと気になるね」

「リエンは魔力を察知できるの?」

 二人乗りをしているため、俺の独り言は自然と前で馬を操作しているシャルロットに聞こえてしまう。

「うん。魔力を扱うならまず相手の魔力を知れーとの事で、『魔力探知』を覚えさせられたよ」

「うーん、私もいずれ使えるのかしら……むむむ!」

 顔を真っ赤にして何かをしようとしているけど、たぶん息を止めているだけなんだろうな。

 小さい炎を出した時の感覚を掴めれば、きっとすぐに使えるようになるとは思う。

「コツとかはそのうち教えるよ」

「ありがとう」

 今思えば母さんから教えられた技は今後必要になりそうなものばかりだった気がする。

 野宿をするなら火は必要になるだろうし、戦闘となれば『心情読破』や『魔力探知』も有効だろう。


 ……もしかして、こうなることは想定していた?

 いや、まさかね。


 徐々に日が落ちて、少し開けた場所に到着した。

 焚火の跡があり、以前にもここで野宿をした人間がいるということだろう。

 安全とは言いにくいけど、周囲のエルフもいるし、何より。


「シャル様に何かあったらリエン殿が捕まり、連帯責任で私が捕まる。いいか、全力で警備に回れ!」

「「「……はっ!」」」

「今の一瞬の間は何だ!」

 ガラン王国の兵士たちもいるから大丈夫だろう。

「少し気になったんだけど、シャルロットって兵たちからは『シャル様』って呼ばれているんだね」

「ん? ああ、それは偽装よ」

「偽装?」

「こう見えても姫よ。ただ、他の町や村にお忍びで来た時に兵たちから『シャルロット様』なんて呼ばれたらお忍びの意味がないからね」

「なるほど。で、今もそれが続いていると」

 周囲のエルフも考慮して、その名で呼ぶようにという感じか。

「まあ、私としてはそれくらい親し気な感じでも構わないのだけど」

「そうなの?」

「ええ。同年代で、しかもリエンのようにこうして気軽に話しかけてくれるのはとても楽しい。母上はその辺とても厳しいから」

 ガラン王国の女王のことだろう。


「その、大叔母様と母上様という二人の人物がいるけど、どっちが偉いの?」

「そうね。大叔母様の『シャムロエ様』はガラン王国の象徴とも言われているわ」

「じゃあ一番偉いんだ」

「でも、ガラン王国のあらゆる権限を持っているのは母上のシャーリー様なの」

 初めてシャルロットの母親の名前が出てきた気がする。

「勝手な想像だけど、こういうのって一番年上が偉いと思ったよ」

「普通はそうね。でも大叔母様は特別で、実はもう数百歳って聞いてるわ」

 数百!?

 いやいや、人間七十とか八十でもすごいのに『数』百って……え!?

「世代は変わらなければ退化するという大叔母様の言葉から、国の権限は大叔母様以外の者に継承されたの。そして昨年祖母が亡くなってから母上が女王の座に就いたわ」

 なるほど。って簡単にうなずいて良いのだろうか?

 だって数百だよ? 俺も長生きしてみたいよ!

「その、長生きの秘訣って何だろう……」

「え?」

 俺の質問が変だったのか、シャルロットはブッっと口から息を吹き出した。

「ふふ! そんな質問を大叔母様の前でして欲しいわね」

「え、嫌だよ。なんか捕まりそうだし」

「そうね、普通なら不敬罪で捕まるかもね」

 そうそう。



「仮に俺がそれで捕まったらラルト副長が『大叔母様の長生きの秘訣を聞いて不敬罪で捕まった人間の連帯責任』として捕まるんでしょ?」



「……そうね」



『シャル様!? さすがにそれは理不尽では!?』


 すげえ! 結構離れていたのに聞こえてた!

「まあ大叔母様だったらそれくらいの質問も許してくれるわよ」

「そうなの? 結構優しい人なの?」

「ええ。母上はとても厳しく、祖母も王族としての体裁についていつも指導してきて正直辛かったわね。でも大叔母様だけはいつも励ましてくれて味方だった」

 へえ、徐々にどんな生活をしてきたか見えてきたけど、ん?


