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精霊の森2回目

「リエン殿、ここの足元は小石があるので気を付けてくだされ」

「リエン殿、喉は乾いておりませんか?」

「リエン殿」


 なんだこの好待遇は!

 でも立ち入りることが許された一本道には入ってこない辺り律儀である。

「というかこの際だから母さんについて教えてよ」

『我がその内食卓に出されないかの? その保証は欲しいかのう』

 セシリーは現在俺の頭の上に乗っている状態である。氷の精霊の魔力が風や土の精霊の魔力に干渉しないように最大限の配慮をしているらしい。

「まあ、俺からお願いしたって言うからさ」

『と言われても我もそこまで詳しくないぞ? 巫女が暇つぶしで遊びに来て話してきたことくらいしか記憶に無いしのう』

「巫女ってミルダ様?」

『そうじゃ。あやつは鈴の力で我の精霊術を無効化するからのう。ずいずいと我の領域に入ってしつこく話しかけてきたのじゃよ』

 へー。そんなことがあったのか。

「じゃあ最初の質問。悪魔の母さんは悪魔だからという説明がつくけど、人間の母さんは何で生きてるの?」



『リエン様よ。それこそ我が話して良い事なのか?』



 おお。精霊も空気を読み始めたぞ。

「ほら。長生きの秘訣とか知りたいじゃん。精霊にはわからないかもしれないけど」

『ふむ……まあ、リエン様を信じて言うが、答えは単純ぞ? 巫女と一緒にいるからじゃな』

「ミルダ様と?」

『巫女の持つ鈴は魔力を抑え込む力を持つ。同時にその音を聞き続ければ聞き続けるだけ肉体的な時間が止まる。巫女の近くにはリエン様の母上様がいる。それだけじゃよ』

 すげー納得。

「え、でもずっと音を聞くってことは鈴を鳴らしていないといけないってことでしょ? 腕疲れない?」

『そこは人間の知恵よの。教会は山の上に作られ、風が止まることは無い。鈴はその風で常に揺れ動いているそうじゃぞ』

 へー! そういう事だったんだ。

 じゃあ常にあそこにいないと鈴が止まっちゃうということなんだね。

「でもその鈴って元々母さんが持ってたんだよね?」

『エルフと親密になり当時のエルフの長が渡したとされる鈴。じゃが人間は短命であり世代交代も必要と思ったリエン様の母上様は今の巫女に鈴を引き継いだ。まさかその音が寿命を延ばすとは二人も思っておらんかったろう』

「へえーそれって何年前?」



『確か……あぶな! リエン様よ。母上様から『年齢の件は息子に内緒にしてます。言ったら百年かけて食べます』って言われているのじゃ!』

 おお……危うくおかずが一品追加されるところだった。

「年齢の件はわかったよ。まあ、『ミルダ歴』から考えれば多分母さんは千を超えてるんだろうけど、今更だよね」

 そんな会話をして歩き続けること数時間。

 会話もなくなり淡々と歩き続けて日が沈みかけて来た。

 少し遠くには野営ができそうな広めの場所が見えるし、今日はそこで一日過ごすとしよう。



「あ、リエン。やっと来たわね」

「なんでシャルロットがいるの?」



 いや、一国の姫だよね?

 なんでこんな場所にいるんだよ。

「店主殿から徒歩で来るって言ってたから急ぎ迎えに行ったのよ。そしたらもう出てったと言って急いで来たのよ」

「ちなみに俺もいるっすよ」

 あ、イガグリさんだ。


「お久しぶりです。リエン殿」


 おおー。ラルト副長だー。なんかすっごく睨まれてるんだけど。


「ご機嫌いかがでしょうか。私は不敬罪で美味しい牢屋飯を頂いておりました。聞いた話だと大陸全土の美味しいご飯を食べたとか。いやあ恨めしい」


 完全に俺の事恨んでるじゃん!

 そもそも自分でやらかした罪じゃん! 少し俺も関係しているかもしれないけど!

「ふふ、ラルト。冗談はそれくらいにしてあげて。牢屋も一日だけだったでしょう」

 あ、一日は牢屋にいたんだ。

「というかリエン、ここってもうガラン王国城まですぐよ? どうやってこんな早く来たの?」

「あー、途中まで氷妖精に乗ってきたんだ」

「氷妖精?」

 あー、ここだと他の精霊の魔力に影響するかな?

『我の様に小さい状態ならさほど影響受けんじゃろ。出すぞ』

「ほい」


 ぽんっと小さな犬の精霊が出てき


「きゃああああああああ! なにこれなにこれ可愛いわね! これもう一生出してて!」


 おいおい、俺の心の説明を切らないでくれる?

『クウン?』

「というかこれに乗ってきたの?」

「ここだと大きな力は使えないから小さいんだ。本当はもっと大きいよ」

「何それ何それ! 森を出たら最優先事項で見せなさい」

「はいはい」

 というか出している間俺の魔力がどんどん奪われていくんだけどね。



「あ、セシリーもこっちを堪能したら私の膝に来なさい。姫の命令」


『ふざけるでない! これを恐れてそれを召喚したんじゃぞ!』



 召喚の権利はセシリーでも、魔力は俺という謎の現象も話し合う必要がありそうだ。


 ☆


「改めて久しぶり。本当はタプル村で店主殿も交えてお話もしたかったけど」

「いや、ガラン王国にもいるでしょう」

「うーん。そうなんだけど、ガラン王国の店主殿ってリエンがいないと元気が無いのよ」

「そうなの?」



『いやそうじゃろう。大陸中の同一人物と記憶を共有していたら、制御するだけでも難しいじゃろうて』



 すっごいまともなことを言ってるのに、シャルロットの膝の上でナデナデされているセシリー。

 言われてみれば確かに。大陸中に目があるとは言って長けど、手足の動きや会話も共有しているんだよね。

「つまり俺の前の母さんは結構集中して接してくれてるのかな?」

「ふふ、良い母親じゃない。それだったら納得ね。それよりも周囲の気配がすっごく多いんだけど、リエンなにかやらかした?」

「ああ、エルフたちだから気にしないで。シャルロットが来たから気配を消し始めたけど」

『認識阻害』を使っているのか、俺からは全くわからないけどね。

「ラルト副長もお元気そうで」

「あ、ラルトは隊長に昇格したわよ」

「え! そうなんだ。失礼しました」

「いや、むしろこの罪を背負っても認めてくださるシャル様に感謝です」

「じゃあイガグリさんは」

「副長っす。給料凄いっすよー」



「へえー。ん? じゃあシャルロットって『無職』?」



「一応言うけど『姫』よ?」



 そういえばそうじゃん。

 何なら今の会話で牢屋行きもあるよね。

「相変わらずで良かったわ。同年代でこうして普通に接してくれるのはリエンくらいだから。あとはポーラね」

「ポーラ?」

 ゲイルド魔術国家の姫だけど、こっちに来たのかな?

「ガラン王国とゲイルド魔術国家間の資材の運搬で、私とポーラの手紙のやり取りを入れてるのよ。内容はくだらないものだけど、重要書類もきちんと届けられるかという試運転も兼ねているの」

「へえ。ちなみにどんな会話をしてるの?」

「自慢話がほとんど。今日は試験で満点だったとか、ミルダ様の家でお茶を飲んだとか」

「楽しそうで何よりだね」

 なんだか俺とは住む世界は全く異なるけど、やっていることは同世代の女の子同士のやり取りみたいでほっこりする。

「シャル様。そろそろお休みください。これからさらに忙しくなると予想されるので」

「そう……だね」


 実はこの時、俺はまだすべてを納得していなかった。

 そしてこの後、俺は自分の正直な気持ちをぶつける。そう心に決めていたのだった。

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[一言] >おいおい、俺の心の説明を切らないでくれる? wwww
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