「いつも味方だったのに魔術を覚えることは反対なんだよね?」


 俺の質問にシャルロットは一瞬黙った。


「そう。それも今まで見たことの無い声色で怒られたわ。優しく怒られたことはあっても、あそこまで殺気立って怒った表情なんて見たことなかったのに」

 悲しい表情をするシャルロット。

「その、理由は聞いたの?」


「教えてはくれなかった。それに、偶然その場に居合わせた母上も珍しく……『珍しく』私を励ましたわ」


 今『珍しく』って二回言ったぞ! しかも強調して言ったぞ!

 今の今までその『母上』ことシャーリー女王様の印象は最悪だったのに、なんか良い印象の起点が登場したよ!

「でも店主殿の息子も一緒に説得に来てくれれば、もしかしたら大叔母様の気持ちも変わるかもしれない!」

「そうだ! そもそもそこだよ!」

「え?」

 少し気になっていた。シャルロットは母さんを知っていてタプル村を訪ねた。十六年生きてきて母さんが有名なんて聞いたことも無い。なのにどうして?


「え、結構有名よ? 店主殿は息子に魔術を教えていて、さらに村の警備も担っているからガラン王国から兵士を常駐しなくて良いということでガラン王国の会議内でも良い村として話題に上がるわね」

「そうなの!? タプル村って実はとても良物件だったの!?」

 いや、他の村事情を知らないから比べられないけど。

 そんなことを思っていたら、村で話しかけてきた若い兵士が近くに来て話しかけてきた。

「そうなんすよ。タプル村は定期的な巡回だけで、新人の訓練にもなるし、店主殿には協力してもらったりして、凄く助かっているんすよ」

「し……知らなかった」

「あ、ちなみに俺が新人の頃、リエン殿は赤子でしたよー」

「俺の事知ってたの!?」

「あ、拙者も知ってた」

「我々も」

「俺も」

「うむ」


「「「かわいかったなーあの頃のリエン殿はー」」」


「やめろー! なんかすごく恥ずかしいから!」


 え、何この羞恥! 実は皆俺の事知ってたとか恥ずかしいんだけど!

「まあ、だいぶ前の話っすから、あの森で見つけたときは顔と名前が一致しなかったっすけどね、あいた!」

 若い兵士の頭を後ろから軽くラルトが叩いた。

「何をヘラヘラとしてる。俺と交代だ」

「はーい、副隊長」

 そう言って若い兵士は少し離れた場所へ行き、代わりにラルトさんが俺たちの近くに来た。こうやって入れ替わって眠気が来ないようにしたり、交代で仮眠を取っているらしい。

「ちなみにラルト……副長も俺を?」

 呼び方間違ってないかな? こういう時どう呼べば良いかわからないんだけど!

「俺は初対面だ。三十年ほど前に訪れたが……いや、何でもない」

 あ、大丈夫みたいだ。

 と言うか、何か隠された?

「それよりも俺たち兵は野宿に慣れている。シャル様もリエン殿も今日はこの辺で休まれてください。明日の道中でシャル様が倒れられたら困ります」

「そうね。今日はこの辺にして寝ま……」


 一瞬、静かになった。


 焚火の音だけが鳴り響き、全員がその場から動かない。


「え、どうし」

「しっ……」


 シャルロットが人差し指を口に当てる。

(先ほどまであった気配が……消えた。シャル様はすぐに馬に乗れる準備を)

(わかった。みんなも)

 意味がわからない。気配って、エルフの事だろうか?

 興味本位で『魔力探知』を使ってみた。

 予想では周囲で俺たちを見張っているエルフたちの反応があるのだろうけど……。


「!」


 この……この黒い感じはっ!


 そう思った瞬間、すさまじい衝撃音が鳴り響いた。

 何か巨大な物体が巨木に衝突した感じだ。

「シャルロット! 魔獣だ!」

「でしょうね! 全員、全力でガラン王国へ向かうわよ!」

「「「はっ!」」」

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